ぶっつけ本番原理主義

任天堂DSソフト『症候診断トレーニングDS』に関するメーリングリストでの議論から:

>> 一方で「医学という人の生死に関わる内容をゲームに
>> するなんて」というネガティブな反応

> おそらく「ゲーム」という言葉から「人の生死を笑い物にしている」と
> 短絡的に連想する人が居るということでしょう。

ですね。「ゲーム」という言葉を自分で勝手に規定して、シミュレーションによる教育・学習を全面的に否定してしまっているのです。ただし本人はそこに気づいていないので、その点をロールプレイで気づいてもらうというのは如何でしょうか。

「なるほど、人の生死はあくまでぶっつけ本番でということですね。では、当院のシミュレーション教育も全面的に廃止して、学生にも研修医にも、全部ぶっつけ本番でやってもらうことにしましょうか?つきましては、先ず隗より始めよと申しますので、ぶっつけ本番原理主義者のあなたに、学生の練習台になってもらいたいのですが」

との意を、相手の機嫌をそこねないように、笑いで包んで届けられればいいですね。

「練習・学習全否定&ぶっつけ本番原理主義」は普遍的な自動思考ですから、それに対するツッコミも応用範囲が広いです。下記は臨床試験について講義をする時の私の決まり文句です。著作権云々なんて野暮なことは言いませんから、お気に召したら、どんどん使ってください。

みなさん、お昼御飯の時に目の前にドッグフードやキャットフードを出されたら怒るでしょう。では、みなさんが病気になって、治療のために薬を注射してもらう時に「これはまだ人間には試したことはありませんが、犬や猫の病気にはとてもよく効いてとても安全な薬です」と説明されたら、どうしますか?

(オプションとして「とてもよく効いてとても安全な薬」という点にツッコミを入れ、「5匹は助かって、3匹は不変で2匹が死ぬ」というように解説をつけて、そこからリスク・ベネフィットバランスの話に持って行くこともあります)

応用編としてこんなのもあります。

日本も「欧米並に」動物愛護の精神が普及する時代も近づいてきています。私が英国に留学していた時に、動物実験施設が動物愛護活動家に焼き討ちされたなんて事件をがありました。活動家達は火を付ける前に動物たちを避難させましたが、そこで働いている人間の保護までは配慮が及ばなかったと見えて、ネズミは一匹も死にませんでしたが、人間は一人死にました。日本もそういう世の中になるかもしれません。
そういう世の中になると、医薬品の動物実験も禁止されるかもしれません。そういう世の中になると、みなさんが癌になって、治療のために薬を注射してもらう時に「これは培養癌細胞にはとてもよく効いて30分以内に全滅します。正常細胞は3日経って30%が死ぬだけですから安全な薬です。ただし、まだ動物には試したことはありません。あなたは地球上で初めてこのお薬を試す哺乳類となる権利があるのです」と説明されたら、どうしますか?

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