主役不在・顔見せなし

あるバラエティ番組のアシスタントディレクターから連絡をもらいました.ゲスト出演者の妹さんが「筋萎縮症」(ゲスト出演者も診断名は知らない)という話題をネタに番組を作るので,私がネット上で公開している筋病理組織写真の一部を借りて放映したいとのことでした.何度かやりとりして,結局は断りました.下記はそのやり取りの一部です.

-----------------------------------------
私は番組の企画に対し責任を持つ立場にはありません.ですから助言もしません.そこは制作側が考え,責任を負うべきです.
ただ,個人的には,明確な意見を持っています.筋肉の写真も,正しい診断も,正しい情報も,全てどうでもいいことだと思っているのです.○○さん(ゲストの名前)が診断名を知らないのも,それが○○さんにとって本質的な問題ではないからです.
筋肉の写真なんかより、診断名なんかより、病気の知識なんかより,視聴者に伝えるべきもっともっと大切なことがあるのです.それは病を負った本人からのメッセージです.我々医師はそれを頼りに診療しています.患者さんからのメッセージよりも知識を優先する人間に医師はできません.「病を診ずに人を診ろ」という格言はそういう意味です.本人が出演できないのであれば,その代理の人(この番組の場合には○○さん)を通してメッセージをもらえばいいことです.それさえもできないのであれば,番組そのものの存在意義がありません.
-----------------------------------------

患者「様」が主役と言いながら,個人情報保護とかわけのわからないことを言って,顔見せさせない.晴れがましく紹介されるのは,「悪い病気」を「退治する」「名医」として紹介されるお医者さま達だけ.

患者が紹介されるのは,病気を悪,患者は惨めな病人と決めつけ,病気を「克服する」姿が放送される時だけ.

そこには生老病死を成長資源として自らが育ち,同時に医療者も育ていく素敵な患者の姿はありません.

垂れ流されるのは主役不在,顔見せ無しの虚しい映像ばかり.

だから私はテレビジョンの受像機を持っていないのです.

二条河原へ戻る