ここまでで、歩行周期、歩行時の下肢関節運動を見てきました。今回は関節運動がどのような筋の収縮でコントロールされているのかを見ていきます。
まずは歩行時の筋の活動を見る前に、歩行時の関節モーメントについて、股関節、膝関節、足関節それぞれで見ていきます。
股関節は着地後すぐ伸展モーメントを発揮します。立脚中期以降は遊脚に備え、伸展スピードを減少させるため屈曲モーメントを発揮します。遊脚周期になると反対に股関節屈曲に制限をかけるため伸展モーメントを発揮し、過度の屈曲を抑えます。
膝関節は着地の瞬間は屈曲モーメントを発揮し、膝を屈曲します。その後、立脚中期にかけて体重を支えるため伸展モーメントを発揮します。その後に見られる屈曲モーメントは、膝窩後面の組織が伸張されることにより生じる。遊脚初期には膝の屈曲を抑えるため伸展モーメントを発揮する。遊脚周期は再び膝の伸展を抑えるため伸展モーメントを発揮する。
足関節モーメントは初期接地では足を背屈に保つために背屈モーメントが生じ、その後、前遊脚期にかけて底屈モーメントを高め、脛骨が前方に倒れるのを防ぎ、蹴り出しを助ける。
以上に示したモーメントは、床反力を元に、運動方程式を立てて算出されたものである。ここで、歩行時の関節モーメントの計算する鍵となる、歩行時の床反力についても見ていきます。
床反力とは、その名前の通り、床からの反力です。人が立ったり、歩いたりできるのは、床が人を支え、足との間の摩擦で前へと進む推進力を得られるからです。
床反力は、前後、左右、鉛直方向の力に分けられます。鉛直方向の力は体重による力と鉛直方向の加速度による力、前後、左右方向の力は摩擦力と加速度による力です。ベクトルの矢印が関節に対してどの方向を向いているかに注目して下さい。例えば、着地時は摩擦力により、床反力は足関節の後方を通ります。この床反力によって、底屈方向の回転モーメントが生まれます。人の身体の中(足回りの筋肉)では、この回転力に対抗する力、背屈方向のモーメントを発揮しないと、足は急激に底屈します。急激な底屈が生じないのは、足関節の背屈キンが背屈モーメントを生み出しているからと考えられます。
床反力を前後、左右、鉛直成分に分け、立脚期の変化を示したのが以下のグラフになります。
立脚期の鉛直方向床反力は二峰性を示します。着地時に最下位にあった重心が立脚中期にかけて上昇し、遊脚期にかけて再び下降するからです。重心が上がる時、加速度はプラスからマイナスへ、重心が下がる時はマイナスからプラスへと変化します。この加速度の変化を反映しています。
立脚期の前後方向床反力はマイナスの山とプラスの山を持ちます。着地から立脚中期にかけては減速のためマイナス、立脚終期以降は加速のためにプラスを示します。
立脚期の側方(左右)方向床反力は、初期接地時に外側へ力を受けますが、その後は内向きの力を示します。
ここまで、関節モーメントと床反力が、歩行時にはどのように変化するのかを見てきました。内的なモーメントを生み出す筋の活動については、別のページで解説します。