対人ストレスの実体と軽減法

はじめに、危害も損失もないのに 相手に対して 次のようになっている状態を ☹ とあらわすことにしましょう。
 怒り・イライラ・ピリピリ・嫌い・嫌だ・ストレスだ・不快・不機嫌・不満・がっかり・おちこむ・かなしい・傷つく…などなど。

相手が☹ (こちらに対して) だと自分も☹になりやすい ですよね。
 例1) ミスした子に 親が強い口調に → 子が不満げに → 親が怒る → 子が泣く → …
 例2) 「花子から悪く思われている」 と感じた太郎が ストレスを感じる → 太郎のピリピリした雰囲気を感じた花子が 嫌な気持ちに → …

相手が☹だと自分も☹になるのは あたりまえ と思われてきましたが、よくよく考えてみると ふしぎな現象ですよね。
どんな現象にも原因がありますが、☹になる原因は解明されていませんでした。
それでは、☹の原因(実体) とは いったい何なのでしょうか?

自因感

(その現象を)生じさせたのは自分だ・(その現象が)生じるかは自分しだいだ・(その現象は)自分を映す鏡だ、という感覚を 自因感と呼ぶことにしましょう。

くわしくは こちら

天気に対する自因感を例に考えてみましょう。
 昔 わたしたちは、(日ごろの行いなど) 自分(たち)しだいで天気は変わると感じていました。
 しかし、科学的な原因を知ることによって、天気に対する自因感は弱まっていきました。

現象の原因を知らないと自因感をもちやすく、原因を知ると自因感は弱まっていくことがわかります。

………

以下の♯の思いは 自因感の証です (自因感がなければ生じません)。どれも 「(その現象は)自分しだい」 という前提に立っていますよね。

 ♯1 「私のせいだ」

 ♯2 「私の何が」 (何が悪い など)

 ♯3 「私は〇〇なのに!」 (○○ = 悪くない・利他的 など)

 ♯4 「△△される 筋合いはない・理不尽だ・納得いかない・何でだ!」 (△△ = 雨ふり など)
 → ♯4は ♯3なしには生じません。

相手の☹に対して ☹になる原因

相手の☹に対して (正確には 「相手は☹だ」と自分が思って) ☹になる原因は 次の A&B&C (A・B・C のすべてが作用すること) です。

 A = 「相手は☹だ」 と思う

 B = 相手の気持ちに対する自因感

 C = 「私は相手を☹にさせたくない」

A&B&C = 「私は相手を☹にさせたくないのに、私が相手を☹にさせた」

なぜかは こちら

☹になるために必要なものは何か、考えてみましょう。

 まず、必要なのは Aであって、[相手が実際に☹であること] ではない ですよね。
 そもそも、[相手が実際に☹なのか] は知りようがありませんので。

 次に、前章の♯1~4 が1つもなければ (相手の☹を、理不尽だとも 自分のせいだとも 感じなければ) 心おだやかです。
 ということは、☹になるときには 必ずBが作用していますね。

 また、AとBだけでは 何の感情も生じないので、Cも必ず作用していることがわかります。

A・B・Cがそろって はじめて ☹になりますね。

以上より、A&B&C が原因(あるいは しくみ・実体) だとわかります。

☹でない相手に対して ☹になる原因

次の A′&B′&C′ が原因です。

 A′= 「相手の状況が悪い」 と思う

 B′= 相手の状況に対する自因感

 C′= 「私は相手の状況を悪くさせたくない」

A′&B′&C′= 「私は相手の状況を悪くさせたくないのに、私が相手の状況を悪くさせた」

くわしくは こちら

☆ 何かをうまくできない子に対する親の☹が A′&B′&C′ の典型例です。

☆ 証明は A&B&C のと同様です。「何度も言ったのに」 などは自因感の証(あかし)ですよね。

☆ A′とC′があっても B′がなければ冷静に対処できる、というのも A&B&C と同様ですね。

☆ ☹に対して☹になるのを 互いにくりかえすときの、発端の☹の原因の1つが A′&B′&C′ です。
なお、発端の☹の原因のもう1つは、一方が実際には☹でないのに 他方が A&B&C になることです。

相手の☹の原因を知ると 自因感が弱まります

くわしくは こちら

相手の☹の原因は相手の A&B&C(A′&B′&C′) だと知ると、
「少なくとも 相手のBとC(B′とC′)は (自分によらない) 相手の性質だ」 と気づくので、次のようになっていきます。

☆ 「私うんぬんではなく、相手が☹になるのは 理にかなっている (ごく自然だ)」 と感じます。
 例) 見下されたときに 「見下したいんだな。そりゃそうだよね (私うんぬんではなく)」 と思う。

