【「環境・生命・科学技術倫理研究[ 2003年」(千葉大学先端技術と倫理企画委員会編)pp.63〜90掲載稿】

本稿は、「環境・生命・科学技術倫理研究[ 2003年」(千葉大学先端技術と倫理企画委員会編)掲載稿ですが、校正の段階で若干の字句の修正をしていますので、引用される場合は、論文集を事務局(千葉市稲毛区弥生町1−33 千葉大学文学部哲学講座)から取り寄せてください。

 

中絶胎児組織の研究利用―アメリカでのモラトリアム時代

 

玉井真理子(信州大学医学部保健学科/心理学・生命倫理学)

 

Key Words:

fetal tissue 胎児組織

transplantation 移植

abortion 中絶

Parkinson disease パーキンソン病

US Department of Health and Human Services アメリカ保健福祉省

 

 

1.はじめに

 

 「厚生科学審議会科学技術部会(厚生労働省)」の下部組織として2002年に設置された「ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会」において、「幹細胞を用いた臨床研究の指針」が検討されている。この専門委員会の中で問題になっていることのひとつに、死亡胎児組織(細胞を含む、以下同様)の研究利用問題がある[1]

 欧米では、この胎児の研究利用問題は1970年代から議論されており、【資料1】に示すような様々な規定が作成されている(Walters, 1989; Boer, 1994; de Wert, 2002)。この種の規定として最も古いものと思われるのは、イギリス保健社会保障省の助言者集団(Department of Health and Social Security)による「胎児および胎児由来試料の研究利用、助言者集団による報告書:ピール報告書(The use of fetuses and fetal material for research, report of the advisory group: Peel report))」である。そのなかで示された「ピール綱領(Peel Code)」と、しばしば引用される「ヨーロッパ中枢神経系移植・修復ネットワーク(Network of European CNS Transplantation and Restoration=NECTAR)の指針」(Boer, 1994)の骨子は、それぞれ【資料2】【資料3】に示した。

 胎児の研究利用といっても、死亡胎児か生体か、死亡した原因は流産か死産か中絶かなど、様々な場合がある。本稿では、死亡胎児組織(以後とくに断りのない限り「死亡胎児組織」であることを前提に単に「胎児組織」と言う)の研究利用を取り上げ、とくに中絶胎児組織の研究利用をめぐるアメリカでのモラトリアム時代について紹介する。

 

2.アメリカの中絶胎児組織利用研究モラトリアム時代

 

1987年まで

 アメリカでは、1968年に作成された「統一死体提供法(Uniform Anatomical Gift Act)」が、1960年代の終わりから1970年代の初頭、King1988)によれば遅くとも72年までに全ての州とコロンビア特別区において採択されている。同法による「死体(decedent)」には「死亡胎児(a stillborn infant or fetus)」も含まれており、死亡胎児の研究利用目的での提供に関する規定としても機能しうる内容になっている。この規定によれば、胎児の両親のどちらか一方からの承諾が得られば死亡胎児を研究のために利用することができる(Mahowald, 1988b; Greely, 1993; 丸山, 1975[2]。ただし、同じ死亡胎児であっても、中絶によって死亡した胎児を研究に利用していいかどうかに関しては、各州によって異なる対応がなされている[3]

 またアメリカでは、1974712日に「国家研究法(National Research Act)」が成立している[4]。これに基づいて「生物医学および行動科学研究における被験者保護のための国家委員会(National Commission for the Protection of Human subjects of Biomedical and Behavioral Research)」が作られた。委員会に課せられた任務は、「人を対象とする生物医学・行動研究の実施の基礎となる基本的倫理原則を確立し、この原則に則ってそれらの研究が実施されることを確保するための準拠すべきガイドラインを作成する」ことであった(津谷、2001)。この任務に応えて、委員会は1978年に解散するまでの4年間精力的に活動し、その成果の一部は1979年に「ベルモント・レポート(Belmont Report)」として刊行されている(津谷、2001[5]

 これをうけて策定された「合衆国規則(Code of Federal Regulation 45)」の「パート46:被験者保護(protection of human subjects)」のなかでは(46CFR45)、サブパートBとして、妊婦や胎児、そして新生児が被験者になる場合の規定が設けられ、これに相当のページが割かれている(丸山、1996;丸山、1997)。このサブパート部分は、ドラフトの段階では、子どもや囚人も含めいわゆる弱者保護規定として検討されていた部分である(光石、1975a;光石、1975b)。

