土葬と火葬

おだやかな看取りからの病理解剖 在宅医療の新しい試み
内原俊記君にはいつも嫉妬心をかき立てられる.斬新な試みに見えて,本質は徹底的に臨床にこだわった伝統的な仕事である.

この記事を読んで思い出したのは,我々の共通の師匠がまだ信州大学で新進気鋭の教授だった頃のエピソード,ある神経難病の外来患者さんが,突然亡くなったと知らせを受けた時のことである.

「それで御遺体はもう来ているんか?」
「はっ・・?!」
「解剖はいつ始まるんだよ!!」
「いや,あの・・・葬儀を終えて・・もう埋葬・・・」
「あんたなあ,何をもたもたしてるんだ・・・今すぐ行って掘り返してこい!!」

いかにも沖中重雄先生の直弟子らしい.

土葬の会 会報7号 2012年6月30日には,現代の土葬事情について,「日本は世界に例をみない火葬率99.99%(経験値)の火葬大国で世界のどの国も歴史上経験したことのない火葬一辺倒という国家的大実験」とある.

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米国の葬儀でついに火葬が過半数に ニューヨーク・タイムズ 2017年9月22日
http://digital.asahi.com/articles/ASK9466RVK94ULPT005.html?iref=com_fbox_d1_02

母の誕生日に、ニューヨークのウッドローン墓地の墓に花などを手向けるアルフレード・アンゲイラ=2017年7月28日、Caitlin Ochs/(C)2017 The New York Times。母の遺灰は、このベンチ型の墓標の中に納められてる。米国では2016年に初めて火葬が葬儀の過半数を占めるようになったが、自分の母が火葬を望んでいるとは思ってもみなかったとアンゲイラは話す
 「私の存命中は開けてはなりません」と母カルメン・ロサが言い残した封筒が、机の引き出しにあった。ニューヨーク市ブロンクス区にある集合住宅の一室。息子のアルフレード・アンゲイラは、開封してわが目を疑った。
 母は長らく区内の自治組織の一つ「コミュニティー・ボード12」の要職を務め、2015年3月に69歳で亡くなった。その遺書は、遺体を火葬し、区内のウッドローン墓地に葬るように指示していた。
 「大変なショックだった」とアンゲイラは振り返る。「こんなことを望んでいたなんて、思いもよらなかった。棺を埋める伝統的な土葬で、カトリック系の墓地セント・レイモンドに葬るように書かれているとばかり思っていた。区内にあるし、女性ジャズ歌手ビリー・ホリデイらの有名人も眠っているからだ」
 それは、ロサの母も含めて、親族の多くが考えていたことだった。
 しかし、米国では今、火葬がどんどん増えている。全米葬儀士協会(NFDA)によると、葬儀の中で火葬が占める割合は、2016年に初めて50%を超え、50.2%となった。前年は48.5%だった。一方、土葬は2015年の45.4%が、翌16年には43.5%に減っていた。
 火葬の比率はまだ伸びるとNFDA理事長のW・アシュリー・コジーンは見る。2025年には63.8%に、2035年には78.8%になるというのが協会の予測だ。
 理由はいくつかある。
 まず、米国人の暮らしの中で、宗教の重みが薄れていることだろう。40歳以上で、葬儀には宗教的な要素が欠かせないとする人の割合は、2012年からこの間、2割も減少した。宗教団体を見ても、いくつかのところでは火葬に対する反対を弱めている。
 葬儀の費用も、重要だろう。火葬の方が、土葬よりも通常は安い。
 「伝統的な埋葬を避けるようになった家庭がすごく多い」とNFDA幹部のR・ブライアント・ハイタワーJr.は語る。「葬儀の儀式と伝統を重んじるのは、火葬よりも土葬をする人たちだ。『葬儀は簡素にして、教会やシナゴーグ(訳注=ユダヤ教の礼拝所)でなくても結構。ラビ(訳注=ユダヤ教の宗教指導者)や牧師もいらない』となれば、火葬ということになる」
 カトリック教会は、すでに1963年に条件付きで火葬を容認している。土葬の方がよいが、火葬それ自体を否定しているわけではないとし、火葬を望む信徒に教会の儀式を拒むことはないことを確認した。2016年には、ローマ法王庁も、火葬の増加が押しとどめようもないことを認め、遺灰がきちんと認可された墓地に納められるよう信徒に訴えた。現ローマ法王フランシスコが認めた火葬のガイドラインがあり、散骨は容認するわけにはいかないとしている。