☆ 相手の☹に対する自因感が弱まるため、A&B&C が(ほぼ)成立しなくなり、☹にならなくなります。その結果、
Cに沿って利他的にふるまいやすくなります (相手の☹をそっとしておく・相手にやさしくする など)。
・怒られたり嫌われても、相手の感情を除いた 相手の意見 をうけとめやすくなります。

A&B&C(A′&B′&C′) の結果として生じる 志向や言動

くわしくは こちら

BとC(B′とC′) をもつ人は、A(A′) が生じたら最後、A&B&C(A′&B′&C′) が完成してしまうので、以下になりがちです。

自責
完璧主義
← 絶対に相手が☹にならないように。
死にたい ← 生きている限り 相手が☹になる可能性から逃れられないので。

他責
「☹になるな!」
とか 「失敗するな!」 と相手を責め、
不寛容・批判・威圧・暴力・虐待・いじめ などに至ります。

利他的にふるまいたくない
利他的にふるまったのに 相手が☹(次の☆)だと、BとCをもつ人は 「私は相手を☹にさせたくないのに、どうやっても 私が 相手を☹にさせてしまう」 と"絶望"します。
・相手の反応しだいで"絶望"することになるので、怖くて 利他的にふるまえなく なりますよね。
・わざと人に迷惑をかけて 「それでも私は許される (相手を☹にさせない) のだ」 と感じることによって、積年の"絶望"をうめあわせようとする人もいます。

☆ 利他的にふるまわれると ☹になる
「誰だって利他的にふるまいたくないはず(前の☆)。なのに 利他的にふるまってくる相手は ☹だろう」 と思う(A)と、BとCをもつ人は☹になります。

☆ その他
・人(評価)に依存・過剰な承認欲求: [相手が☹でないこと] を求めている状態
・対人の不安・緊張
・人を避ける

以上の志向や言動に対して 「それは良くないから やめなさい」 と言うだけでは 根本的な解決にはなりませんよね。

………………

【利他的なふるまいの補足】

C(C′)があるのに、B(B′)の作用によって 利他的にふるまえなくなる、という逆転現象の例を挙げます。

親切にされたとします。
・自因感が弱いと、自分がどう ではなく、相手の厚意をねぎらいたくて感謝を伝えます。
・自因感が強いと、相手よりも自分にフォーカスして 「私が気を遣わせてしまった。私は頼んでないのに (不満)」 とか 「親切にされたのは私に価値があるからだ」と思い、感謝は生じません。

自分が待ち合わせに遅れて 「相手は怒っている」と感じたとします。
・自因感が弱いと、自分がどう ではなく、待ってくれた相手をいたわりたくて謝ります。
・自因感が強いと、相手よりも自分にフォーカスして 「(電車が遅れたからで) 私は悪くないから」 謝らなかったり、謝るものの 反省にとどまらず自分を責め続けてしまいます。

会話で意図がなかなか伝わらないとします。話し手・聞き手の いずれの立場でも、
・自因感が弱いと、☹にならずに 歩み寄り (伝える工夫や理解する努力) を続けられます。
・自因感が強いと、「私は歩み寄っているのに 何で…」 と不満(☹)になったり、☹な相手に☹になり、歩み寄れなくなります。

「私がもっとがんばっていれば…」 と悲しむ相手に対して、「あなたは十分にがんばったよ」 と声をかけても、相手は悲しみ続けるとします。
・自因感が弱いと、「十分にがんばったと私は思うけど、もっとがんばっていれば という気持ちなんだね」 と寄りそうことができます。
・自因感が強いと、「十分にがんばったと言っているのに、いつまで嘆くんだ」 となり、相手は 「責められた」 とか 「共感してもらえない」 と感じます。

【その他の補足】

・このホームページで ☹という記号を使う理由は、本人の心理状態だけでなく、相手に与える印象も 読者にイメージしやすくするためです。
花子にストレスを感じている太郎を、花子は次のように感じやすいですよね:
 ピリピリしてる・不満げ・不機嫌・嫌っている・ため息をつかれた・がっかりされた・嘆き悲しまれた・冷たい・やさしくない など。

・[ストレス]などの語は、A&B&C(A′&B′&C′) を指すとも、A&B&C(A′&B′&C′) の結果生じた心理状態を指すともいえます。
そのため、タイトルの[実体]は、しくみ や原因と言いかえることもできます。
また、タイトルの[対人]は人間関係などに、[ストレス]は嫌な気持ちなどに おきかえることができます。

・自因感の強い人に 「相手の☹は相手の課題ですよ」 と助言しても 自因感を弱められないのは、
昔の人に 「天気は あなたたちとは関係ないですよ」 と助言しても 自因感を弱められないのと同じですよね。

