患者申し出人体実験~その2~

こういうことになるのは目に見えている.それでもやりたいって奴は勝手にやってくれっての.あほくさ!!!
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「同意書あっても説明不十分」と判断、再生医療 病院側に184万円の賠償命令、東京地裁判決 M3.com レポート 2015年5月29日(金)配信高橋直純(m3.com編集部)

  脂肪由来の幹細胞を使った「再生医療」の実施に当たって、十分な説明がなく、かえって症状が悪化したとして70歳の女性が、東京都内の診療所(美容外科) の院長と担当医(当時)に634万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(森冨義明裁判長)は5月15日、院長らに184万円の支払いを命じた。病院側は 説明を尽くし、「私の自由意思に基づき本治療を受けることに同意します」とする同意書に署名を取っていると主張したが、裁判所は「説明義務が尽くされたと は言えない」と判断した。医療水準として未確立であることが多い自由診療において、裁判所はどのような説明を求めているのか。判決文を詳報する。

■事案の概要
  原告は兵庫県内の70歳の女性。慢性腎不全の既往症があり、2007年に中国で腎移植を受けた。その後は県内の大学病院で免疫抑制治療を受けていた。 2012年5月に、口角のしわを除去するための名古屋市内の美容外科を受診し、本裁判の被告A医師の診察を受けた。その際、女性が長年に渡ってしびれで苦 しんでいると訴えたことから、(1)幹細胞治療によりしびれ症状の改善の可能性がある、(2)車いすの男性が治療により歩行可能になった事例がある、 (3)A医師が勤務している東京都内の診療所で受けることができる――と説明した。

 女性は同年6月に診療所を訪れ、A医師の診察を受け た。血液検査の結果、B型肝炎ウイルス感染が判明したことから、後日、A医師は電話で報告するとともに(1)原告から採取した体性幹細胞を培養して投与す ること(自家幹細胞治療)はできないが、第三者から採取したものを投与する(他家幹細胞治療)は可能である、(2)女性宅に赴いて、他家幹細胞治療を実施 することなどを説明し、女性の同意を得た。治療費は134万1186円だった。
7月に女性宅で、細胞製剤が点滴投与された。治療の前には、女性は 「私は・・・事前説明書に基づいて説明を受け、その内容を十分に理解し、納得しました」「その結果、私の自由意思に基づき本治療を受けることに同意しま す」との記載のある同意書に署名をしている。その後、しびれ症状は改善せず、女性はむしろ悪化していると主張している。

説明不十分で自己決定権侵害

■女性の主張
  女性側は治療に際しては、幹細胞治療の内容、利害得失、過去の実績、予後、既往症に対する影響だけでなく、動物実験において幹細胞の投与により肺塞栓症が 出現する危険性があることが指摘されていることや、幹細胞治療を受けた患者が肺塞栓症で死亡した事例があることを説明する義務があったと主張。

 また、診療所が研究機関と共同で再生医療の研究を行っているかのような記載のある冊子や、幹細胞治療は臨床試験済みで安全性は確実である、腎移植歴を有する原告に他家幹細胞治療をしても固有の危険性はないなどした説明は虚偽だったと訴えた。

 十分な説明をせず、虚偽の説明をするなどした結果、治療を受けるか否かを熟慮し決定する機会を侵害したとして、治療費134万1186円に加えて、慰謝料500万円を求めた。

「十分説明しても治療選んだはず」

■病院側の主張

 一方で、A医師は

臨床試験を行っている段階で、未確立の療法である
採取した幹細胞を培養し、脂肪細胞を除去した上で、点滴投与する
幹細胞は分化能を有し、自然治癒力を向上させる効果を期待し得る
協力関係にある診療所での臨床試験では一定程度の自然治癒力を向上させる効果が確認されたものの、期待する効果が得られる保証はなく、いかなる効果が得られるかは予測困難である
協力診療所では合併症が出現していない
治療費は極めて高額である
幹細胞治療により原告の症状が改善する可能性も、これが全く奏功しない可能性がある

