MMRワクチン「告発」映画

2018/11/17公開予定だったそうだが、直前で公開中止になった→映画「MMRワクチン告発」日本の配給会社が公開中止を発表(下記参照)

「札付き」アンドリュー・ウェイクフィールドの行状については,李 啓充の「続 アメリカ医療の光と影」を参照のこと.

ウェイクフィールドは,エドワード・ジェンナーの母国であり公衆衛生発祥の地である英国に深い傷を遺した.その傷は彼が研究結果の再現に失敗して2001年に英国を去り「自閉症研究」を続けるために米国に渡った後も癒えていない.→Childhood Vaccination Coverage Statistics England, 2017-18 Published 18 September 2018

上記パンフレットの16ページのFigure 8にあるように、特にロンドンと北西部のリバプール,マンチェスターといった都市部でのMMRの接種率の低さが,その傷の深さを象徴している.特に都市部で低い原因については、保護者が反ワクチンキャンペーンに接する機会が多いからではないかと推測する人もいるが、本当のところはわからない.

実際,「あのイギリスで!!」麻疹の流行が問題になった.いや,50年前ではない.2017年の話である.

それと比べて我が国はどうか?というと、少なくとも 2011年時点では,麻疹だけでなく,他のワクチンでも接種率は英国の上を行っているように見えた。→Shimazawa R, Ikeda M.. The vaccine gap between Japan and the UK. Health Policy 2012;107(2-3):312-7
しかし、これは楽観的な誤認だったようだ。さる感染症専門医から、下記のようなご指摘をいただいた。

『これは、推奨年齢だけを調べているからそうなるのです。諸外国(英国含む)にはキャッチアップの制度がありますから、所定年齢でうち漏らした人でも後から 追いつくことが可能です。日本ではそれは全額自費になってしまいます。現在の風疹流行も大人の問題であり、麻しんの輸入もこうした打ち漏らした方のフォ ローができない制度上の問題から生じています。要するに、日本が英国よりもマシ、というのは幻想に過ぎないということです。仮に英国が理想像ではなかった としても、です』

だとすると、日本でも薬局でワクチンを買ってその場で打ってもらえるようにすれば、キャッチアップ・成人の接種も進み、名実共に世界一のワクチン接種率を実現できるだろうか。

参考:医薬品・医療機器に対するリスク認知の国際比較については、Ther Innov Regul Sci. 2018 Sep;52(5):629-640をご覧頂きたい。ただし、こちらはopen accessではないので,別刷ご希望の方は私までご連絡されたい.

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映画「MMRワクチン告発」日本の配給会社が公開中止を発表 BuzzFeed Japan 2018/11/7

どんな映画だったのか?
MMRワクチン(麻疹・おたふく風邪・風疹の混合ワクチン)と自閉症の発症を関連づける内容が批判されていたドキュメンタリー映画『MMRワクチン告発』の公開中止を、日本の配給元・ユナイテッドピープル株式会社が発表した。配給元は「医療の専門家でない立場で、難しい分野の映画を取り扱うにあたり、それなりのリサーチはしておりましたが、足りませんでした」とコメントしている。【BuzzFeed Japan Medical / 朽木誠一郎】
 映画は元医師のアンドリュー・ウェイクフィールド氏が監督。同氏が「米国疾病対策センターがMMRワクチンと自閉症の関連性を示すデータを隠蔽している」という内部告発を受けた生物学者に協力し、調査を行う、という内容だった。
 一方、ウェイクフィールド氏は過去に「子どもへのMMRワクチンの予防接種が自閉症の症状を引き起こす」という論文を発表するも、利益相反行為や、患者のデータ・病歴が大幅に書き換えられたり、捏造されたりしていた疑惑が発覚。
 ウェイクフィールド氏は医師免許を取り消され、論文が掲載された『ランセット』は論文を撤回している。このような背景があり、日本での上映にも、医療関係者などから批判が集中していた。
 同作の公式サイトによれば、もともと「MMRワクチンと自閉症の因果関係の有無について科学的な証明がなされていないことを承知」した上で、映画の主張に「合理性がある」としていた。
 映画には「アジアでもMMRワクチンの使用による影響の可能性を連想させる使い方」で、「日本でも自閉症と診断される人の数も右肩上がりに増加している様子のグラフが紹介されるシーン」があったという。
 しかし、同社代表の関根健次氏は、映画内の写真の利用についてのトラブルをきっかけに、ウェイクフィールド氏の同社への説明に「疑念を抱いた」。
 そして、「多数の文献に目を通し、複数の専門家や厚生労働省を含む機関にヒアリング」した結果、ウェイクフィールド氏の主張に矛盾が生じ、「本作の劇場公開は適切ではないと判断し、劇場公開を取りやめる決断」をしたと説明。(後略)
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