・☹の原因は自分も相手も同じですが、相手の☹の原因を意識する (正確に相手の心を思いやる) のが効果的です。

・C(C′)が存在するのに 利他的にふるまえない・他責的になる、という逆転現象は B(B′)がなければ起こりません。

・「自因感があるのに他責に至るのは 矛盾では?」 という疑問にお答えします。
何に対する自因感か を確認してみましょう。Bは [相手の気持ち] に対する自因感、B′は [相手の状況] に対する自因感 ですね。
[自分の怒りや不満] に対する自因感ではありませんので、「私を怒らせるな」 などと相手を責めることと矛盾しません。

・「相手は私に反応しているのだから、私の自因感が弱まるのは不自然では?」 という疑問にお答えします。
相手のおだやかな反応については、それを生じさせたのは自分と相手の両方だ と感じるのは自然でしょう。
一方、相手の☹は A&B&C(A′&B′&C′) なので、自分はあまり影響を及ぼせない と感じるのではないでしょうか。
特に、自分はおだやかで相手に圧をかけていない (あるいは、自分の状況は悪くない) と思うときに 相手が☹である場合は、なおさらです。

【具体例集】

・人間関係・勉強・仕事などがうまくいかない人に対し、親・教師・上司などが不機嫌・嘆く・怒る。
← A′&B′&C′

・怒られて怒る、怒られて傷つく、ため息をつかれて不快、不機嫌な相手に不満、などなど。
← A&B&C

・道ですれ違う相手の☹な視線や 道をゆずらない相手 に対してストレス。
← A&B&C
自因感がなければ、「相手が道をゆずらないのは、(私が悪いからでも、私に通る権利がないからでも なく) 相手がそうしたいから」 という感覚なので平気です。

・すれ違う時によけない・自分からは挨拶したくない・見返りを求める。
← [利他的にふるまったのに相手が☹な場合] の"絶望"(←A&B&C) を恐れて 利他的にふるまえない。

・攻撃的な運転をする。
← BとCをもつ人が、他の車の敵意や悪意を感じて(A)。

・見下されるとストレス。
← BとCをもつ人が、敵意や嫌悪感をいだかれたと感じて(A)。
見下されたときのストレスが強い人の一部が、他人を見下すと考えられます。

・自分はおだやかにふるまっているのに、にらまれる。
← BとCをもつ相手がこちらの☹を警戒・想定している(A)。

・進路に立っている人に動いてほしい時に 「すみません」 と言えない。
← 自因感が強いと 「すみません」=「私が悪い」 という意味合いになるため。

・ありがとうやごめんを言わない。
← 自因感が強いと 感謝や謝罪が苦痛になるため。

・怒られたり失望されるのを恐れて 悩みを相談せず抱え込む。
← A&B&C

・手厚く対応してもらえないと 落ち込んだり怒る。
← BとCをもつ人が、相手を不親切(冷たい)と感じて(A)。

・分かってもらえない・言うことを聞いてもらえない と☹
← BとCをもつ人が、相手を不機嫌とか冷たいと感じて(A)。

・人の意見に反発・不寛容。人を批判したがる。
← BとCをもつ人が、意見を言われると批判された(嫌われた・怒られた)ように感じて(A)。

・嫉妬
← BとCをもつ人が、相手からの嫌味や第三者からの落胆や批判を想定して(A)。
また、相手との差について、自分の能力や努力が足りないのが原因と感じて(B)。

・いわゆる自己肯定感の低下
← A&B&C(A′&B′&C′) による自責のくり返し。
なお、自因感が弱い人は、対人で喜んだり反省することはあっても、自分自身を特には肯定も否定もしないと考えられます。
A&B&C(A′&B′&C′) の結果生じた自責(自己否定)を埋め合わせるものとして、自尊心や自己肯定感という概念が生まれたのでしょう。

【Aに関する対策】

対人ストレスを減らす方法として、従来は Aに関する対策が重視されていました。

☆ 相手が実際には☹でないときにも Aが生じやすい・「相手が☹になるのでは」 と恐れている
この性質ゆえに、相手の状態によらず常に (ほぼ)A&B&C になっている人は たくさんいます。
そのような人に対して、「相手が☹だとは限らないですよ」 とか 「相手が☹になる可能性は低いですよ」 と助言しても、あまり効果はありませんよね。
自因感が強い限り、相手の☹を恐れるがゆえに、相手が☹である(相手が☹になる) 可能性を重視してしまうからです。