 

1987年から1992年まで

(ア)モラトリアム宣言と検討会の設置

 胎児組織移植研究がアメリカで大きな話題になったのは、1987年から1988年をまたいで1989年にかけてであり、多くの論考がこの時期に集中、あるいはこの時期の動きを扱っている。この時期の動きを時系列にしたがってまとめると、次のようになる(Annas, 1989; Childress, 1991a, 1991b; Coutts, 1993; Kassirer, 1992; Vawter, 1992[6]

 一連の動きは、198710月に、中絶胎児組織のパーキンソン病患者への移植研究を承認しようとしたNIHNational Institute of Health=国立衛生研究所)の所長ジェームス・ワインガーデン(James Wyngaarden)が、当時の保健福祉省(US Department of Health and Human Services)に、いわゆるお伺いを立てたことからはじまる。この研究は「所内で計画されたもの(intramural NIH research proposal)」(Vawter, 1992)であり、実際には「神経疾患、コミュニケーション障害および脳血管障害に関する国立研究所(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)」からの研究申請であった(Childress, 1991b, p.216)。ワインガーデンは保健福祉省に宛てた手紙のなかで、「報道のなかで、[保健福祉]省が中絶を助長する方向性を持っているかのように特徴づけられることになるかもしれない」ことを心配していたという(Childress, 1991b, p.216より引用)。

 これを受けて、保健福祉省の保健次官補ロバート・ウィンダム(Robert Windom)はNIHに対し、胎児組織の研究利用に関して外部識者を交えて検討する場を設けるように指示した。と同時に、ウィンダムは「ホワイトハウスと相談したうえで」(Vawter, 1992)、中絶胎児組織を用いた移植研究には当分の間連邦資金を拠出しないという決定をした。これが、いわゆる「中絶胎児組織移植研究モラトリアム宣言」である。1988322日のことであった。

 ウィンダムの指示を受けて、NIHはただちに「ヒト胎児組織移植研究検討会(Human Fetal Tissue Transplantation Research Panel)」(以下、検討会とする)を設けるべく人選を開始した。検討会長には、中絶反対の共和党支持者である元連邦判事アーリン・アダムス(Arlin Adams)を据え、自然科学系の専門家の中心として産婦人科医のケネス・ライアン(Kenneth J Ryan[7]を、倫理的社会的問題の専門家の中心としてはリロイ・ウォルターズ(LeRoy Walters)をそれぞれ選び(Childress, 1991b, p.218, p.245)、最終的には様々な領域の21人のメンバーからなる検討会となった[8]。メンバーのなかには、明らかに中絶反対の立場をとる人物もいたが、全体としては研究を許容する立場に偏っているという批判もあった(Childress, 1991b, p.218)。

 ことの性質上、そもそもだれが検討会のメンバーになるかで注目されたのは当然だとしても、注目された理由はそれだけではなかった。1988916日から18日に予定されていたこの検討会の第1回会合の前に、ホワイトハウスが中絶胎児組織移植研究禁止の大統領令(executive order)をすでに準備していることが明るみに出たことで(Culliton, 1988; Boffey, 1988[9]、今度は保健およびヒューマンサービス長官オーティス・ボーエン(Otis Bowen)が、あらためて、結論は検討会での議論次第と答弁したという一幕もあった(Childress, 1991b, p.219)。

 

(イ)検討会での結論

 波乱含みでスタートした検討会ではあったが、原則公開で行われ、19881020日から21日の第2回会合を経て、同年125日には報告書(Report of Human Fetal Tissue Transplantation Research Panel)がまとめられている[10]。検討の過程では多くの専門家や市民団体に対してのヒアリングも行われた。50人以上の個人と、16のグループの代表が招かれたという(Annas, 1989)。胎児組織が廃棄物(abandoned)とみなされておりそのため母親の同意なしで研究に使われていた当時のいくつかの事実も、ヒアリングの中で明らかになった(Childress, 1991b, p.230)。

