LITA 音響窓と基本断面

心臓血管研究所生理機能検査部 竹内 伸子 技師 

☆はじめに
 超音波は肺、骨を通過しないので、体表面から心エコ−図検査を行う場合、心臓が胸壁に接している部分に探触子を当てなければならない。このような超音波の入射可能な部位を音響窓 ( acoustic window ) と呼ぶ。代表的な音響窓には胸骨左縁、心尖部、心窩部、胸骨上窩、胸骨右縁がある。

☆各音響窓における基本断面
氈D胸骨左縁
a.左室長軸断面
 第3ないし第4肋間胸骨左縁に探触子をおき、左室の長軸に沿って心臓を縦断する、最も基本的な断面である。正しい断面は、中央の僧帽弁が最大振幅を呈し、左室内径も最大で、左室の心尖寄りの部分が一番大きく開いている。基本的に腱索は観察されない。また、心室中隔と大動脈前壁はほぼ同じ高さ、バルサルバ洞は最大で大動脈弁の右冠尖と無冠尖はほぼ中央で接合しているように設定するのが望ましい。この断面で探触子を外側へ傾けると、前交連側の僧帽弁と腱索、前乳頭筋が観察される。また内側に探触子を傾けると、後交連側の僧帽弁と腱索、後乳頭筋が観察される。
b.左室短軸断面
 左室長軸断面を描出した位置で探触子を90度時計回転させると得られる断面である。いずれのレベルの断面においても、大動脈や左室がはぼ正円形になるように探触子を設定する。心臓の長軸方向に沿って順次探触子を傾斜、スライド、肋間移動させることにより、種々の断面が観察される。
・大動脈弁レベル
 大動脈弁は中央に位置し、右冠尖、無冠尖、左冠尖の大きさがほぼ均等になるように設定する。正常大動脈弁の接合線はY字型を呈する。大動脈弁の前方に右室流出路、後方に左房、向かって右側に肺動脈と肺動脈弁、向かって左側に右房と三尖弁が観察される。
・僧帽弁レベル
 僧帽弁前尖と後尖が観察される。この時、僧帽弁が左右対称に開口している断面を設定する。大動脈弁の短軸とは角度が異なる。
・腱索レベル
 前後の腱索が観察される断面。
・乳頭筋レベル
 前後の乳頭筋が観察される断面。
・心尖レベル
 心尖の先端まで観察するためには、胸骨左縁よりむしろ心尖部に近い位置に探触子を置くべきである。この際、左室内腔が完全に見えなくなるまで断面をスキャンしなければならない。
 以上、短軸を記録する際には、次のレベルに移る過程を徐々にスキャンすることにより、大動脈弁、僧帽弁、左室全体を見逃しのないように観察することが必要である。
c.四腔断面
 両心室の長軸および両房室弁輪径が最大となる様に断面を設定する。画面の最も探触子に近い位置に右室、向かって右側に左室が観察される。
d.右室流入路長軸断面
 通常より下方の肋間から胸骨左縁左室長軸断面を描出した位置で、探触子を内側に傾けていき、心室中隔が消失した時に得られる断面。右室流入路、三尖弁前尖、後尖、右房が観察される。
e.右室流出路長軸断面
 胸骨左縁大動脈弁レベルの短軸断面を描出した位置で探触子を反時計回転し、やや外側に傾けると得られる断面。肺動脈弁が明瞭に描出され、右室流出路、肺動脈の最大径が観察できる様に設定する。
.心尖部
心尖拍動の触れる位置に探触子をあて、最も心尖に近い位置から観察する。
a.左室長軸断面
 胸骨左縁左室長軸断面と同じ探触子の向きで、心尖からアプロ−チすると得られる断面。胸骨左縁からでは得られない心尖部が明瞭に観察される。探触子を確実に心尖部にあて、左室内腔が最大となり、僧帽弁と大動脈弁の正中を通るように設定する。左室造影の LAO(第2斜位)に相当する。
b.四腔断面
 心尖部左室長軸断面の位置から、探触子を徐々に時計回転させていくと得られる断面。心室中隔はほぼ中央に垂直に位置し、向かって右側に左室と左房、左側に右室と右房が位置し、それぞれの径が最大となる断面を設定する。ここで大動脈弁は観察されない。
c.二腔断面
 心尖部四腔断面の位置から、右室が見えなくなるまで探触子を反時計回転させていくと得られる断面。僧帽弁と左室、左房が観察されるが、これらの内径も最大となる断面を設定する。左室造影のRAO(第1斜位)に相当する。
。.心窩部
a.矢状断面
 探触子を心窩部よりやや右側におき、下大静脈、肝静脈、右房を観察する断面。下大静脈は長軸になるように、肝静脈は内腔が広く描出されるように設定する。
b.四腔断面
 心尖部(または胸骨左縁)四腔断面と同じ方向に探触子を向け、心窩部にあてると得られる断面。断面が心尖部を通り、四腔がバランス良く描出されるように設定する。
「.胸骨上窩
a.大動脈長軸
 探触子を胸骨上窩におき、矢状方向よりやや時計回転し心臓を見下ろすように設定する。上行大動脈、大動脈弓、下行大動脈の長軸断面が得られる。
」.胸骨右縁
 被検者を右側臥位にし、探触子を胸骨右縁、第3または第4肋間の矢状方向にあてた時に描出される断面。右房、上大静脈、下大静脈、左房が観察される。
 これらの音響窓の位置などには固体差があり、初心者では特に心尖部からの記録が不適切なことが多いので、注意が必要である。
☆Mモ−ド心エコ−図において計測する際の注意点
 Mモ−ド法は時間分解能が高く、左室径などの計測を行うのに適している。その際、目的部位に対してMモ−ドビ−ムを直角に入射することが重要である。基本となる断面は、胸骨左縁左室長軸断面、左室短軸断面である。しかし適切なビ−ム方向が得られない時には、断層像から計測するべきである。
氈D左室Mモ−ド心エコ−図
 Mモ−ドのカ−ソルを腱索レベルに設定し、Mモ−ドを記録する。各時相において以下の計測を行う。
a.拡張終期(左室径が最大となる時相)*
・右室径: 右室前面心内膜から心室中隔右室面までの距離。
・心室中隔壁厚:心室中隔右室面から左室面までの距離。心室中隔右室側の肉柱や左室側の仮性腱索を心室中隔と見誤らないように注意する。
・左室径: 心室中隔左室面から左室後壁心内膜面までの距離。腱索や仮性腱索に注意する。
・左室後壁厚:左室後壁心内膜面から心外膜面までの距離.
b.収縮終期(左室径が最小となる時相)*
・左室径
*拡張終期、収縮終期の時相は、各施設で異なるが、施設内で統一しておくべきである。
.大動脈弁Mモ−ド心エコ−図
 カ−ソルを大動脈弁に設定し、Mモ−ドを記録する。
a.拡張終期
・大動脈径:大動脈前壁の前面から後壁の前面までの距離。右冠動脈分岐部を大動脈前壁と見誤らないように注意する。
・左房径;大動脈後壁の後面から左房後壁の前面までの距離。僧帽弁輪のサイドロ−ブを左房後壁と見誤らないように注意する。
 Mモ−ドの記録は断層心エコ−図のガイド下で行うようにする。また長軸断面だけでなく、短軸断面も併用することが望ましい。

上記は1998年1月25日都臨技主催心エコー実技講習会の資料として作成したものです。

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