配合剤問答

(あるメーリングリストの書き込みから)

> いまARBとサイアザイドの合剤が注目されていますが、
どうもそのようですが、また新たな占拠性病変が一つ増えて薬局が困っていること以外、注目されている理由が思い当たらないのです。もしかしたら、米国で合剤が流行しているのに、日本で流行しないのは厚労省が悪いからだという、おなじみの意味不明圧力が空騒ぎを起こしているのかもしれません。

> サイアザイドとの合剤、というところに何かミソでもあるのか、
科学的な意味でのミソは思い当たりません。合剤にすると、両方とも一用量で固定されてしまって、調節不能、使いにくいことこの上ないという素朴な欠点や三段攻撃(下記参照)のリスクが増すことは確実ですが。ミソなるものがあるとすれば、企業にとっての収益(たとえば後発品対策?)でしょうか。

遺伝子云々が言われるずっと前、ヒポクラテスの昔から、薬の処方はテーラーメードです。目の前の患者さんを診ながらの匙加減が我々の仕事の生命線です。なのに、”携帯電話とPDAが合体の新製品”なんてノリで薬を作るなんて、それが製薬企業の開発でしょうか?何の工夫もありゃしない。中学生でもできる、順列組み合わせ開発です。そのノリで行ったら、プレドニンとプロトンポンプインヒビターとイソニアジドとST合剤とビスフォスフォネートと経口糖尿病薬の合剤が一丁上がりです。

そこまで偏執的にならなくても、今、”大流行”のメタボリックシンドローム対策の”特効薬”として、ARB+スタチン+○○グリタゾンの人気者高薬価トリオを合剤にして、毎度おなじみ”良薬をいち早く患者様に届けるため”という錦の御旗の元に、米国人の半分、日本人の1/4をメタボリックシンドロームに仕立て上げる新診断基準をでっち上げ、大規模国際共同治験を なあんてトンデモ開発だって夢じゃない。

> 合剤として配合する利尿剤は、ループ利尿剤でも、スピロノラクトンでも同じことなのか、
> あるいは、ARBとスピロノラクトンの組み合わせがより優れているのか、

どの組み合わせが、どんな患者さん(特に心不全や腎障害の合併の程度)に対して、どんな点で、”同じ”なのか”優れている”のか、が問題です。降圧効果なのか、血清カリウム値なのか、腎機能障害のリスクなのか、あるいは心血管イベントなのか・・・・。これらの点を明確にして行われた臨床試験を私は知りません。

合剤の怖さは、思考を停止させる点にあります。今、この患者さんはどの薬を、どの量で、どのくらいの期間必要としているのか、他の薬の併用のメリット、デメリットは何か、そういう基本的な思考を奪ってしまうのです。その結果、ACE 阻害剤,利尿剤とNSAIDの三段攻撃のようなとんでもないことが日本のあちこちで起きてくるでしょう。ARBとサイアザイドの合剤を処方している小柄なおばあさんに、”先生、今日はどうも腰が痛くて”と言われたら、はてさて、どうしましょうかね?

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