 検討会は、最終投票の段階でもなお意見は分かれていたものの、賛成多数(Annas, 1989; Kassirer, 1992, Childress, 1992b, p.219[11]で、中絶胎児を含む胎児組織の研究利用は「許容可能な公共政策(acceptable public policy)」であるとし、次のような結論を出した。

 

研究に利用されるヒト胎児組織が中絶によって得られているということは道徳的に問題がないわけではない(moral relevance)。しかし、中絶が合法であること、また、問題になっている研究が重要な医学的目的を達成するために意図されていること、これら両方の事実に照らして考えた場合、当検討会は、このような組織の研究利用は許容可能な公共政策であると結論する。(NIH, 1988: Martin, 1993より引用)

 

 1988125日に賛否両論が渦巻くなかでまとめられたこの報告書は、同年1214日のNIHの所長諮問委員会(Advisory Committee to the Director of NIH)では全員一致で支持された。しかし、その直後のレーガンからブッシュへという政権交代は、中絶に対して許容的ではない共和党政権同士の交代であったこともあり、「中絶胎児組織移植研究モラトリアム宣言」が解除されることはなかった。これはVawter1992)によって「奇妙な醸造物(strange brew)」と批判された。

 報告書は、年が明けるまで保健福祉省に提出されることはなく(Childress, 1991b, p.235)、おそらくレーガン政権終了間際になって提出されたものと思われる。1989122日に就任した新大統領ブッシュが同省の長官を指名する際に候補者になったルイス・サリバン(Louis Sullivan)は、その段階ではまだ報告書を読んでおらずコメントを保留したという(Childress, 1991b, p.235)。ブッシュ大統領がこの時点で報告書の内容を熟知した上でサリバンを指名したのか、また、なぜあえてプロチョイス派[12]のサリバンを指名したのかは不明である。

 結局、モラトリアム宣言はブッシュ政権にも受け継がれた。保健福祉省の新長官サリバンは、就任してまもなくの議会で結論を先送りする答弁をした(Tolchin, 1989: Annas, 1989より引用)。さらに彼は、1989112日に、中絶胎児組織の移植研究のモラトリアムをその終了時期を特定せずに(indefinitely)延長することをNIHに対して正式に通告した(Vawter, 1992; Childres, 1991b, p.235)。サリバンは、このときNIHの所長に当てた手紙のなかで「問題になっているヒト胎児研究を認めることは全国の中絶の頻度を増加させるだろうという見通しを受けいれなければならない。この指摘には説得力がある」と述べているという(Sullivan, 1989: Vawter, 1992より引用)。

 

(ウ)中絶との不可分の関係性

 中絶との不可分の関係性は、検討会はほとんどそれに終始し他の論点を軽んじていたと批判されるほど(King, 1991[13]、大きな論点のひとつであった。この点に関して検討会が出した結論を、この検討会のメンバーでもあったChildress1991b)は、報告書の以下の箇所を抜粋する形で紹介している。

 

 中絶の決定の道徳性をめぐって論争があるとしても、胎児付属物の処分についての女性の法的権限(legal authority)を奪うべきではない。その女性は、胎児と特別な関係にあることに変わりはなく、彼女は、胎児の処分や利用に関して正当な利害(legitimate interests)を有している。さらに、死亡胎児は女性の提供の意思によって傷つけられるような利害(interests)を有していない。最終的な分析において、中絶をした女性の意思による提供以外のやりかたでは、もっと深刻な倫理的問題を引き起こすと考えられる。(NIH, 1988: Childress, 1991b, p.230より引用)

 

 保健福祉省の保健次官補ウィンダムは、NIHに対して胎児組織の研究利用に関する検討会を設けるように指示した際に、十問の課題を出している【資料4】。ウィンダムが最も危惧していたのも、中絶との不可分の関係性であった。Vawter1992)はさらに直裁に中絶との関係性を4点にまとめて指摘している。「中絶の強要や誘導」「中絶政策の緩和」「中絶数の増加」「中絶手技の変更」の4点である。もっとも彼女は胎児組織研究擁護派であり、Vawter1993)に見るように、胎児組織研究が中絶を増加させることはないという主張を展開しており、この4点のまとめは、むしろこれらを論破するためのものである。

 

