メラトニン中毒の症例


北九州総合病院 救命救急センター

西岡憲吾,岩野歩,梶山誠司,八木正晴,竹崎 亨,井上徹英

  【はじめに】メラトニンは,米国では,1995年頃より,ガンを防ぎ,抗癌剤の副作用を緩和する,免疫系を強化する,さまざまな病気に対しても抵抗力を高める,エイズに対しても効果,不眠症を治し,血圧を下げ心臓病を予防する.まさしく世紀の発見,不老長寿の秘薬であるといった,報道がされてきた.また,米国では栄養補助食品として販売されているために,容易に入手が可能である.今回,自殺目的にメラトニンを大量服用した症例を経験したので報告する.

 【症例】26歳女性.現病歴:17:30頃自宅に戻り倒れ込む.救急車にて17:45当院へ搬送.搬入時,意識レベル:JCS:200,血圧,脈拍,呼吸は正常.検査所見:白血球数が高値だが,トライエージも全て陰性で特異的な所見を認めず.メラトニンの瓶が見つかっていたため,メラトニン中毒と診断.気管内挿管後,胃洗浄を行い,クエン酸マグネシウム,活性炭を投与し,大量輸液,強制利尿を行う.胃洗浄後より,意識も回復,翌日には清明となり軽快退院となる.意識回復後,海外旅行中に入手したメラトニン3mgカプセルを約50カプセル服用したことを認める.

 メラトニン濃度は,搬入時の胃液:500,000 pg/ml,血清:27,600 pg/ml,尿:48,000 pg/ml,と著明に上昇していたが,翌日には血清:367 pg/ml,尿:84.9 pg/mlと急速に低下していた.

 【考察】メラトニンは脳の松果体において,トリプトファンからセロトニンを経て合成されるインドールアミン誘導体で,ヒトでは夜間上昇し日中の約10〜20倍に達する.色素細胞に対する退色作用,生体リズムの調節作用,性腺抑制作用,催眠作用,深部体温低下作用などの作用を持っている.副作用として悪夢,低血圧,睡眠障害,腹痛などがある.しかし,その他の薬剤との相互作用,相乗作用,高齢者などには過剰に反応する可能性,長期間投与,大量投与後に血中のメラトニンやその代謝産物が高濃度となったときの有害作用などは明らかでない.また,製造過程に生ずる副産物,粗悪品にある混入物などの影響も考慮する必要がある.ヨーロッパではニューロホルモンと考えられ,OTCとしては販売されていない.日本でも正式に認可,販売はされていないが,個人輸入などでの入手に対する規制は行われていない.インターネットの普及によりこういった薬剤も国内で容易に入手でき,中毒情報センターへの問い合わせも増加している.メラトニン中毒は,この症例からは,安全域も広く,代謝,排泄も早いことが示唆されたが,国内未承認の薬剤に対する輸入規制などの対策も必要と思われた.

 【まとめ】メラトニン中毒の症例を経験した.一過性の意識障害を認め,胃液,血清,尿中のメラトニン濃度は著明に上昇していたが予後は良好だった.国内未承認の薬剤に対する輸入規制が望まれる.


スライドを始める


中毒情報を捜してのページに行く


このページに関するご意見は西岡憲吾nishioka-ind@umin.ac.jpへまでお願い致します。