☆ 実際に相手の☹を引き起こしやすい
この性質の主な要因としては、ミスが多いこと・失礼が多いこと・☹になりやすいこと が挙げられます。
行われている対策と その問題点は以下のとおりです。
・ミスを減らす工夫をしたり、失礼のないように対人スキルを身につける。
 → これに偏ると できない自分を責めてしまいます。
・自分の☹を相手に気づかれないようにする。
 → 隠しきれないことが多いです。
・怒らないで などと相手にお願いする。
 → 火に油になりがちです。
・「ミスや失礼や☹は 私の性質 (私の側の問題) なのです」 という旨を相手に伝える。
 → 相手の自因感を少し弱められるかもしれません。内心では自分を責めないことが大切です。

【☹の原因は他にある?】

☹の原因が A&B&C(A′&B′&C′) なのは、1つの見方というよりは、論理的に一意に定まるものですが、あえて他の可能性を検討してみましょう。

・「相手に求める・期待するから」、「相手をコントロールしようとするから」
何を期待するのかというと、相手が☹でないことや 相手の状況が悪くないこと です。
なぜ期待してしまうのかというと、相手の☹や 相手の状況が悪いこと が苦痛だからですよね。
なぜ苦痛なのかというと、A&B&C(A′&B′&C′) です。
つまり、相手に求めたり相手をコントロールしようとするのは A&B&C(A′&B′&C′) の結果です。

・「自尊心が傷つくから」
自尊心は [自分が自分をどう思うか] の一種です。
「相手は私を悪く思っている」 と感じても、自因感がなければ [自分が自分をどう思うか] には影響しません。
自尊心が傷つくのは、A&B&C(A′&B′&C′) の結果ですね。

・「過敏だから」
相手の気持ちや相手の状況 に対して過敏、つまり A(A′)が生じやすい、というだけでは☹になりません。
☹になるときには BとC(B′とC′)も作用していますよね。
A(A′)が生じやすくても B(B′)が弱ければ、それは おだやかに 相手に心配りをしている状態です。

・「自意識過剰だから」
自意識過剰というのは、Aの生じやすさ、またはAとBを区別せずに混同したもの を指すと思われます。

・「怒られると危害の予感がするから」
PTSDをもつ人には 恐怖の原因になりえます。

【精神疾患との関係】

☆ 精神疾患と対人ストレス
・統合失調症の妄想や幻聴の多くは 人から悪く思われる内容です。
・双極性障害では、対人ストレスをきっかけに うつになったり、対人の怒りをきっかけに 躁になる人もいます。
・[うつ病 ← 過労 ← 仕事を抱え込む ← 怒られるのが怖い] のように対人ストレスに起因するケースはよくみられます。
・摂食障害・依存症・不安症・強迫症などの症状も 対人ストレスから派生しているように思われます。

☆ 発達障害の診断と対人ストレス
・「人の気持ちが分からない私は自閉症スペクトラムだと思う」と受診するも自閉症傾向はみられず、よく聞くと 「あなたは人の気持ちが分からず私を怒らせる」 と親から責められるのがつらい、と。
 → このケースの本質は、親(BとCあり)が 子に察してもらえないと冷たくされたと感じ(A)て ☹になり、それに対して子(BとCあり)が☹になる、という双方の A&B&C です。
・不注意が多くなくても、ミスのたびに親などが☹ (A′&B′&C′) になり、それに対する本人の☹ (A&B&C) が強ければ、本人も親も 「不注意による支障や苦痛が大きい。ADHDだと思う」 と訴えて受診します。

☆ ストレスを標的にする意義
精神疾患の治療や研究においては、ストレスの発生そのもの よりも、ストレス発生前(遺伝子や特性など)とストレス発生後(症状など)の関係が重視されがちですが、それでよいのでしょうか。
例えば ウイルスなら、感染時の症状から人を[無症状型]・[発熱型]・[発疹型]などと分類した上で 遺伝子を比べたり治療をするよりも、ウイルスそのものを標的にする方が近道ですよね。
ウイルスをストレスに置き換えても同様です。
また、以下の可能性もあるので、症状や診断ごとの治療や研究は もぐらたたきの懸念があります。
・時代とともに精神症状が変化する(昔は摂食障害は存在しなかった・依存症で新たな依存対象が出現するなど)。
・精神疾患にかかる人が減っても、ストレスの影響で 癌や虚血性心疾患や脳血管障害にかかる人が増える。
・1つの疾患が治った人に別の疾患が生じる。
ストレスを標的にする方が根治的ですよね。

まとめ

相手が☹なら 相手は A&B&C(A′&B′&C′) です。これを知れば 自分は☹にならなく なっていきます。

【おわりに】

わたしたちは ☹の原因を知らぬがゆえに 自因感にさいなまれ、互いに☹になることをくりかえしてきました (怒られたら嫌な気持ちになるのが あたりまえ でした)。

幽霊の正体見たり枯れ尾花― ☹の原因を 多くの方に知っていただけますと幸いです。

最後になりましたが、ご意見をくださった皆さま ありがとうございます。今後もホームページを更新してまいります。