      [中絶の強要や誘導]女性は、移植目的で胎児組織を提供するために中絶するようにすすめられたり、あるいは説得されることすら起こるだろう。

      [中絶政策の緩和]中絶はさらに正当化され、その結果として、中絶をめぐる政策は緩やかなものになるだろう。

      [中絶数の増加]上記のいずれか、あるいは両方によって、中絶数は増加するだろう。

      [中絶手技の変更]移植に適した質の高い組織を多量に得るために、中絶の手技(procedure)が変更されるだろう。

[ ]内は筆者の補足

 この問題に対して、「ヒト胎児組織移植研究検討会」が出した結論は、インフォームド・コンセントの手続き等を厳格に定めることによってこれらは回避可能であるというものである。Hoffer[14]1991)のまとめによれば、その骨子は次のようになる。

 

      中絶の決定と実際の中絶は、胎児組織の摘出と利用とは独立におこなわれる。

      中絶のタイミングや方法は、胎児組織が移植や医学研究に利用される可能性によって影響されてはいけない。

      中絶する女性の事前の同意なしに中絶胎児の組織を医学研究に利用してはいけない。

      中絶の決定と同意は、胎児組織の利用の可能性について話し合うことの前におこなわれなければならない。もし女性に胎児組織の利用を要請して同意してもらうことがあるなら、その前に中絶の決定がなされていなければならない。

      胎児組織の提供者(ドナー)とレシピエントとの間では匿名性が保たれ、ドナーは胎児組織移植を受けるレシピエントを指定できない。

      胎児組織の提供によってだれも報酬を得てはいけない。ただし、採取、保管、移送にかかわる実費はこの限りではない。

      レシピエントは、移植される組織が胎児から採られたものであることを知らされる。かかわる研究者や医療者も同様である。

      胎児組織は、その他の死体由来のヒト組織と同様に尊重される。

 

 中絶との不可分の関係性にいかにして抗するかは、イギリスのピール報告書(1972)以来の難問であった。他の指針や報告書等にも共通している点をまとめると、次の3点になる。

 

      中絶の意思決定と胎児組織提供の意思決定の分離および前者の先行

      中絶の時期および方法に対する不干渉(胎児組織提供によって中絶の時期および方法が影響されない)

      胎児組織ドナーによるレシピエントの指定禁止と相互の匿名性確保

 

 中絶との不可分の関係性については、アメリカだけでなく他の国でも注意が払われており、なんとかこれらを切り離そうとしている。イギリスのポーキングホーン報告書(1983)は、提供者は胎児組織の使い道についての情報にアクセスできず、胎児組織の提供を受ける側もそれが中絶胎児からとられたものであるかどうかを知らせないという立場をとっている。カナダには、「胎児組織の採取に携わる医師は研究成果を発表する論文の共著者にはなれない」という記述すら見られる報告書もある(Royal Commission on new reproductive Technologies, 1993, p.1001; Milos, 1999)。

 

(エ)背景

 NIHは、1987年度(予算年)だけでも胎児組織利用研究に116[15]1,120万ドルの助成をしている(Childress, 1991b, p.217; Culliton, 1988)。しかし、それらのほとんどは移植研究ではなかったため、本格的に胎児組織移植研究が問題になったのは1987年ということになろう[16]。ただし前年の198612月には、オハイオ州クリーブランドにあるケースウェスタン大学で、本格的なヒトへの応用を見越した胎児組織移植治療をテーマにフォーラムが開催されており(Mahowald, 1987; Mahowald, 1988a)、それまで動物実験で可能性を探ってきた研究者やその他様々な領域の専門家が集ったことからは、まさに機は熟していたと言うべきかもしれない。

 胎児組織移植研究は、まったく行われていなかったわけではない。胎児組織を用いた移植治療の試みは、糖尿病患者に対して1928年にイタリアで行われたのが最初であるという(Coutts, 1993; Newman-Gage, 1996)。ディ・ジョージ症候群(DiGeorge syndrome)の患者への胎児胸腺移植は1960年代後半から行われており(Coutts, 1993)、日本でも類似の試みが少なくとも1980年代の後半までは行われていた(井関, 1985; 久下1987, 樋口, 1991)。NIHも、胎児のすい臓を糖尿病患者に移植するという外部の研究(ウィスコンシン大学の研究者)に助成金を出したことはあったという(Childress, 1991b, p.217)。そもそも胎児組織は基礎研究の領域では重要な資源であり、1950年代にポリオワクチンの開発に使われていたことは、関係者の間ではよく知られた事実である(Greely, 1993; Coutts, 1993)。

