第4回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


3 A群トリロタウイルスはヒトに感染している
 
  ○杉山 誠 1),山吉誠也 2),伊藤直人 2),源 宣之 2)
1)岐阜大学大学院連合獣医学研究科
2)岐阜大学応用生物科学部人獣共通感染症学
 
【目的】
  我々はハト由来A群トリロタウイルスPO-13株が哺乳類に感染し、下痢を引き起こすことをマウスを用いて証明してきた(Virology 288, 2001)。PO-13株が分離された1983年にはドイツでトリロタウイルスがウシの間で流行したと報告されている。しかし、トリを含め自然界でのトリロタウイルスの感染環は不明のままである。今回、本ウイルスの感染環の解明を目的に、トリロタウイルスに対する抗体を特異的に検出するラテックス凝集(LA)試験の確立を試みた。続いて、トリロタウイルスがヒトに感染している可能性を追求するために、ヒトにおける血清疫学調査を実施した。
 
【対象と方法】
  GSTと融合させたPO-13株およびヒト由来WA株のVP8蛋白質を大腸菌で発現させ、精製した後、これらをLA試験に応用した(それぞれPO-、Wa-LA試験)。血清はカオリンで一回処理された後、各LA試験に供試された。秋田県のヒト100例および岐阜県のハト80例の血清を用いて、それぞれWa株およびPO-13株に対する中和試験とLA試験を行い、その結果を比較した。中和試験はMA104細胞を用いたTCID50法で行われた。8倍以上の中和およびLA抗体価を有する個体を陽性と判定した。さらに、A群ロタウイルス10株に対する抗血清を作製し、PO-およびWa-LA試験の交差反応性について検討した。次に、1975-92年に秋田県で採取されたヒト血清3,327例を用いて各la試験による抗体調査を行った。
 
【結論と考察】
  ヒト血清においてWa-LA試験と中和試験との結果の一致率は91.0%であった。両試験の抗体価の間には高い相関関係が認められた(r=0.817)。同様に、ハト血清においてPO-LA試験と中和試験の結果の一致率は80.0%であり、両抗体価間には比較的高い相関関係が認められた(r=0.794)。10株の抗血清を用いた交差LA試験では、LA抗原と免疫ウイルスVP8蛋白質のアミノ酸ホモロジーが80%以上の場合に交差反応がみられたが、それ以下では交差はみられなかった。以上の結果から、PO-LA試験はトリロタウイルスP[17]遺伝子型に対する抗体を、Wa-LA試験はP[4]あるいはP[8]遺伝子型のヒトロタウイルスに対する抗体をそれぞれ特異的に検出する中和試験と同等の感度を有する方法であることが示された。ヒトにおける抗体保有率はPO-およびWa-LA試験でそれぞれ1.4%および85.8%であった。この集団ではP[4]あるいはP[8]遺伝子型のヒトロタウイルスの感染が主に起こっており、低頻度でトリロタウイルスの感染が起きていることが示唆された。1985年のPO-LA抗体保有率(7.5%)が全体(1.4%)に比べ高い傾向がみられたことから、秋田県において同年にトリロタウイルスの小規模な流行があった可能性が考えられた。今回の結果は、トリロタウイルスが人獣共通感染症の病原体である可能性を初めて示したものである。
 
共同研究者:中込とよ子(秋田大医),中込 治(長崎大医)
 
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