5 ドブネズミより分離された Arthroderma vanbreuseghemii |
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○ 佐野文子 1)、春成常仁 2)、鎗田響子 1)、花見有紀1)、高山明子1)、亀井克彦 1)、高橋容子 1、3)、谷川 力 2) |
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1) 千葉大学 真菌医学研究センター、2) イカリ消毒株式会社 技術研究所、3)
きさらづ皮膚科クリニック |
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【目的】 |
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皮膚菌糸状症はヒトと動物の間での接触により感染する人獣共通真菌症で、ヒトが動物由来の皮膚糸状菌に感染すると激しい炎症を起こすことはよく知られている.主な原因菌は Microsporum canis と Trichophyton mentagrophytes(無性型)があげらる.なお T. mentagrophytes の有性型は Arthroderma vanbreuseghemii、A. benhamiae、A. simii が知られている.このうち A. vanbreuseghemii は古くからわが国でも多くの症例が報告されており、ヒトは愛玩動物および実験動物用げっ歯類との接触による感染が報告されているが、それら動物の感染経路は明らかではない.海外ではネズミを捕る習性のあるネコで本菌種の感染率が高いことから、ネズミが感染に関与していることが示唆された(Drouotら、Vet. Dermatol.、20; 13?18、2009).しかし、わが国では都市型野生動物としてのげっ歯類での本菌種の保有率は調査されていない.そこで、我々は千葉県と東京都で捕獲されたドブネズミ、クマネズミの皮膚糸状菌症原因菌 A. vanbreuseghemii の保有率を調べた. |
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なお本菌種の無性型に関する概念が訂正され、T. mentagrophytes にはかつての好人性の T. mentagrophytes var. interdigitale、T. mentagrophytes var. nodulare および T. mentagrophytes var. goetzii、好獣性の T. mentagrophytes var. granulosum が含まれていたが、これらを一括して T. interdigital eとすると名称が変更された(Nenoff ら、JDDG 5:198-205、2007).しかし、この名称は混乱を招いていることから、我々は旧来の名称 T. mentagrophytes を用いた. |
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【方法】 |
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2008年8月より2009年6月までに東京都(17頭)もしくは千葉県(16頭)で捕獲されたクマネズミ7頭(雄4、雌1、性別不明2)、ドブネズミ26頭(雄9、雌10、性別不明7)計33頭について調べた.いずれのネズミも外見に脱毛、貧毛などの変化を認めなかった.エーテル吸入による軽麻酔下で、市販の歯ブラシで被毛表面を20回こすり、歯ブラシに付着した被毛、落屑をアクチジオンと抗生物質を添加したポテトデキストロース寒天平板培地にて、35℃、14日間培養して、白色綿毛状集落を釣菌し、形態学的、リボゾーム遺伝子ITS領域の配列による分子生物学的同定および分子疫学的解析を行った. |
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【結果】 |
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千葉県で捕獲された雄のドブネズミ1頭より T. mentagrophytes(無性型)が分離された.またこの株のリボゾーム遺伝子ITS領域の配列は A. vanbreuseghemii 由来配列から構成されるクラスターに属したことから、この株を A. vanbreuseghemii と同定した.さらにこの株の遺伝子型は千葉県で確認されたヒト由来株と100%相同であった.現在、ウレアーゼ活性、毛髪穿孔試験、交配試験などを追加中である. |
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【考察】 |
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愛玩動物由来のA. vanbreuseghemii による感染はわが国でももちろんのこと、世界中で多くの症例が報告されているだけでなく、アウトブレイクに発展した事例も知られている (Med Mycol. 47:539-544、2009).今回、ドブネズミから A. vanbreuseghemii が分離され、その株の遺伝子型はドブネズミ捕獲地域と同一県内で発症したヒト症例由来株と同一であったことから、ヒトおよび各種飼育動物の感染経路に都市型野生動物のげっ歯類が関与していることが示唆され、Drouotらの仮説を支持するものであった. |
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