医師の自律:今日からできること

(ACP Amecican College of Physicians日本支部のメーリングリストへの投稿から2010/5/6)

> 経営の心配がない程度の身分保障と十分な経済的保障を医師に担保する事以外には一切の途はないことをわれわれは繰り返し訴え 説得を続けるべきです

上記コメントを頂いて、論点整理をしてみました。経営の心配がない程度の身分保障と十分な経済的保障は全ての医師の要望です.では,なぜ,これまでその要望が大きな声にならなかったのか?その理由を考えてみると、実は、医療現場を知らない政治家、役人、メディアにべったり依存してきた我々の姿が下記のように浮かび上がってきます。

第一に、上記の要望を実現するために、そもそも誰に対して訴え、誰を説得するのでしょうか?政治家?役人?メディア?違います。窓口としてこれらの代理人を使うことはあっても、一般市民、納税者の納得が得られなければ何も実現しません。でも、どうやって一般市民、納税者の納得を得るか?その戦略がなければ、これまで通り、「現場を知らない」政治家、役人、メディアを、「役立たず」と攻撃するだけに終わるでしょう。現場を知らない彼らが、我々以上の働きができるはずがないのに。その戦略につながるのが、次に述べる第二の点です。

第二に、一般市民に対して上記の要求をすれば、下記に列挙する課題が自分たちに跳ね返ってくることを、我々は懸念しています。これらの点でも、我々は、医療現場を知らない政治家、役人、メディアを、弾避けに使っています。我々一人一人が彼らを弾避けに使うのを止めて、1,2,3の各点を意識し、一般市民に対して説明責任を果たし、行動していけば、ついにはそれが投票行動のように大きな流れになって、経営の心配がない程度の身分保障と十分な経済的保障を勝ち取ることができます。

1.上記の要望の背景には、医師の本来業務以外のことに煩わされたくないという思いがあります.すると医師の本来業務とは何かが問われます.その解釈については、個人個人で差があると思いますが,上記の要望を実現するためには、その個人差を乗り越えて,(政治家、役人、メディアではなく!)プロフェッショナルの集団が,医師の本来業務とはこれこれこういうものであると定義、提示する必要があります.

2.このように,医師の本来業務を定義したら,次に、それ以外の仕事を誰に任せるのかが問われます。押しつけるのではありません。任せるのです。多くの仕事を抱え込もうとしがちな我々(日本人?)医師の性質に抗して、権限委譲empowermentを行うことになります.これは医師以外のhealth
care worker,果ては一般市民のリテラシーの育成につながるのですが,そのempowermentの度胸を我々が示せるかが問われます.

3.そして,最後に,最も大切なことは,経営の心配がない程度の身分保障と十分な経済的保障経済的保障が担保されることによって,一般市民に対して、我々は何が提供できるのかが問われます。
食べていくだけの収入が確保されて、身分が保障されて,もっと時間の余裕があれば,有意義な活動ができる!そんな我々の申し出に対して、その有意義な活動とは何なのか?プロフェッショナルの集団として何が実践できるのか?その説明責任を果たし、納税者に納得してもらえなければ、我々は、経営の心配がない程度の身分保障と十分な経済的保障経済的保障を勝ち取ることはできません。

1,2に関しては、具体例として看護師や薬剤師へのempowermentの動きがあります。また、診療報酬・支払基金関連の対応事務や、労務管理のempowermentも必要でしょう。3については、これまた実にいろいろな非常に面白い仕事がありますが、その一例として、ドラッグラグの解消があります。ドラッグラグは、我々が「現場を知らない」規制当局(厚労省・PMDA)に、新薬のリスク・ベネフィットの判断をべったり依存してしまっていることによって生じています。

我々が規制当局依存せずに、FDAの承認した薬のリスク・ベネフィットの判断を我々が現場で引き受ければ、ドラッグラグは、今日からその場で解消します。厚労省にお願いする仰々しい会議なぞ、一切不要です。具体的には武見太郎先生が適応外使用について出させた55年通知をFDAの承認した薬についても認めさせることになりますが、それも決して特別なことではありません。タイ、フィリピン、韓国、中国、シンガポール、台湾・・・日本以外のアジアの国々の医師がみんなやっていることです。我々ができないわけがないのです。

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