信者と改宗

二十世紀も最後になりましたが,”日本にはインフルエンザワクチンの効果を示した証拠がない”と主張して反ワクチ ンキャンペーンを広げる人々は,少数ながら根強く存在します.彼らは,自分の無知を同時にキャンペーンしたいのか,ある いは次の論文を意図的に無視しているかのどちらかでしょう.

Sugaya N, Nerome K, Ishida M, Matsumoto M, et al. Efficacy of inactivated vaccine in preventing antigenically drifted influenza type A and well-matched type B. JAMA 1994;272:1122-6.

nonrandomizedですが,Prospective controlled trialで,”current inactivated vaccine is highly effective for protection against influenza type A(H3N2) virus infection regardless of antigenic drift. ”とはっきり結論しています.

実は菅谷憲夫先生も,”インフルエンザワクチンなんか効くもんか”教信者の一人で した.1992年の9月にフランスで開催された国際会議に出席する前までは.いや,も っと正確には1992/3のシーズンが終わって自分のデータによって改宗するまでは.

その会議で,インフルエンザワクチンの有効性を大前提に,接種率をどうやって上げ るのかを巡ってどんどん議論が進むのを目の当たりにしました.ここからが菅谷先生 の凄いところで,闘志を燃やしたのです.ならばインフルエンザワクチンが,”効か ない”(!!!)ことを日本人の私が証明してやろうじゃないかと.

帰国後すぐに1992-93のシーズンを絶好のチャンスと見て臨床研究に取りかかりまし た.シーズンの最中は”ワクチンを接種した子供が,結構インフルエンザにかかって 病院に来るので,やはりインフルエンザワクチンは効かないと確信し,なぜ欧米では ワクチンが効くことになっているのか大変に不思議だった”と,先生は述懐していま す.

しかし,シーズンが終わってデータをまとめると,なんと,”効果あり”だったので す.先生は,”ワクチンをせっかく打ったのにインフルエンザにかかった患者は医者 が気まずい思いをして強く印象に残る,ワクチンを打たずにインフルエンザにかかっ た患者はほとんど記憶に残らない”という心理的バイアスに言及されています.

その結果を報告したのが上記論文です.上記の経緯は,菅谷憲夫著.インフルエン ザ.(丸善ライブラリ)に詳しく書いてあります.一冊720円です.一般向けにやさ しい言葉で書いてありますが,新型インフルエンザのことなども含めて,学術的内容 も非常に優れています.高い医学書よりも余程勉強になります.オンラインの本屋も 二十世紀の年内は送料無料キャンペーンやってますから,皆さんも如何ですか?

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