ベッドサイドの失語スクリーニング

失語症検査というとひどくややこしいバッテリーを使わなくてはならないと思いこんで,神経内科医でも嫌がる人が多い.しかし,失語は患者にとって上下肢の麻痺にも劣らない,大きな障害なのだ.失語による障害は脳障害の急性期よりも慢性期にひきずるから,ある特定の分野の医者だけが知っていればいいというものではない.いろいろな科の医者,医者以外の医療スタッフ,そして家族も,患者の失語がどんな種類の失語なのか,正しく知っておく必要がある.だから介護にかかわるどの職種の人も,大まかな失語類型を判断できるようになっておきたい.それはむずかしいことではない.下記はベッドサイドでの簡単なスクリーニングのバッテリーである.順序としては,まず,運動性の要素(1,2),次に復唱(3),次に感覚性の要素(4,5),最後に左右失認,失行との簡単な鑑別(6)もできるようになっている.

1.自発語量の観察:簡単なあいさつから主訴,現病歴などさりげなく聞くことによって,発語量をスクリーニングする.軽い運動性失語症の人では,口数が少ないと思われるだけのことも多い.

2.語健忘は物品呼称でスクリーニング:言葉が喋りにくいようなことはありませんかという導入で,身近な品物の物品呼称から入る.語健忘だけが強い例もあるので注意.

3.復唱(だんだんと難しくしていく):単語の復唱→二語(青い空,赤い花,夜が明けた)→三語(今朝はご飯を食べました.春は桜の季節です)→(赤いバラが家の庭に咲いていました):ここまで言えれば問題なし.

4.Yes/Noで答えられる簡単な質問:純粋に言語理解を調べるのであって,痴呆の検査ではないのだから,知識が不要なものがよい.例:鯨は空を飛びますか?鶏は卵を生みますか?

5.口頭だけの簡単な命令動作:まず開眼閉眼.開口閉口,挺舌など.左右の認識が必要なものを混ぜれば,左右失認もスクリーニングできる.例えば,右手を挙げて下さい,左手を下げて下さい.右手で左手を触って下さい.左手で右の耳を触って下さい.また少し複雑な動作になると,失行の要素も混入してくる.例えば,金槌で釘を叩く真似をしてくださいとか,マッチを擦ってタバコに火を付ける真似をしてください

6.同じ命令を模倣動作でやらせる:言語理解ができないから動作ができないのか,それとも失行できないのか鑑別するために,言語の命令を入れずに模倣動作をやってもらう.もし,言語でできないが模倣でできれば,言語理解の障害ゆえにできなかった可能性が高い.

以上でおしまい.その結果を記載すれば,それが立派な失語症の症状記載になる.○○失語症などという分類はまったく必要ない.

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