いつか来た道:保険医総辞退

英国での国立病院であるNHS (National Health Service) 病院の部長達が,投票を行い,NHS病院との新たな契約内容を,反対多数で拒否した.

昔,日本で行なわれた保険医総辞退にも似た非常手段であり,このままでいけばNHS病院での保険診療実質的に不可能になってしまう.メディアでは医師の傲慢と非難もあろうが,その背景にはそれなりの理由がある.(Jeffcoate W. Rejection of new consultant contract is a vote of no confidence. Lancet 2002;360:1440.)

仕事は増えるばかりなのに,NHSの予算不足によるベッドの閉鎖,残業手当の削減,人員削減で,良心的にやればやるほど労働負担が増えるのに,報酬は全く増えない.労働条件と賃金体系ばかりでなく,保険診療でも政府の言うなりになれば,自分がよかれと思うような患者さんの診療ができなくなる.とてもこれでは自分の体もNHS制度も持たないと判断した末の非常手段といえよう.

かつての国民皆保険制度の発展途上で,かつて日本でも,同様の事態が生じた.その時の理由も似ている.医者が”これでは食べていけない”,”ストレプトマイシンの保険適用を認めろ”と主張してデモ行進したのである.今度は,国民皆保険制度の崩壊途上で,発展途上とよく似た現象が起きるだろう.

どこの国であろうと,医師の過労死と薄給の上に成り立つ保険制度は,遅かれ早かれ破綻するしか道はない.

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