10月になると現地は大分暗く,寒くなって,もう冬と感じていらっしゃることでしょう.初めてのスコットランドの冬は,日本海側の気候に慣れた人は別として,ほとんどの日本人にとって,相当こたえます.スコットランドより遅れますが,こちら新潟でも, 12月から翌年の2月末まで,暗く長い冬があります.土地の人も決して慣れたとは言わず,いつも愚痴ばかりです.“ああ嫌だ,また雪”こればっかりです.ここ10年,雪の量はぐっと少なくなり,除雪もしっかりして,車の普及度も高くなり,昔に比べたらずっと楽なのですが,人々の愚痴の量は変わらないようです.
言葉はわからないし,生活のセットアップもなかなかうまくいかないし,せっかく落ち着いたフラットのセントラルヒーティングはしょっちゅう故障するし・・・・こんな体たらくで,この先,こんな暗闇の中で,生きていけるのだろうか・・・そう思っていませんか?だとしたら,あなたはまともです.みんなそう思った経験があるのです.
ここで頑張ろうとか,元気を出さなくちゃと思うと,結局は息切れしますから,ちょいと沈んだ気分が普通なんだと思うことが,2月末までの(!!)暗闇に耐えるこつです.
実際,気持ちが浮つかずに,遊ぶこともないので,勉強や仕事ははかどります.私の場合,(光熱費節約の意味もあって)冬は大学の図書館通いで,毎日閉館まで粘り,本当によく勉強しました.クラシック,ポピュラーともにコンサートが充実していますから,音楽好きの方にもいい季節です.UK/アイルランドの天候がいい方向に働いた証拠の一つに,文学があります.太陽の光が必要な絵画と対照的に,こと作家に関しては,一流の作家・詩人・戯作者が数多く輩出しています.思索に耽って文章を書くのには,あの暗く長い冬が好都合なのだと思います.
時には日本人同士で気楽に集まるのも悪いことではありません.メーリングリストに愚痴を書いたっていいんですよ.暗く長い冬のことは,誰もがよくわかってくれます.
室内の暖房と明かりをきちんと確保さえすれば(これが結構難しいんだが),実は,そんなに悪い季節ではないのです.暖かい紅茶を飲みながら,ゆっくり手紙を書き,本を読む.イースターになったら,もう,うきうきして,部屋でなんかじっとしているわけがないんだから,落ち着いていられるのは今のうち.
冬季に限って発症する季節性のうつ病の患者さんは高緯度地方に多いのです.冬の間,活動度,気分をリセットする(憂鬱になって活動性が落ちても,それを罪悪視せず,環境に適応するための適切な冬眠モードとして認める)ことは,うつ病の患者さんの生活指導に似た点があり,うつ病でなくても,高緯度地方に移住した人や,太平洋側から日本海側へ移り住んだ人に役立つ生活の知恵す.かく言う私も,こちら上越に引っ越してから,当地の晩秋の天候を目の当たりにして,スコットランドの冬を思い出し,冬のリセットモードを脳の奥底から懐かしく引っぱり出してきたのでした.