上の図はHHD(Hand Held Dynamometer: HHD 手持ち型筋力測定器)で膝関節の伸展筋力を測っている様子をあらわしています。HHDは力を測定するセンサを内蔵し、そのセンサが感知した力を表示しますが、結果として残るのは、感知した力のうち、最大の値です。この力を計測するセンサは、茶碗にのせたご飯の重さを測ったりする、デジタルキッチンスケールと同じようなものです。加えられた力が「kg(重量)」あるいは「N(力)」で表示されます。
この表示される値は、この膝の伸展筋力を測る場合だと、押さえる場所によって変わってきます。下腿の遠位におくほど小さな値に、膝に近づくほど大きな値になります。これは、筋肉は収縮して一定の力を出すと、膝を伸展する回転力も一定になるからです。この回転力のことをモーメント、あるいはトルクと呼びます。関節を回転する力はよく、筋トルクとも呼ばれます。徒手的に力を測る場合も、関節の近くで抵抗をかけるより、離れた位置で抵抗をかけるほうが、検査者は楽なはずです。
肩関節外転90度、肘関節屈曲90度の肢位から肘を伸展する力を測る様子を示しています。今、Aの位置で値が100Nと示された場合、Bの位置で計測したら何Nになるでしょうか?この人はどちらも最大努力で肘を伸ばしているとします。Aの位置で100Nだとすると、この人は、肘関節を100N×0.6m=60Nmのトルクを発揮できます。Bの位置での力は60Nm=(Bの計測値)×0.3mから、200Nと倍になります。
筋力をできるだけ正確に求める、という要求に答えられる機器として、筋トルク計測器があります。これは、バイオデックスやサイベックスという機械の名称で語られることが多いのですが、体節を回転するトルクを計測する機械です。トルクを計測するので、アタッチメントがどこについていようと、例えば、膝伸展トルクであれば、アタッチメントが下腿の上部にあろうが、足部に近い位置にあろうが、正確なトルクが計測できます。注意点としては、トルクマシーンの回転部の中心(軸)と、関節の運動軸を合わせることです。
筋トルク計測機器は、もう一つの特徴があります。それは、筋肉が短縮しながら力を発揮する、求心性収縮だけでなく、モーターでアタッチメントを運動方向と逆に動かすことによって、 遠心性収縮の力を計測できることがあります。HHDでは、関節が動かないように抵抗をかけて(動きをとめて)最大収縮力をはかりますので、求心性や遠心性収縮で最大筋力を測ることができません。筋トルク計測器では、例えば膝を伸展、屈曲しようとしたときに、回転速度を一定になるようにしています。強い力で早く動かそうとしても、速度を押さえるよう抵抗がかかりますので、最大筋力を計測できることになります。また、速度は自由に設定できますので、例えば、早い回転速度(180度/秒)と遅い回転速度(60度/秒)と条件を変えて筋力を測ってみる、ということもできます。
徒手筋力測定は、機器を使わずに筋力が推測できるので、臨床でもよく用いられる方法です。肢位が決められ、基準も「重力に抗して可動域全般を動かせれば3」などと明確に定義されています。評価は5(強い抵抗に抗して運動可)が最大、0(収縮もない)が最小です。
このグレード、5・4・3・2・1・0は、5が100%-80%の力、4が80%-60%、3が60%-40%、2が40%-20%、1が20%以下、そして、0が0%、のようなイメージを与えがちです。
しかし、膝の伸展筋力を考えると、重りなしで膝を完全に伸展する3の時の関節トルクは、およそ4Nm(膝から下腿と足部の重心位置までの距離が20㎝、下腿と足部の重さを2kgと想定)。伸展位で足関節周囲に巻いた5kgの重りを保持できるとすると、膝から足関節までの距離を30㎝、では、0.3m×50N=15Nmとなります。これが3のトルクに重なりますので、5では19Nmのトルクが発生するはずです。
この5の19Nmを100%の筋力とすると、これに対して、3の4Nmの筋力は4/19×100で21%です。つまり、正常の筋力を5とすると、3はその半分どころか、もっと小さく2割ほどです。
3以上の段階が4と5しかない、という状況は、本来備えるべき筋力の8割が正確に捉えられていないことになります。徒手筋力検査はこうした限界があることを踏まえ、評価を解釈する必要があります。