今回の主題は飲み会での”割り勘”.あれ,それぞれの国ではどうなっているんでしょうね.
以下は私がいたグラスゴーの研究所の例です.毎週のように花金にアフターファイブの例会が,研究所近くのパブでありました.”飲み屋”と言えば”勘定”とすぐ連想してしまう貧乏性の私ですが,グループで気軽に飲みに行く場合,英国では勘定をどうやって分担すると思います? これが結構複雑なんですよ.
なじみの仲間で飲みに行く時,一番一般的なのが”ラウンド”という,勘定持ち回り制度ですが,これがまさに日本で言うところの”阿吽の呼吸”を必要とするのです.その呼吸をあえて文章で表現すると,1人に偏らないように,一方である程度は長幼と収入の過多を考慮するが,その序列は日本ほど絶対的なものではなく,むしろおごりおごられが常に一方的にならないように配慮することが大事でした.上級の研究員も技師も大学院生も,支払いがほぼ平等だったのです.
このラウンド制度の他に,kittyと呼ばれる預託金制度による割り勘もありました.みんなでテーブルの上に一定のお金を出し合って,そこから勘定を払うのです.沢山飲んだ人がそれだけ得な訳ですが,そこはうるさいことは言いません.この預託金制度は,あらかじめ日時と参加者が決まっているような集まりをパブでやるような時にのみ採用されました.ふだんの,”ちょっと一杯”の時はラウンドなのです.
例えば,マッシーとデビーの研究員2人,研究助手としてなにがしかの給料をもらっている大学院生3人(スー,ブライアン,マーク)で飲みに行ったとしますよね.まずはじめに1人が飲み物をまとめて5人分注文します.この時は例えば,デビーがパブの入り口で僕に聞くわけです.
”マッシー,あなたは何にする”
”デビー,きょうはまず,僕がおごるよ”
”いいのよ,さあ,いつものマーフィね”
”そうかい,ありがと”
とまあ,こんなやりとりがあります.はじめからただサンキューでもいいのですが,こうやって軽くやりとりする方が僕は好きでした.こんな風にしてデビーはめいめいに何がいいかと聞いて,カウンターに行って飲み物を注文して,その勘定を彼女が払うのです.
そのあとジョッキを傾けながら談笑していると,当然中身がなくなってきます.そこで,スーが赤い顔をしながら(彼女はこちらでは珍しく顔に出やすい)
”マッシーおかわりは”
”そうだね,もう半パイント”
”半パイントだけ?いつもはもう1パイント平気でやるくせに.何か特別なことでもあるの”
”特にそういうわけじゃないでど・・”
”だったら,1パイントやりなさいよ.あしたまた,グレン・コーにウォーキングに出かけるんでしょう.ガソリン入れとかなきゃ,ブライアン,あんたもおかわりでしょ,えっ,何.バカルディ&Cokeね”
(このイングランド娘は,ふだんは料理好きな,おしとやかなお嬢さんなのだが,飲むと結構豪快になるんだよなあ.この勢いで自分のフラットまで20年前のローバーを運転して帰るのか.途中まで帰り道が同じだから乗せてもらおうと思ったけど,遠慮しといたほうが身のためだな)
てな具合で,一次会が終わって,結局デビー,スー,ブライアンの3人が,3:1:1の割合で勘定を持ち,僕とマークがただ酒を飲んだとしますね.するとこの借りを2次会で返したり,あるいは二次会がない時は,その翌週の飲み会で,僕とマークが勘定を持つ,てな具合になるのです.
考えてみたら,年下の女性,それも自分より収入の少ない人に酒をおごってもらうなんて,日本では考えられないことです.そういうことが自然にできる国が,僕は大好きでした.