なぜ医者はひきこもるのか?

多くの医者は一般市民やメディアを恐れている.患者さんの命を預かる職業人として,秘密を保持し,余計な利害関係を作らないために,診療以外の面で,一般市民やメディアとの接触は極力避けるよう,我々は教えられてきた.この教えを徹底して守ることはやさしい.病院に閉じこもり,医局や学会関係者とだけ交流を持てばいい.メディアや一般市民と交流しなければ,余分な時間を取られることもなく,外部からの批判も受けないで済む.医者の世界へのひきこもりである.私もかつてそういう医者の一人だった.

当然,ひきこもりの弊害が出てくる.自分の世界に安住してしまって,外へ出るのが怖くなる.外へ出るのが必要だとわかっていても,怖くて出られない.ドアの外から話し声だけは聞こえてくる.”白い巨塔の中でふんぞり返っている””未熟な技術で身の程知らずの手術を強行し大切な命を奪った”みんな自分を非難する声に聞こえてくる.

もし勇気を出して世間へ出て行って,発言し,行動しても,無視されるだけならまだしも,医者であるというだけの理由で攻撃を受けるに違いない.そう考えると,怖くて出られない.市民の方々やメディアの方々は信じられないかもしれないが,かつてそうだった,いや今でも,多くの時間ひきこもっている,この私が言っているのだから間違いない.これが普通の医者の姿である.ひきこもっている医者の多くは,ひきもりに安住しているわけではない.このままではいけないと思っている.

だから皆さん,大声を上げることの得意なごく一部の医者は別として,はずかしそうに,戸惑いがちに医者が世間に出てきたら,暖かく迎えてもらいたい.彼らはきっとあなたの役に立ってくれるはずだ.そうそう,医者ばかりじゃなく,役人が世間に出てきたときもね.

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