困り続けること

私の地方巡業は、厳しい顧客の注文に応える工房の職人にも例えられます。たとえば、”めまい”の話は、臨床に厳しい家庭医療学会の会員向けのセミナーで、 どうしてもめまいの話をしなくてはならない状況に追い込まれて組み立てた作品です。2005年は、まともな作品を作れる自信が全然なくて、頭痛としびれの 話で勘弁してもらったのですが、2006年の秋にはよろしくと言われて、受注せざるを得ませんでした。

2006年の4月末〜5月はじめの連休を使って、これなら何とか行けそうという段階の試作品を作り、それを、はじめは名古屋の亀井道場、次には国立東埼玉 病院のセミナーで試し、何とか使えることを確認して、11月の家庭医療学会に臨みましたが、結果は今一つしっくり来なかったので、家庭医療学会のすぐ後 に、Dix-Hallpikeの動画を取り入れるなどしてバージョンアップを図りました。

”しびれ”の話でも、pure sensory strokeの臨床研究の紹介、高齢者のcryptogenic sensory neuropathyの話といった点で、ケアネットのDVDよりもバージョンアップして、より使いやすい診療道具になっています。これも、実は田坂先生か らの注文 ”お年寄りのしびれで、進行はしなくても、いつも足のしびれを訴える方がたくさんいらして悩ましいですよね” がきっかけでした。

地方巡業は、全国の現場で活躍している臨床にうるさいお客さんの生の声を聴いて、より使いやすい診療ツールを作るためなのです。臨床にうるさいお客さんと いうのは、しばしば若い人です。現場に長くいると、自分独自の診療ツールを作ってしまうので、診療のプロセスには困らなくなってしまうのです。困らなく なってしまうのは、困りますよね。困らなくなるということは、問題意識がなくなるということです。決して問題がなくなったわけではないのに、問題意識がな くなるのは危険極まりないことです。われわれは困り続けなければなりません。困らなくなったらおしまいです。

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