第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


2 北海道,サハリンおよび極東ロシアにおけるタイリクヤチネズミとハンタウイルスの共進化の解析
 
○苅和宏明1),萩谷友洋1),谷川洋一1),瀬戸隆弘1),Nur Hardy Bin Abu Daud1),
宮下大輔1),岩佐真宏1),Lokugamage Kumari1),Lokugamage Nandadeva1),吉松組子2),
有川二郎2),Leonid I. Ivanov 3),中内美名1),好井健太朗1),高島郁夫1)
1)北海道大・院・獣医学研究科・公衆衛生学, 2)北海道大・院医学研究科,
3)Plague Control Station of Khabarovsk, Russia
 
【目的】
  北海道のタイリクヤチネズミ(亜種名エゾヤチネズミ)はヨーロッパで腎症候性出血熱の病原体となっているPuumalaウイルスと近縁のハンタウイルス(Hokkaidoウイルス)を保有していることが明らかになってきた。今回、北海道、サハリン、極東ロシアと地理的に海で隔てられた複数の地点でげっ歯類の疫学調査を行い、タイリクヤチネズミとHokkaido ウイルスの共進化について解析を行った。
 
【材料と方法】
  北海道根室市、当別町、上磯町、ユジノサハリンスク、ハバロフスク近郊で捕獲したタイリクヤチネズミの肺からRT-PCR 法でウイルスS遺伝子を検出し、塩基配列を決定した。また、ウイルスが検出されたタイリクヤチネズミからミトコンドリアのcytochrome b 遺伝子を増幅し、塩基配列を決定した。
 
【結果】
  今回捕獲されたタイリクヤチネズミから合計8例のウイルスが検出され、S遺伝子のほぼ全長の塩基配列を決定した。根室市の個体から検出されたウイルス(Kir126)のS遺伝子の塩基配列は他の北海道、サハリン、極東ロシア由来ウイルスとそれぞれ95%、87%および80%の一致率を示し、由来地の距離が近い程、近縁関係が強いことが判明した。同様にタイリクヤチネズミのcytochrome b 遺伝子でも捕獲地間の距離が短い程、近縁関係が強いことが明らかになった。
 
【考察】
 海で隔てられた地域から得られたげっ歯類とウイルスの遺伝子解析の結果から、地理的に隔離されたげっ歯類の集団ごとにウイルスの変異が独立して蓄積されることにより、げっ歯類とハンタウイルスの間で次第に共進化が進行していくことが示唆された。今回の研究により、同一種のげっ歯類内においてハンタウイルスがどのように進化していくのかその一端が明らかになった。
 
←前のページ次のページ→

研究会目次
カウンター