カルチャースクールの新科目

高齢者の介護は大変だ,寝たきりの老人がいるので大変だ.何とかしろ.そういう声を聞かない日はありません.でも,そんなに年寄りの世話が嫌ですかね,病人の介護が嫌ですかね.あたしゃ毎日それをやってるんですがね.

確かに,一方で仕事を抱えて介護を続けるのは大変でしょう.でも介護自体はむしろ大変面白い仕事です.介護は,芸術であり科学でもあるんです.臨床医学は,芸術と科学の接点にありますが,介護はその臨床のただ中にあるのです.

臨床っていうのは,何も手術着とマスクをつけて無影灯の下だけで演じられるものではなく,救急車と担架の往来の合間だけにあるのでもありません.自ら言葉を発することがなく,体を動かすこともない老女のうんこやおしっこが順調に出ているか,床ずれはないか,そういうことを心配するのも立派な臨床です.

もちろん,大小便のことばかっかりじゃありません.血圧,脈拍,体温の観察は言うに及ばず,呼吸状態,顔色,口の中の粘膜,舌,歯の状態,扁桃腺の腫れ,気管カニューレの具合,それから出てくる痰の色,爪の色,関節の硬さ,お腹の張り具合と音,尿道に入れたカテーテルの状態,尿の色,足のむくみ,動脈の触れ方,水虫の有無まで,毎日観察しなければならない所見は山ほどあります.

そして寝たきりの高齢者にはさまざまな病気が起こってきます.床ずれ,脱水,尿路感染症,肺炎,消化管出血・・.こういった重い病気をいち早く察知するのがわれわれの仕事なのですが,在宅の患者さんの場合には介護する人がこういった仕事をすべてこなしています.経鼻胃管の交換,尿道留置カテーテルの交換も医者以上にうまくなります.呼吸音の聴診だって,細かいことでなければ,誰だってできるのです.

あなた,政治家に憧れたことはなくても,お医者さんには憧れたことがあるでしょう,介護の仕事をただの下(しも)の世話係と考えるのと,自分の大切な人の主治医と自覚するのでは,天地の差だとは思いませんか.自分が聴診器を使って肺炎の音を捉えるなんて,考えただけでもかっこいいじゃありませんか.

それにしても大切なのは,介護の場面に科学としての臨床を導入することです.全くの素人が,介護に必要な臨床知識や技術を講習できる場を整備しないといけません.

カルチャースクールで聴診器の使い方や尿道留置カテーテルの交換を教えたいなあ.

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