Research3 of System Physiology, Graduate School of Medicine, University of Tokyo

3.Shear stress による遺伝子発現制御機構

Shear stress による遺伝子発現変化

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Shear stress が内皮細胞の遺伝子の発現を転写調節あるいは転写後調節することを明らかにした。既知の遺伝子だけでなく、多くの未知の遺伝子も shear stress に感受性のあることを mRNA の differential display 法で示し(BBRC 1996)、さらに DNA マイクロアレイ解析により遺伝子全体の約3%(約600の遺伝子に相当)が shear stress に応答することを観察した(J Atheroscler Throm 2003)。また、shear stress の感知に関与する P2X4 受容体の発現が shear stress で抑制を受けるが、これは転写因子 SP1 が関連した転写抑制に基づくことを明らかにした(Am J Physiol 2001)。

層流と乱流の shear stress による遺伝子発現制御機構の違い

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また、病態発生と関連して、動脈硬化巣は血流が乱流の部分に好発することが知られているが、遺伝子に対する shear stress の作用が層流と乱流で異なることを明らかにした。動脈硬化の発生に関与するウロキナーゼ型のプラスミノーゲン・アクチベータ(uPA)の遺伝子の発現は層流で低下し、乱流で増加した(Am J Physiol 2004)。この結果は乱流刺激により動脈硬化が形成する事実を支持する。その機構は層流では転写因子 GATA6 を活性化し転写を抑制するとともに mRNA の分解速度を速める効果が認められた。一方、乱流では転写には影響せず、mRNA の安定化を起こす作用が確認された。
内皮細胞だけでなく、肝細胞においても shear stress が PAI-1(プラスミノーゲン・アクチベータ阻害因子)の遺伝子の転写を活性化し、その遺伝子の発現を調節することが示された(Am J Physiol 2006)。.

Shear stress と cyclic stretch による遺伝子発現の違い

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研究室で開発したシリコンチューブ型流れ負荷装置による検討で内皮細胞における NO 合成酵素(eNOS)とエンドセリン(ET-1)の遺伝子の応答が shear stress と cyclic strain の同時負荷と各々の単独負荷では異なることを観察した(J Biotechnol 2008)。