職人とマクドナルド

”マクドナルド化する社会”という本がある.アメリカ医療ではマクドナルド的な要素の占める部分が大きいという印象を持っているのは私だけではないようだ.下記はニューヨークのBeth Israelで働いた経験のある方のコメントである.

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アメリカは、研修制度をはじめ、アホをいかにうまくトレーニングして効率よく使うか、というシステム作りの上手な国だと思いますが、かの国とて、システムを作ったのはほんの一握りの人々で、残りのアホはそんな発想など持っていません。日本人は、民度が高く、個々人がかなりの仕事をこなせるため、「アホ」をいかに使うか、という発想にまでは至らないのが、システム作りが弱いことの原因かもしれません。(逆説的ですね。もちろん、日本人の教育レベルが高いことは誇りに思っています。)
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一方,その方と私の両方が加入しているメーリングリストで次のような議論があった.

>  暗黙知→職人芸→OJT (on the job training)
>  形式知→専門職→Off-JT (off the job training)
>
>  日本の中でも暗黙知重視の分野は、基本的に優秀な人材に頼った組織であると思い
> ます。Off-JTの専門教育を受ける人はしばしば現場を知らないということで侮りの対
> 象になります。一方、優秀な弟子という人材に恵まれないと、ワザの伝承はストップ
> してしまいます。
>
>  日本の医療教育が劣っている点は、Off-JTで教えられることも、形式知化すること
> を避けて暗黙知のままOJTで教え込もうとするところにあるのではないでしょうか。

外科ばかりじゃなく、(日本の)神経内科の教育がまさにこれなんですね。大工の職人、秘事口伝の世界。日本舞踊、生花の世界。大したことやっていないのに。暗黙知の部分は確かにあるんですけど、全部が暗黙知じゃない。私の感覚では、8割以上は形式知化できる。ただ、みんなどうやって形式知化したらいいかわからないんです。暗黙知のまま放置しておけば、その世界に安住できるけど、形式知化したら偉そうな顔ができなくなっちゃうってこともある。大したことやってねえのに、偉そうな顔しやがってと思うから、暗黙知の多くが形式知化できることを、地方巡業TV出演で実際に示して、家元さんたちの化けの皮を剥がしてやろうと思っています。

> アメリカで手術を見学していて思ったのは、ローテーションしてきたばかりのフェロー
> の手術では、前立ちのアテンディングがとにかくしゃべりまくるということです。

では、アメリカでは、これがなぜできるかという理由が、地方巡業やTV出演で少しずつわかってきました。まず、嬉しいんです。優秀な若い人たちに、自分が注目してもらっているという嬉しさですね。死にぞこないの家元さんたちには褒めてもらわなくてもいいけど、自分の若かりし頃よりもずっと眼が肥えている若い人たちに評価しもらえるのが嬉しくてしょうがない。親指のIP関節一つでパーキンソン病が診断できると断言した時の彼らの眼の輝きはこたえられません。

それから、自分が伸びていく実感。もう、年を取って、多くの人は自分を批判してくれません。そうすると、ああ、自分はもうお払い箱かと思ってしまいます。でも、学生さんや研修医は違う。あからさまな批判という形ではないけれど、素朴な質問をどんどん出してくれて、自分がこれまでおろそかにしていたことや新しい発見に気づかせてくれる。学生さんや研修医と一緒にいると、彼らに評価してもらえるばかりでなく、自分がもまだまだ伸びる余地があるんだ、まんざら捨てたもんじゃないと思えるのです。

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