日本語翻訳作業の難しさ

たとえば、「キ ミじゃなきゃ、ダメなんだ」(*)と言われた時は用心するがいい。その台詞を裏返すと、「誰もやりたがらないから、お前がやれ」と書 いてあるかもしれないからだ。

「キミじゃなきゃ、ダメなんだ」という言葉を「私はあなたの素晴らしさを理解しています。他の人にはないあなたの才能は、この仕事にふさわしいと 私は考えています」と翻訳するのはあたなたの勝手だ。だから、その翻訳がどういう結果をあなたにもたらすかは全てあなたの責任だ。「キミじゃな きゃ、ダメなんだ」と言った人に責任をなすりつけないように。たとえなすりつけようとしても、「お前が勝手に翻訳したんじゃねえか」と言われるだ けだ。

本来なら、「キミじゃなきゃ、ダメなんだ」 と言われないように普段から隙を見せないことが大切なの だが、もし万が一、そう言われてしまったら、決して「余計なお世話だ」と正直 に言ってはならない。にっこり笑って「ありがとうございます。大切なことなのでじっくり考えるため少し時間をください」と返すことだ。その時、相 手が「時間が無いんだ。今すぐに決めろ」と言ったら、しめたもんだ。そいつからもその仕事からもおさらばだ。だって、本当に大切な仕事で、あなた 以外に適任者が いないのだったら待ってくれるはずじゃないか。

「自分にしかできない」と判断するのはあくまで自分であって、決して他者ではない。大切な自分の才能の使い道を、他人の口座に振り込むような真似 しかできない奴には、ろくな仕事しか回ってこない。

知的障害・発達障害者の療育にせよ、PMDAでの新薬審査にせよ、レギュラトリーサイエ ンスに せよ、検察から藪医者呼ばわりされる意見書執筆にせよ、矯 正医官にせよ、私は全て自 分で決めた。「キミじゃなきゃ、ダメなんだ」 なあんて私に言ってくる間抜けな奴は、そもそも私の周囲には存在しない。子供だましが通用する相手じゃない と普段から思わせておくと、つまらない仕事を掴まされず に済むってもんだ。

私は世界中で私しかできない仕事にしか興味はない。私の才能は私以外の人でもできるような仕事のためにあるのではない。私の興味の対象にせよ、私 の才能の使い道にせよ、それは私にしかわからない。レギュラトリーサイエンスの論文や科研費の申請書を書いていると、時々私自身にも自分の才能が どこでどうやって発揮されるのか皆目見当がつなかくなることがあるぐらいだから、ましてや他人にわかるわけがない。

*別に骨髄バンクの営業妨害をしたいではありません。実際に私は登録していましたから。もうこの歳ですからお役御免にはなりましたが。

二条河原へ戻る