ことを説明した上で、幹細胞治療の内容や危険性などを記載した資料を渡したと主張。虚偽の説明をした事実はなく、説明義務違反はないと訴えた。

  腎移植による免疫抑制治療を受けていることの影響については、脂肪細胞由来の間葉系幹細胞に免疫原性はほとんどなく、他家幹細胞治療を実施しても免疫構造 に影響を与えないことや拒絶反応が出現する可能性が高まることの医学的知見や症例報告はないことから、説明すべきであったとは言えないとした。

 また、女性は治療への強い動機があり、十分な説明を受けたとしても、治療を受けないとの選択をするとは考えらず、説明義務違反と自己決定権侵害との間に因果関係はない。また、資料を確認せずに漫然と治療を受けたのだから、相応の過失相殺をすべきと訴えた。

事前説明書の内容
・自家幹細胞治療の内容、手順
・考えられる合併症はアナフィラキー反応(呼吸困難、ショック状態など)、肺塞栓などであり、予期し得ない合併症を伴う場合もある
・投与された幹細胞には予期し得ない変化が生じ、組織に悪影響を与える可能性を100%否定することはできないものの、免疫不全マウスを用いた実験では腫瘍化などの異常は一切生じていない
・その他不足の合併症が出現する可能性も零ではなく、その場合には適切な対処をする
・小動物では肺塞栓により死亡した事例があり、人においても少なくとも1例報告がある旨の記載がある

自由診療には特に説明義務がある
■説明義務についての裁判所の判断

 裁判所は本件判決の前提として、過去の判例を基に医師の説明義務を整理した。

医師には、特定の療法を実施するに当たっては、特別の事情がない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名および病状)、実施予定の療法の内容、これに付随する危険性、当該療法を受けた場合と受けない場合の利害得失、予後などについて説明する義務がある。
特に、医療水準として未確立であり自由診療として実施される場合には、患者が、当該療法を受けるか否かにつき熟慮の上判断しうるように、当該療法に付随する危険性、これを受けない場合の利害得失、予後などについて分かりやすく説明する義務を負う。

再生医療は医療水準として確立していない
■再生治療の現状についての裁判所の判断

 また、幹細胞治療(再生医療)については、疾病治療、組織再生などを目的とする臨床研究が行われているほか、美容(豊胸手術、皮膚のしわ除去など)を目的とする自由診療も行われていると整理した上で、再生医療は医療水準として確立するには至っていないと判断した。

説明義務が尽くされたとは言えない
■賠償命令にいたる理路

 本件においては、病院側が治療に当たって危険性、予後などにつき一応の説明があったと認定。その上で、

A医師は女性の疾患(しびれ症状)そのものの診断については説明していない
腎移植歴のある患者に対して他家幹細胞治療を実施したい経験はない
説明書や資料も実施予定の療法を詳細な説明をするものではない(例えば、申込書には「初代培養」「解凍培養」などの記載があるにもかかわらず、説明はされていない)
説明書は自家幹細胞治療にかかわるもので、他家幹細胞の内容や危険性を説明するものでもない
原告が本件説明書の交付を受けたのが治療当日である
再生医療が、医療水準として未確立であるにもかかわらず、免疫不全マウスを用いた実験では腫瘍化などの異常は一切生じていないなどと、療法の安全性を強調するものになっている
肺塞栓症を発症する危険性について口頭で説明していない

などから分かりやすく説明したとは到底言えず、説明義務が尽くされたとは言えないと判断した。

  結論として、A医師には説明義務違反があり、使用者であり、診療契約の当事者であるB院長には不法行為(A、B)および債務不履行(A)があり、賠償責任 があるとした。損害については、A医師が説明義務を尽くしていれば、女性が治療の実施につき同意せずこれを受けなかった高度の蓋然性があり、自己決定権を 侵害されたというべきであると指摘。治療費相当額134万1186円と慰謝料50万円が相当であるとした。

 病院側が主張した、過失相殺については、説明義務が尽くされたとは言えないので、認められないとされた。
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