第13回国際視野研究会写真1
はじめに
 開催年は1974年以来、偶数年で、今回の第13回国際視野学会は北イタリア湖水地方最大の湖であるガルダ湖の西岸の保養地、ガルドーネ・リビエラで開催された。Local Hostはプレッシア大学のエンリコ・ガンドルフォ教授であった。

 ガルダ湖畔はコモ湖やマジョーレ湖などと並びローマ時代からのヨーロッパ屈指の高級リゾートとされる所で、会場のグランドホテルは庭と柵ひとつでガルダ湖であった。湖水の眺めは素晴らしく、青く澄んだ水面にキラキラと陽の光がきらめき、学会に来ていることを忘れそうになるほどだった。

 東洋人の姿は少なく、日本から学会に参加しているメンバー以外には会期中には誰にも会わなかった。またホテルの宿泊客は、地中海性の気候のまぶしい白い陽光の中で明るいファッションに身を包み、湖畔でのひとときを楽しんでいた。

 学会第1日目の午前中のセッションでChairpersonをすることになっていた私は、時間にも心にもゆとりがなかった。今にして思えば、随分と緊張していたようで、朝食時間も 学会用ファッション(いわゆる紺色系のスーツ)を着たまま朝の光まぶしい湖畔のテラスのテーブルに座ってしまった。

 東洋人というだけでも浮くのに、その洋服では周りから浮くのなんの、他の宿泊客からも同行した娘からも白い目で見られ、翌日からは、どんなに時間がなくても、学会会場以外では、堅苦しい洋服を着るのはやめることとした。


演題のトピックス
 今回の話題は、やはり「新しい検査アルゴリズム」(HumphreyのSITA:Swedish Interactive Thresholding AlgorithmとOctopusのTOP;Tendency Oriented PerimetryならびにDynamic Strategyなどの臨床評価)や「画像解析と視野との関連」(HRT、OCT、NFAなどの結果と視野検査結果の検討)と「スクリーニングプログラム」(FDT;Frequency Doubling Technology、Flicker Perimetry)そして「色視野」(Blue on Yellow Perimetry)などといったセッションがあった。


日本からの参加者
 日本からの参加は、東京医科大学から鈴村弘隆講師、高田眞智子先生、原澤佳代子視能訓練士など、近畿大学から大鳥利文教授をはじめ、松本長太講師、奥山幸子先生、岩垣厚志先生、高田園子先生、若山暁美視能訓練士ら、滋賀医科大学からは第1回よりの常連参加者でもある可児一孝教授をはじめとして、西田保裕講師、村田豊隆先生ら、東京慈恵会医科大学は北原健二教授、高橋現一郎講師など。東京オリンピアクリニックの井上洋一先生も常連であり、今回はスイスから車で山越えをしての参加。

 そして岐阜大学は、IPSの副会長に今回も再選された北澤克明教授はもちろんのこと、富田剛司講師、内田英哉先生、近藤雄司先生と私、ほかにアメリカ留学中の河野吉喜先生も来ており、久しぶりに会えた。

 いずれにしても、例えばSITAだったらスウェーデンのルント大学のヘイル教授、Dynamic Strategyだったらドイツのウェーバー先生、TOPだったらスペインのローザ先生などと、そのstrategyを考案した人たちが会場にいてディスカッションが始まるのだから、発表者も緊張する。そして、論文上でしか知らないそれらの新しい検査法上での細かいニュアンス、他の国での評価などを生の声で聞くことができるので参加するだけでも本当に有意義な会だと思う。また、IPSの良いところは、それらの高名なる先生方の素顔が間近に見られることである。
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会場のグランドホテル(ガルドーネ・リビエラ)
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IPSケーキを前にするワイルドIPS会長
、その向こうに笑顔のミルス教授(今回、新会計に選出された)と
ヘイル教授、その隣に東京医科大学の原澤さん。

クッキーの中に夢が
 学会の前々日にBoard Memberだけの食事会があったが、私はドイツのダンハイムIPS会計とウェーバー先生に挟まれる形で3時間のフルコースを食べることになった。その3時間の間、ウェーバー先生はひっきりなしに、ある時は英語、ある時はドイツ語で、出てくるイタリア料理について話し続けた。時に話題は日本料理に及び、私は、まさかイタリアのガルダ湖畔まで来て、日本料理の歴史の説明を求められるとは思わなかったので冷や汗をかいた。何事にも、アクティブなエネルギーのある人でなければ、新しい事は始められない。至近距離での感想である。おかげで、その時の料理の味はあまり覚えていない。

