今度こそサレプタに引導を
株価と科学の関係
eteplirsen (Exondys 51)を巡るドタバタ劇

いずれも2016年9月の記事である。その前科者がまたやってくれた。手口も前回と同じ。主要評価項目で失敗して、代用エンドポイントのみで強行突破。そ れでも安全性で目立った問題はなかったから、お咎めはなかったが、今回釣り上げたのは泥鰌どころか雷魚(*)だったという顛末。(*丈夫な歯で人の手に噛 み付きます。また雷魚は有棘顎口虫の中間宿主です)

以下、「遺伝子治療薬「エレビディス」が安全性問題で出荷停止、広がる波紋 (MIT Technology Review 2025.08.01)」 より抜粋

この記事の3つのポイント
●デュシェンヌ型筋ジストロフィー遺伝子治療薬で患者の死亡例が発生
●FDAは出荷停止要請を出したが、サレプタ社は一時拒否
●患者コミュニティは治療選択肢を失い失望と懸念が広がってい

当初、エレビディスの承認は、DMDの影響を受けた人々によって祝福されたと、この疾患の研究に資金を提供し、影響を受けた人々を支援する組織であるデュ シェンヌ治療財団(CureDuchenne)の創設者、デブラ・ミラーは述べている。「私たちには意味のある治療法がほとんどありませんでした。素晴ら しい興奮でした」。

しかし、この承認は物議を醸した。この承認は「満たされていない医療ニーズがある重篤または生命に関わる疾患」の治療を目的とした薬剤に対して実質的にエビデンスの基準を下げる「迅速承認」プログラムの下で実施されたのである。

エレビディスは、患者の筋肉における人工タンパク質のレベルを増加させると思われたため承認された。しかし、患者の転帰を改善することは示されていなかった。無作為化臨床試験で失敗していたのである。

FDAの承認は、サレプタが別の臨床試験を完了することを条件として付与された。その試験の速報であるトップライン結果は2023年10月に発表され、詳細が公表されたのは1年後であった。再び、この薬剤は「主要評価項目」を満たすことができなかった。つまり、期待されたほど効果がなかったのである。

にもかかわらず2024年6月、FDAはエレビディスの承認を拡大した。4歳を超えて自立歩行が可能なDMD患者の治療に対して従来承認を付与し、歩行不能な患者に対しては迅速承認を付与した。専門家の中にはFDAの決定に愕然とした者もいた。FDA内部でさえも、一部がこの決定に反対していた。

2025年3月、エレビディスによる治療を受けた16歳の少年が死亡した。少年は治療後に急性肝不全(ALF)を発症していたと、サレプタが声明で述べている。6月15日、同社は2例目の死亡例を発表した。15歳の患者であり、こちらもエレビディス治療後にALFを発症した。同社は薬剤の出荷を一時停止すると発表したが、歩行不能な患者のみを対象とするとした。

6月24日、FDAは、エレビディスに関連する「入院および死亡を含む」重篤な転帰のリスクを調査していると発表し、「さらなる規制措置の必要性を評価し ている」と述べた。7月18日にはさらに悲劇的なニュースがあり、エレビディスとは別のサレプタの薬で治療を受けた3人目の患者が死亡したという報告が あった。この患者は51歳で、エレビディスを服用していたわけではない。肢帯型筋ジストロフィーの治療を目的としたサレプタの別の遺伝子治療の臨床試験に 参加していた。同日、FDAはサレプタに対してエレビディスのすべての出荷を自主的に停止するよう要請した。同社はこれを拒否した

この拒否は驚くべきものであった、とデュシェンヌ治療財団の最高科学責任者(CSO)であるマイケル・ケリーは述べる。「これは異例の措置でした」。大き なメディア報道の後、FDAがこの決定に「深く困惑」し、「完全な規制権限」を行使すると報じられたことを含め、サレプタは数日後に方針を転換した。7月 21日、同社は米国におけるエレビディスの全出荷を「自発的かつ一時的に」停止する決定を発表した。

再生医療等製品エレビジスに関する安全性情報に基づく対応について(中外製薬 2025/09/04)

参考:世界初のエクソン44スキップ薬『ブロギジルセン』が画期的なジストロフィン回復を実現(国立精神・神経医療研究センター 2025/1/10)

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