教育講演3 新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)の現状と今後の課題について |
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砂川富正 |
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国立感染症研究所感染症情報センター |
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【概要】 |
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2009年6月11日、WHOによってパンデミック危険度が最大のフェーズ6に引き上げられた新型インフルエンザA(H1N1)pdmは、8月中旬現在世界中でなお患者数増加の一途を辿っており、1700例を越える死亡例が各国から報告されている。このウイルスは、元々は北米大陸およびユーラシア大陸の豚インフルエンザウイルス、北米大陸の鳥インフルエンザウイルス、そして、ヒトインフルエンザウイルスの4種類の遺伝子が交雑していることが判明している。わが国においては、5月16日以降に明らかになった神戸市・大阪府などにおける集団発生事例が国内初の二次感染例であった。本邦の患者発生はこの5月中の集団発生が一度収束傾向となった後、6月中旬以降に再び増加となる特徴を有し、このような状況が他国では殆ど見られていないことから世界的に注目されている。神戸・大阪の事例後、急速に広がった、「新型インフルエンザは弱毒」と言う過度のアピール(実際にはWHOは新型インフルエンザの病原性についてmoderate(中間程度)と表現している)によって、国民全体の防疫に関する意識が急速に冷めるという現象が発生したように思われる。結果として、国内初の死亡例(基礎疾患のある50歳代男性)が沖縄県より発表された8月15日以降、一転して国民全体に不安が急速に広がっている。我々はまだ、パンデミックの入り口に立っている段階であり、今後、第一波にどのような形で進展していくかを見極め、適切な被害想定のもとに対応を考える必要がある。外来・入院の医療体制確保は喫緊の課題であろう。世界では、8月中旬現在までに、冬の季節である南半球の各国においては、南アフリカを除き(季節性インフルエンザと同時流行)、今季、新型インフルエンザA(H1N1)pdmは、多くの温帯地域において突出して発生した。しかしながら、現在、新規の外来患者、入院患者の数は減少中である。北半球の国々においても全体としては減少傾向にある。ヒトの世界での患者数の推移とともに、ヒトから豚、あるいはヒトから鳥などの感染伝播などの情報も伝わってくる。日本では定点あたり報告数が8月16日現在1を超えたと言うことで今後急激な増加傾向になっていくのであれば、これは世界的にも注目される状況であると言えよう。 |
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【考察】 |
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新型インフルエンザA(H1N1pdm)の状況は国によって様々であるが、学校などにおける準閉鎖コミュニティーにおける爆発的な集団発生、引き続く市中感染という状況の進展は共通である。ピーク時、大量の患者が発生し、医療機関のキャパシティーが不足する可能性は高い。また、重症化リスクを有するグループがあり、若年成人の入院率・致死率は世界的には季節性よりも高いとされる。季節性インフルエンザの同時流行の可能性もある。これら、国内外における新型インフルエンザを取り巻く状況を紹介し、今後の課題について述べる。 |
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