二つのeGFRを混同しないために
−自動車のエンジンに喩えた解説−

eGFRと言われて,あなたは何を思い出すだろうか?特に混乱を招いていると私が思うのは,慢性腎臓病CKDの重症度分類に用いる標準化 eGFR(体表面積補正 eGFR)と薬物投与設計の指標となる個別 eGFR(体表面積未補正 eGFR)の混同である.

まず,我々の体を乗用車あるいはトラックと考え,腎臓をエンジン,そのエンジンをぞれぞれ異なった側面から評価するのがこれら二つのeGFRであると考えよう.
●標準化 eGFR(CKDの重症度分類で用いる):中古乗用車のエンジン自体の傷みの程度を知る指標=積載重量は考慮せず(腎排泄の薬物投与など考慮せず),乗用車が一般道を普通に走れるかどうかを知る指標.
●個別 eGFR(腎排泄の薬物投与設計に用いる):中古トラックのエンジンの傷みの程度を知る指標=4トン車なら4トンの貨物(腎に負荷をかける=腎排泄の薬を投与する)を乗せてトラックとして走れるかどうかを知る指標.

以下,上記の混同が生まれる背景と,乗用車/トラックの喩えの意味を考えてみる.

まず,用語の整理として,下記に,腎機能を正しく評価するための 10 の鉄則改訂6版(熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター・臨床薬理学分野 平田純生)(2018/9/28アクセス)より転載しておく.
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血清クレアチニン値をもとにした2種類の推算 GFR
1.標準化 eGFR: 体表面積補正 eGFR(mL/min/1.73m2)CKDの重症度分類ではこちらを用いる.算定式に必要なのは血清クレアチニン値,年齢,性別だけ.身長も体重も不要.
2.個別 eGFR: 体表面積未補正 eGFR(mL/min)(固定用量の)薬剤処方の場合にはこちらを用いる.算定式に必要なのは血清クレアチニン値,年齢,性別に加えて身長,体重も必要(*).
*これは,実際に個別に体表面積を算出して,得られた個別体表面積と標準体表面積1.73m2の比に標準化 eGFRを掛けたものが個別 eGFRとなるから -------------------------------------------------------------

ここで最もmisleadingなのが,「体表面積補正・未補正」という言葉である.小柄で痩せている高齢女性に腎排泄の薬剤を投与する場合には,小柄で痩せているから体表面積を考慮しないと,同年齢の中肉中背と同じGFR値に出てしまう=標準化eGFRは個別eGFRより大きな値が出る=標準化eGFRでは過大評価になってしまうから,体表面積を「勘案して」個別化eGFRを用いる.ここで言う「勘案して」とは,個別eGFRを計算する際,その中に変数として(個人の体表面積を計算するために)身長と体重を入れるという作業である.ここで留意すべきは,個別eGFRを計算する際に個人の体表面積を勘案する作業は「補正とは言わない!」ことである.

標準化eGFR計算式の中には,身長と体重は入っていない.なぜなら,標準化eGFRは個別の体表面積の代わりに,1.73m2という標準の体表面積が入っている=標準体表面積で補正してあるからだ.慢性腎臓病CKDの重症度分類で個別eGFRではなく標準化eGFR計算式を用いるのは,「小柄で痩せている」あるいは「大柄で太っている」という要素を,腎臓病であるとの認定と治療介入の決定の判断に持ち込んでいいのか?という素朴な疑問に答えた結果である.

では,なぜ腎排泄の薬剤を投与する場合には個別eGFRを指標にするのか=「小柄で痩せている」あるいは「大柄で太っている」という要素を考慮するのか?それは自明であろう.その薬が腎,ひいては全身に影響を及ぼす可能性があるからだ.腎機能を過大評価すれば副作用が出やすくなる.過小評価すれば有効性が発揮されなくなる.CKDの治療(=腎保護)とアミノグリコシド(=腎機能障害の可能性)の注射とでは,まるきり反対の話なのだから,異なる指標を使うのは当たり前である.

個別eGFRが体表面積未補正となっているのは,個別eGFRにより薬の用量を補正する必要があるからだ.もしこの時に,個別eGFRではなく,標準化eGFRを使えば,既に体表面積で補正してある指標を使って,薬の用量を補正することになり,二重補正となってしまう.

わかった?それとも,まだもやもやしている?あるいはもっと混乱した?いずれにせよ,冒頭の説明に戻ってみよう.

標準化 eGFR中古乗用車のエンジンの傷みの程度を知る指標=積載重量は考慮せず(腎排泄の薬を投与することなど考慮せず),定員が乗って普通に走れるかどうかを知る指標.
個別 eGFR中古トラックのエンジンの傷みの程度を知る指標=4トン車なら4トンの貨物(腎に負荷をかける=腎排泄の薬を投与する)を乗せてトラックとして走れるかどうかを知る指標.

なお,上記の二つのGFRと同様に内因性物質であるクレアチニンを使って算定するクレアチニンクリアランス(CCr)の問題点は次の通りである.

推算 CCr: Cockcroft-Gault(CG)式による推算 CCr(mL/min)
:算定式に必要なのは血清クレアチニン値,年齢,性別に加えて体重が必要.(体表面積は関係ないので身長は不要) CG式によって導き出される推算Ccrの問題点は,太っていれば高く,痩せていれば低くなること.肥満そのものがCKDのリスクとなるのに,その肥満がCcrを高めに見積もってしまうことになる.一方,単位体重あたりの筋肉量が低下する高齢者などでは,体内のクレアチニン量自体が低下する→血清クレアチニンのベース値が低くなる→腎機能が低下しても血清クレアチニンは容易に上昇しない.ということになり,この場合も,腎機能を見過ごすリスクが生じる.CCrの問題点の詳細については,下記の総説(イヌリンクリアランス測定法)を参照されたい.

「目の前の患者さんの何を知りたいのか?その腎機能評価の目的は何か?」で使う指標が違ってくる.患者さんを特定せずに,標準化 eGFR, 個別 eGFR, CCrのどれが一番優れているかという議論は無意味である.

参考:
eGFR/CCrの計算サイト(日本腎臓病薬物療法学会):標準化eGFR,個別eGFR,Cockcroft-Gault(CG)式によるCCr(クレアチニンクリアランス),体表面積(Du Boisの式)が全て一度に計算できる便利なサイト
副作用を防ぐために知っておきたい腎機能の正しい把握法(週刊医学界新聞 第3212号 2017年2月20日)
標準化eGFRと個別化eGFRの違い、理解不足(日経ドラッグインフォメーション 2018年10月9日)
イヌリンクリアランス測定法.モダンメディア 2007; 53(2): 33-39.CCrの問題点をGFRのgold standardであるイヌリンクリアランスと比較して説明している.

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