大盤解説

囲碁や将棋を趣味とする方は,プロの対局を生中継で解説する,いわゆる大盤解説をご存知だろう.プロ同士が誇りと生活をかけた戦いを,生で,やはりプロの解説で堪能する.素人同士のへぼ将棋や,自分で本で勉強するより,ずっといい勉強になる.何しろプロの思考回路が,そのままわかるからだ.生中継ではなくても,新聞の囲碁将棋欄では,さまざまな対局のすべての手順が公開され,解説されている.これを毎回楽しみにしている読者も多い.

素人の楽しみだけではない.そもそも対局をするプロが勉強する時の材料が,過去の棋譜なのだ.

だったら,臨床医学の分野,特に初診の病歴聴取と診察場面で,大盤解説やったらどうなの?臨床医が腕を磨くのにもってこいじゃないの?初診の診察は,その都度,何のシナリオもない真剣勝負だ.囲碁や将棋のプロの対局は対局者の生活がかかっているが,こちとら,生活ばかりじゃなく,人の命もかかっている.だったら,余計に大盤解説を普及させて,命を守る知識や技術の向上を図るべきでしょ.どんなにいい勉強になることだろう.

実際に外科では,ライブ中継を大勢で見ながら検討会をやる.→Challengers' Live Demonstrations.それを内科の診察でやってもいいじゃないか.

幸いなことに大盤解説は全く金がかからない.診察場面をビデオに記録して,それをあとで再生しながら解説すればいいだけだ.途中で適当なところで止めて,解説を加えればいい.主訴を聞いてどんな鑑別診断を思い浮かべるか,既往歴ではどんなことをチェックすべきか,病歴を聞いていく過程でどんな疾患を除外し,どんな疾患が新たに浮かび上がってくるか,それを鑑別するためにはどんな身体所見をチェックすべきか.時間の制限と所見の価値を考えて,どの診察項目を除外すべきか・・・,教科書では決して学ぶことのできない,その場その場でのリアルタイムの判断過程,我々が日常やっている臨床決断のプロセスが赤裸々な形となって,プロの集団の前に晒される.

それが今までなかったのは,次の原因がある.
1.互いに批判し,議論しあうことへのためらい:権威主義
2.患者の個人情報への配慮

2の問題はインフォームド・コンセントをしっかりすることによって十分クリアできる.1の問題についても,より質の高い診療を目指して議論する医者の集まりで大盤解説をすれば,権威主義など簡単にすっ飛んでしまうだろう.となれば,診察の大盤解説はすぐにでも可能だ.だからすぐやります.

2003年7月5日と6日の2日間にわたって,メネット広島主催の勉強会で,主に神経内科で出会う訴えの初診の患者さんについて,ビデオ録画による大盤解説をやります.それがうまく行けば(技術的な改善点は浮かんでくるでしょうが,大盤解説そのものは失敗するはずがないと思っています),いろいろなところでやりましょう.

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