上の図は箱形の物体を表しています。重心位置には重力が鉛直下向きに作用しています。この物体の床と接している部分が支持基底面(Base of support)です。支持基底面の境界と重心に引いた直線が床面とつくる角度をα(アルファ)で示しています。
このままであれば、この箱は倒れることがありません。これが安定です。次に、この箱を傾けていきます。
少したたたところですが、この状態では、床と物体の角が接している接点まわりでは、反時計まわりのモーメントが生じています。元に戻る作用であり、この状態も力学的には安定と言います。
この状態は重心がちょうど箱の角の接点の真上にあるところを示しています。重力の作用線は接点上にあり、この箱は元に戻るかもしれないし、倒れるかもしれません。この状態はどちらにも変わり得るので準安定な状態と呼びます。安定と不安定の境目にある、とも言えます。
この状態では重心に働く重力により、箱の角の接点まわりに時計回りのモーメントが生じています。これは、箱を元の支持面にもどることはなく、倒れます。そして、新しい支持基底面で安定することになります。この状態は不安定です。
物体には重力が作用します。この重力がどこに作用するのかを考える時、重心に重力が作用する、と考えると、支持面との関係で安定な状態か否かを判断しやすくなります。
安定性の高さを、同じ物体の置き方をかえて見てみます。重心が低く、支持基底面が広ければ、傾ける角度は大きくなり、なかなか倒れません。しかし、重心が高く支持基底面が狭いと、少し傾けただけでも倒れてしまいます。物体が安定した状態にあるか、不安定な状態にあるかは、重心と支持基底面の関係を見ることで、明確に言い当てることができます。
人の立位姿勢の安定性も、身体重心と支持基底面の関係で推し量ることができます。立位姿勢の支持基底面は、立っている人の足底面と左右の境界を結んだ面積になります。
静止立位重心動揺では、支持基底面の中の重心がどれだけ動かないかで安定性を評価します。動いて支持基底面の境界に近づくと不安定になるからです。また、わざと不安定な状態にして動揺が大きくなるか、両足をピッタリつけたり、足を前後に、右の踵を左のつま先に置く、などで動揺を調べることがあります。
動的安定性では、逆に支持基底面の境界まで重心を移動しても倒れないでいられる能力を見ています。
振れ幅は、足のサイズによって異なります。足のサイズが大きい人ほど大きく、小さい人ほど小さくなります。よって、サイズの影響を除くため、動的安定性の指標となる、動揺振幅は、足のサイズに対する比が用いられます。