☆症例 1-6(経胸壁心エコー検査にて左肺動脈狭窄症と誤診された下行大動脈縮窄症)1998.07.09
水原郷病院 検査科 渡辺 博昭(わたなべ ひろあき)技師

☆症例
9歳 男児 2歳時に心雑音を指摘され、その時の心エコー検査では動脈管開存症と診断された。以後半年から1年に1回の経過観察となったが、症状もなく診断もはっきりしなかったことから、心雑音の経過観察は受けずに経過した。小学校入学時検診で再び心雑音を指摘され今回の心エコー検査施行となった。

☆経胸壁心エコー検査所見

slide1 左:左室短軸像カラードプラ。左肺動脈と判断した部位に乱流パターン。
右:左肺動脈と判断した部位の連続波ドプラによる血流パターン。

左肺動脈と判断した部位にカラードプラの乱流パターンを認めた。同部位での最高血流は3.2m/secで圧較差40mmHgであった。左室拡張末期径40mm、左室収縮末期径26mm 、駆出率66%、左室内径短縮率36%と良好であった。


☆心カテーテル検査所見

slide2 大動脈造影正面像
下行大動脈に形態的に明らかな縮窄を認める。
slide3 大動脈造影側面像
スライド2と同様の所見を認める。
slide4 大動脈縮窄部位と左肺動脈の位置関係の模式図
解剖学的に下行大動脈と縮窄部位は交差する可能性がある事に注目。
slide5 右室流出路像での大動脈縮窄部位と左肺動脈の位置関係の模式図
左肺動脈に重なる様に下行大動脈が描出されてくる場合がある事は注意を要する。

 左肺動脈に圧較差は認めず、造影でも肺動脈系に異常所見は認められなかった。左心系では、左室-上行大動脈間に12mmHg、上行大動脈-下行大動脈間に17mmHgの圧較差が認められ、大動脈造影でも形態的に明らかな縮窄を認め、大動脈縮窄症と診断された。


☆後日再施行された心エコー検査所見

slide6 腹部大動脈血流のパルスドプラ波形
拡張期・収縮期が不明瞭で静脈波形化している。これは縮窄後の血流波形として典型的なものと考えられる。


☆その他の検査所見
 胸部X線像、心電図、トレッドミル運動負荷試験に異常は認められなかった。


☆まとめ
 経過および心エコー検査時の右室流出路像のみから孤立性肺動脈狭窄症と即断し判定を誤った。誤診を招いた原因を振り返って考えると第1点として、孤立性左肺動脈狭窄症はかなり頻度は低く、下行大動脈縮窄症のそれと比較しても頻度が低いということの認識不足。第2点として左肺動脈と即断した部位は解剖学的に下行大動脈と左肺動脈が交差する部位であったこと。第3点として、腹部大動脈血流パターンの確認を怠ったことがあげられる。以上のことは当然念頭に置き検査を進めるべきであった。特に第3点は、手技的には極めて簡便であることを考えれば疾患を問わずルーチンに行うべき事であるとあらためて感じた。

☆連絡先
  〒959-2093 新潟県北蒲原郡水原郷町岡山町13-23 水原郷病院検査科 渡辺 博昭

 
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