医者の身分の変遷

医者はいつの時代から偉そうに振舞うようになったのだろう.

わが国では江戸時代までは身分が低かった.最低クラスだっただろう.その理由はなんだろうか.命を助けてくれる職業なら,もうちょっと大事されてもいいようなものだが,要するに役立たずだったから,馬鹿にされていたのではないか.

”病硬膏に入る”とか,”薬石効無く” といった言い回しも,役立たずの言い訳をよく表している.”養生”なんて言葉もそうだ.平素から医者などあてにせず,自己責任で健康管理をして,いよいよ死ぬ時は,”寿命”.

古来より,日本人は,この世の中には,二種類の病気しかないということをよく知っていたんですな.医者の仕事といえば,脈を取って御臨終ですと言って,はいさようなら.これじゃ,死体の始末をしてくれる坊主の方が崇められるのは当然ってもんだ.

この傾向はわが国ばかりではなかった.中世に大学ができた時から,学問には序列があって,一番上が神学で,医学なんか,神学の奴婢と言われた哲学の更に下だもんね.現代ではテレビドラマの主役になる外科医は床屋だったし,内科医だって錬金術師に毛が生えたか抜けたような怪しげな職業だった.なのに医者はいつから偉そうな顔をするようになったのか?いや,そんな過去のことはどうでもいい.

問題なのは,我々が生きている今と将来だ.今では極秘の調合で秘伝の薬を処方するわけでもない.やばい薬だってネットで買い放題だ.外科医だって,ガーゼ一枚置き忘れただけで,業務上過失障害だもんね.そんな世の中で,お医者様という呼び名が永らえるとはとても思えない.畏怖の念で見られていた職業が一夜明ければ石もて追われるようになった特高,憲兵とまではいかなくても,この先も,医者が後ろ指を指されるリスクはどんどん増大する一方だ.

医者が大きな顔をするようになったのは,せいぜいここ50年だ.それ以前は,ごく一部の医者を除いて,社会的にも経済的にも決して恵まれた身分ではなかった.ここ50年とはどんな時代だったろうか.それは国民皆保険の時代である.貧乏人も金持ちも分け隔てなく診てこそ,医者が尊敬されたのである.国民皆保険になってから,医師免許さえ持っていれば,儲けを心配せずに診療できたからこそ,あなたは尊敬された.もし自由診療やりたい放題の世の中になれば,あなたはがりがり亡者の烙印を押され,世間様から相手にされなくなる.だからこそ,国民皆保険制度は,何が何でも守らなければならないのだ.

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