 カトリック系墓地の多くは、今では火葬用の小さな区画や地上式の納骨堂を設けている。ニュージャージー州のニューアーク大司教区にあるカトリック墓地の運営責任者アンドルー・シェーファーによると、自分が担当する八つの墓地での火葬の比率は、2016年は18%で5年前の10%からかなり上昇した。今後も確実に増え続ける見通しと言う。
 「ここ米国の北東部は、まだ葬儀に関してはやや保守的な傾向がある。だから、西海岸で見られるような火葬の比率には、まだなっていない」と説明する。
 費用も大きな要因になっていると、南部ジョージア州のキャロルトンで葬儀社を営む先のハイタワーは指摘する。多くの場合は、土葬と比べて3分の1以下で済むからだ。
 「この地域の住宅市場は、あの不況(訳注=2008年のリーマン・ショック)でガタガタになった」とハイタワー。「葬儀を迎えることは分かってはいたけれど、費用が少なくて済めば、その分を翌月の住宅ローンの返済に回したり、孫の授業料にあてたりすることができる――というような計算になった」
 冒頭のウッドローン墓地の最高運営責任者で、北米火葬協会(CANA)の筆頭副会長でもあるミッチ・ローズは、社会の流動化の強まりも要因としてあげる。「葬儀に集まってもらうのは、(訳注=近隣の固定的な社会が中心だった昔と比べて)今ではかなり大変なことだ。土葬だとすべてを一定期間内に済まさねばならないが、火葬なら遺灰を最終的にどう納めるのかを考える余裕も出てくる」
 ニューヨークの大都市圏に限って言えば、葬儀については保守的な米北東部なだけに、まだ土葬が火葬を上回っている。ただし、その差は、もはや大きくはない。NFDAの2015年の数字を見ると、ニューヨーク州に隣接するコネティカット州では土葬が44.3%で、火葬が43.4%だった。ニューヨーク州自体ではこの数字は51.8%対41.9%に、ニュージャージー州では47%対41.9%になる。
 埋葬場所がなくなりつつある都市部の墓地にとって、火葬の増加は一時しのぎであるにせよ、息継ぎになっている。35万人が眠るウッドローン墓地の場合は、400エーカー(162ヘクタール弱)もの広さがあり、まだ他と比べて余裕がある。墓地の運営役員デービッド・L・アイソンによると、このままでも40~50年は十分に持つが、それでも火葬はありがたいと言う。土葬するには広さが足らないようなところでも、火葬用の区画として使うことができ、墓地の経営改善に貢献してくれるからだ。
 冒頭のアンゲイラと姉妹のリンダが考えた母ロサの墓も、そんな区画の一つにある。誰でも座って休むことができる花崗岩(かこうがん)のベンチが、墓標になっている。遺灰は小さな容器に密封され、シリンダー状の骨つぼに入っている。それを、ベンチの石をくりぬいた丸い空間に納めている。
 墓標があるのは、古い墓石が立ち並ぶエリアの芝生の一角。近くには、19世紀の終わりから20世紀の初めにつくられた立派な墓所が立つ。円柱が支える建物式の大きな墓で、中には1919年に没したF・W・ウールワースのような人物も眠っている。あの「5セント・10セント・ストア」(訳注=あらゆる商品を均一な値段で売った)で財を成した米実業家だ。社交界で有名だった孫娘のバーバラ・ハットン(1979年没)もこの墓所に入っている。
 アンゲイラはリンダといくつかの選択肢を検討し、最後はこのベンチ型の墓標に決めた。「墓地に水源がある近くの小川に沿って、火葬の墓はまだ増えていく」とアンゲイラは語る。
 母の遺書の条件を完全に満たしているかどうか。当初は、やや自信がなかった。母は、遺灰は地下には埋めず、地上に安置するように望んでもいた。最後は、思い切って決断した。費用は3万ドル(1ドル=110円で330万円)で、あと7人の遺灰を入れることができる。
 「一番自信がなかったのは、座り心地だった」とアンゲイラは明かす。「でも、できて座ってみると、超心地よかった!」(抄訳)
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