 また、北澤教授と私は、会議の前日のBoard Meetingに参加しなくてはならなかった。ところが、今回はIPSの機構改革の話題が出たため、3−4時間で終わるはずの会議が6時間ともなり非常に疲れた。しかし幸運なことに、会議の間にコーヒーブレイクがあり、本場のエスプレッソとカプチーノを味わうことができた。さすがに美味しかった。

 その際、クッキーが乗せてあるお皿を自分で持ちながら、ヘイル先生は北澤先生に向かい「ハイ!スウェーデンでは、クッキーの中には夢が入っていると言うんだ、いくつ食べる?」と声をかけ、私にも「クッキーいらない?アイコー君の夢は、いくつある?」と聞いた。

 1個だけ私が取ったら、ヘイル先生は「1つだけか、駄目だなあ」と笑った。その後で見ていると、朝食や昼食の後に彼は必ず、楽しそうに(実に楽しそうに)クッキーやケーキをいっぱい食べていた。ヘイル先生は夢をいっぱい、いっぱい持っているらしい。

 ところでカプチーノ。実は、かなりのコーヒー好きの私でも、今までは面倒だったので作らなかったのだが、この学会をきっかけに器械を揃え日本に帰ってきてからも作ることにした。でもこのコーヒーブレイクで飲んだ味には程遠く、やはり、あの明るい空と青い湖が無いことが最大の原因であろうと思われる。
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ガイドの話に聞き入る一行
手前がダンハイム夫妻、右手が次回会長のチャウハン先生。
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街並
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左から、可児教授、私、鈴村講師、河野先生
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ジュリエットのバルコニー

構造改革について
 これまでのグループ分け(冒頭に示した)ではなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアオセアニアグループといった3つの国別グループを、それぞれ4つのScientic groupに分け、IPSのさらなる充実をはかろうとするものであり、最終日のBusiness Meetingで近畿大学の松本長太先生もBoard Memberに入ることになった。


エクスカーション
 IPSのもう一つの楽しみは、その日のセッションが終わった後でのディナータイムである。

 1日目はガルダ潮の船の旅。2日目はBorgo Querciaでワイナリーでの夕食があり、IPSのマークを型とったケーキが披露された。

 最終日は、ロミオとジユリエットで有名なVeronaへのツアーと、お決まりのIPS名物IPS Banquet with traditional national singingである。

 日本チームは、近畿大学の岩垣厚志先生が、この日のために日本から持ってきた袴と着物をガンドルフォ教授ご夫妻に着付け指導しながら着ていただくというパフォーマンスと『荒域の月』『さくら』の合唱だった。IPSの最終日までいると所沢の日本緑内障学会に間に合わないため1日早く日本へ出発した先生が参加できなくて残念だった。

 他の国も、それぞれ趣向を凝らしてパフォーマンスするのだが、何と言ってもイタリアのパワーには負ける。イタリアチームは毎日、学会が終わった後も会場に残って真剣に歌の練習をしていた。実際にカンツォーネの国イタリアらしく『オオソレミオ』『サンタルチア』は力が入っていた。また大御所Zingirian先生のアコーディオン演奏など、ここでしかお目にかかれないものだと思う。


再会の喜び
 最終日のツアーの時に私は−人の女性に声をかけた。その女性はイスラエルのエルサレム市民病院に勤めていた方である。実は、1990年にスウェーデンのマルメでIPSが開催された時のBanquetで隣の席になった人で、最後に全員で肩を組んで歌った時に、しばらく話をしたのだった。

 ところが、そのすぐ後に湾岸戦争が起きた。エルサレム市内が爆撃されるシーンをテレビで見るにつけ心配していた。そして、その後に開催された京都、ワシントン、ビュルツブルグのIPSで彼女の姿を見ることができなかったので、心配はさらに増していた。マルメの時、「今までのIPSはすべて出席している」と言っていたからだ。

 もう会えないのかと思っていたところ、今回、ご主人を連れて奉加しているのを見かけ、どうしても声をかけたくなったのだった。今は、退職して非常勤で働いているとのことだった。彼女も私のことを覚えてくれてたのが何よりだった。
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イスラエルのシュタインシュナイダー夫妻(左端)
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バンケットのドイツチーム
左端がグラマー教授、中央は歌に真剣なウェーバー先生。

おわりに
 2年後のIPSは、カナダのハリファックスで開かれる。Local HostはBalwantray Chauhan先生。参加できることを楽しみにしている。

 そして、ガルドーネ・リビエラ。次に行く時は学会ではなく、あの明るい陽の光と湖の青さに会いに、そして美味しいカプチーノを飲みにだけ行きたいものである。もちろん、学会ファッションではなく…。  



写真は滋賀医科大学の可児一孝教授から提供していただきました。

千寿製薬発行(銀海)1998年