12年後の嘘八百
セレコキシブの心血管リスク


「今時の若い人」は知らない話題になってしまったが,2004年のロフェコキシブ騒動の最中に審査をやっていた私にとっては,非常にこだわりがある問題だ. ----------------------------------------------------------------------------
セレコキシブの心血管リスク、他のNSAIDと同等  米ファイザー ( 日刊薬業2016年11月17日 )
 米ファイザーは17日までに、非ステロイド性消炎・鎮痛剤セレコキシブ(日本製品名「セレコックス」)の心血管リスクが、他の非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)と同等とする大規模臨床試験の結果を発表した。

 試験は、変形性関節症(OA)か関節リウマチ(RA)で、心血管疾患のリスクが高く、関節炎の症状をコントロールするためにNSAIDの日常的 な投与が必要な2万4081人を対象に実施。心血管イベントの発生率は、セレコキシブ(100〜200mgを1日2回)投与群2.3%、ナプロキセン (375〜500mgを1日2回)投与群2.5%、イブプロフェン(600〜800mgを1日3回)投与群2.7%だった。

消化管イベントの発生率は、セレコキシブ群1.1%、ナプロキセン群1.5%、イブプロフェン群1.6%。試験結果は米ルイジアナ州ニューオーリンズで開かれた米国心臓協会の年次集会で発表された。
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12年間にわたるてんやわんやの挙げ句,得られた結論は,「COX2阻害薬は結局NSAIDsのゾロ」だったわけだ.ましてや,『スーパーアスピリン』なんて嘘八百だった.だってアスピリンにはれっきとした心血管抑制イベント効果があるからね.しかしこの試験の問題はそれに留まらない.

PRECISIONという大層な名前のついたNEJM掲載論文の abstractだけ見ると,ようやく,けりが付いたように感じるのだが,やっぱり(けりではなく)けちがついている.
Dr Clyde Yancy (Northwestern University, Chicago, IL) told heartwire from Medscape said the noninferiority data are "reassuring" but as a clinical trialist expressed concerns about treatment doses, a 68.8% treatment discontinuation rate, and 27.4% loss of patients to follow-up, which "appears to be even above the threshold that would qualify as an acceptable data set. (PRECISION: Celecoxib Similar to Ibuprofen, Naproxen for CV Risk)

確かに脱落率が非常に高い(Appendix Figure S1. Patient Disposition in the PRECISION Trial).ただし3群間に脱落率の差はない (celecoxib 2219/8072=27.5%, ibuprofen 2268/8040=28.2%, naproxen 2120/7969=26.6)

むしろ問題なのは,標準用量で開始したものを,医師の判断で最大用量まで増量できるデザインの試験なのに,各群で実際に処方された用量が,Appendixにさえも記載されていないことだ.これでは用量依存性の副作用が特定の群に多い/少ないを議論できない.たとえば,極端な例を考えると,セレコキシブ群で増量された被験者が全くいないのに,イブプロフェン群で全ての被験者が最大用量まで増量されていたとすれば,イブプロフェン群に用量依存性の副作用が多くなるのは当然だが,そういうバイアスの有無が隠蔽されているのだ.

実際,セレコキシブとナプロキセンの有効性は,VAS (Visual Analogue Scale)で見た場合,ナプロキセンがセレコキシブを上回っている(Appendix Table S3. Measures of Anti-Arthritic Efficacy).つまり,セレコキシブはナプロキセンより有効性が劣り,副作用が同様ということになり,リスクベネフィットバランスから言えば,ナプロキセンの方が優れていることになる.こういう意地の悪い見方も,ナプロキセン群の方が最大用量まで増量されていた被験者が多ければ,多少ながらも,セレコキシブへの同情票が集められるだろうに,実際には,最大用量まで増量されていた被験者は実はセレコキシブ群の方が多かったとなれば,目も当てられないから,隠蔽したのはないか言われても全く反論できない.

またまたこんな肝心なことを黙認して掲載するから,ブラック企業との汚名がいつまで経っても雪げないないのだよ.

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