Research1 of System Physiology, Graduate School of Medicine, University of Tokyo

1. Shear stress の感知と情報伝達機構

Shear stress の大きさを細胞内カルシウム濃度に変換する P2X4 プリノセプター

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内皮細胞が shear stress を感知して、その情報を細胞内部に伝達する機構に関して、セカンドメッセンジャーである Ca2+ を介する情報伝達経路がある。ヒト血管内皮細胞に ATP 作動性カチオンチャネルの P2X4 受容体が優勢的に発現し(Am J Physiol 2000)、それが流れ刺激で起こる Ca2+ 流入に中心的な役割を果たし、shear stress という物理的な大きさを細胞内 Ca2+ 濃度に変換するトランスデューサーとして機能することことが判明した(Circ Res 2000)。

Shear stress 依存的に放出する ATP が P2X4 を活性化する

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さらに shear stress による P2X4 の活性化には、流れ刺激によって放出される内因性の ATP が必要であり(Am J Phsiol 2003)、内因性 ATP の放出反応に、細胞膜カベオラ・ラフトに存在する FoF1ATP 合成酵素が関わっていることが判明した(Am J Physiol 2007)。最近、独自に開発した ATP のイメージング技術を用いて、流れずり応力による内皮細胞からの ATP 放出がカベオラから起こり、同じ局所でP2X4 受容体を介するカルシウムシグナリングが発火することを明らかにした(J Cell Sci 2011)。

Shear stress は細胞膜の物理的性質を変化させる

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以上の結果から、 shear stress のメカノセンシング機構として細胞形質膜の物理的性質が shear stress により変化し、それが様々な膜分子の活性化を引き起こす可能性が考えられた。そこで、培養血管内皮細胞にシェアストレスを作用させたときの細胞膜リン脂質-水系の構造(lipid order)の変化と膜流動性の変化を解析した所、シェアストレスを作用させると即座に細胞膜のlipid orderが減少し、膜の流動性が増加した。この変化は内皮細胞だけでなく、人工脂質二分子膜で構成されるジャイアントリポソームでも同様に観察されたことから、物理現象であることが証明された(J Cell Sci 2013)。更に、細胞膜流動性を減少させると、shear stress 依存的な ATP 放出が抑制されることを明らかにした。細胞膜流動性の変化は様々な膜分子を活性化することが知られており、シェアストレスによる膜流動性の変化が内皮細胞のメカノトセンシングに重要な役割を果たすことを示唆する。

P2X4 プリノセプターは循環機能調節に関与する

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P2X4 を介する shear stress のセンシング機構が生体に及ぼす作用を確認する為、P2X4 遺伝子の欠損マウスを作製した。このマウスの内皮細胞では shear stress による Ca2+ 流入反応が起こらずNO産生が抑制されていた。さらに、血流増加による血管拡張反応が障害され全身の血圧が上昇していた。また、血流を減少させたときに生じる血管のリモデリングも障害を受けていた。このことから、P2X4 は血流刺激の情報を伝達するセンサー分子で、循環系の生理的な調節に重要な役割を果たしていることが示された(Nature Medicine 2006)。