重心動揺計という機械で重心を測ってみます。上の図は静止立位の重心の動きを示しています。この機械では、1秒間に100回、重心位置を測っています。では、どうやって重心を測っているのでしょうか?
それは「身体重心」でも説明済みの体重計を使った重心測定と同じです。「重心はつり合い点」ですので、前後と左右の支点の力がわかるよう、重心動揺計には3つの荷重センサが入っています。荷重センサは体重計といい変えてもよいです。とにかく、板を3点で支え、その支える力を測っています。
紹介する重心動揺計は形が三角計です。それぞれの頂点の近くに荷重計が埋め込まれています。それぞれのセンサの名前をZ1、Z2、Z3、とつけます。
今、それぞれのセンサの荷重がZ1 = 10 kg、Z2 = 20 kg、Z3 = 30 kgだったとします。
左右方向であるX方向の力のつり合いは、下の図のようになっています。
モーメントのつり合いより、
-0 cm × 10 kg - 25 cm × 20 kg - 50 cm × 30 kg + Gx × 60 kg = 0
これを解いて、
Gx=33.3 cm
Z2が原点0だとすると、中心から左へ8.3㎝の位置、となります。
同様に、前後方向Y軸方向を考えます。
力のつり合いは、下の図のようになっています。
モーメントのつり合いより、
-0 cm × (10+30)kg - 30 cm × 20 kg + Gx × 60 kg = 0
これを解いて、
Gy=10 cm
Z1とZ3の位置から6cm前方に原点0があるとすると、中心から前へ4㎝の位置、となります。
さて、先に前後、左右のセンサの荷重から重心を求められることを説明しましたが、正しく言えば、これは重心そのものではなく、床にかかる力の中心、圧中心(Center of pressure: COP)と呼ばれます。身体重心はこの鉛直線上にあり、身体重心の床への投影点が圧中心です。静止していれば、圧中心と身体重心の前後、左右方向位置は一致しますが、運動中は少しずれます。例えば、静止立位から一歩足を前に出そうとしたとき、身体重心が動く前に、床反力作用点が踏み出す方の足へ移動します。
重心動揺検査では、多くの場合、静止状態で計測するので圧中心を身体重心と考えて差し支えありません。動的状態は厳密に言えば、身体重心と圧中心の位置は一致しませんが、両者を区別することなく扱うことが多い。
重心動揺計で静止立位姿勢の重心動揺を計測した結果を示します。
計測条件は開眼と閉眼の2条件、計測時間は30秒、計測回数は1秒間に100回としています。
青の軌跡が重心の動きを表します。これは開眼の重心動揺図です。およそ2センチメートル四方の範囲に収まっています。
目を閉じる条件での結果が次の図です。
閉眼条件では、視覚が使えない分、重心の軌跡は広がる傾向がありますが、今回はそれほど大きな違いは見られませんでした。平衡を保つのに、視覚に頼る人では、重心動揺が大きくなります。
次に、動的バランス条件、前後に重心を移動させた時と左右に移動させたときの重心動揺図を示します。
前後に15㎝くらいの振幅で軌跡が描かれています。左右方向に重心を動かしたときは、
左右方向もおよそ15㎝くらいの振幅で揺れています。この振れ幅は、足の支持基底面の内部に収まっています。支持基底面内で動かせる範囲が大きいほど、動的には安定性が高い、と表されます。