 さて、1987年にはじまる一連の動きの直接の引き金となったのは、Coutts1993)によれば、前年の1986年にメキシコで実施されこの年の4月に専門誌にも発表された、パーキンソン病に対する組織移植の成果である(Madrazo, 1987)。この臨床研究は患者本人の副腎髄質の移植であり[17]、日本国内でも複数の新聞が報じている[18]。次に同じ研究グループが発表したのが、同年9月に実施されたパーキンソン病患者への胎児組織移植である。13週の自然流産胎児の組織を2人の患者に移植したというもので、明らかな治療効果があったとしてのちに専門誌にも発表されている(Madrazo, 1988[19]。ただし、彼らの研究は科学的にはあまり評価されていないのか(Lewin, 1988)、その後直接引用されることは少ないようである。

 Vawter1992)には、一連の動きのきっかけを後者の研究(19879月に行われた移植)であるとみなしているような記述がある。しかし、1987816日のニューヨークタイムス紙の記事によれば(Lewin, 1987)、前年すでにメキシコでの組織移植の例が報道されているとされており[20]、同記事には父親の精子で人工授精して妊娠したうえで中絶した胎児をアルツハイマー病の父親の治療にために使ってほしいという相談がある生命倫理学者のもとに持ち込まれたというエピソードが紹介されていることなどから考えれば、きっかけはむしろメキシコのグループの最初の成果発表と見るのが妥当であろう[21]

 家族のために中絶胎児を提供したいと申し出た女性がいたことは、上記以外にも報道されている(Gorman, 1988; Thorne 1987: Greely, 1993より引用)。198821日号のタイム(Time)誌の記事によれば、レイ・ライス(Lay Leith)という女性がテレビ番組に出演し、パーキンソン病である父親のために彼女自身が妊娠し、そして中絶し、その胎児を治療に使って欲しい意向があると述べたという(Gorman, 1988)。

 同記事には、のちにFreed2001)らのパーキンソン病患者への胎児組織移植研究の結果が発表されたときに、批判的な記事(Kolata, 2001)を書くことになるジーナ・コラータ(Gina Kolata)のコメントも紹介されている。「女性は、医師や家族や、あるいは経済的な必要性から、胎児工場(fetal factories)になるように圧力がかかることになりはしないか」と。

 組織移植の研究成果が報道されたことで、一方ではこの研究に期待を寄せる人々の声と、また一方では、中絶が助長されるのではないかと懸念する人々の声が高まっていった。パーキンソン病をはじめとする神経を侵される病気は患者数も多く、治療に期待する声の大きさも相当なものであったと推察されるが[22]、それに呼応して「中絶反対派の声も大きく(a heated outcry from anti-abortion activists)」[23]ならざるを得なかったのであろう。中絶に対して許容的ではないレーガン政権は、そうした中絶反対派の声を無視できなかったものと思われる[24]。中絶の権利を認めたロウ判決(1973)を覆すために最大限の努力をすることを公約として掲げて当選しているのが、レーガン大統領であり(荻野, 2001, p.109)、むしろこの問題を糸口として中絶規制を強化しようという意図もあったのかもしれない。

 1980年代のアメリカは中絶反対派の運動が最も過激だった時代であり(荻野, 2001, pp.105-123)、中絶クリニックの爆破や封鎖が全米各地で相次いでいた。1988年から1989年にかけては、ウェブスター対ミズーリ州の争いを最高裁が裁くことになったことで、1989年の新年早々から大々的なデモやテレビキャンペーンも含めて、中絶反対、中絶擁護の両陣営が大掛かりな運動を繰り広げた時期である(荻野, 2001, pp.124-126)。1989年の73日には憲法を根拠に中絶をプライバシー権の一部として認めた1973年の連邦最高裁ロウ判決を「骨抜き」(荻野, 2001 , p.112; ローゼンブラット, 1992:1996, p.22)ような、いわゆるウェブスター判決が出されている。

 また、この時期に、関連する法律の改正も行われている。先に述べた統一死体提供法が1987年に、1984年に成立した国家臓器移植法(National Transplantation Act)が1988年にそれぞれ改正され、胎児の臓器および組織の売買が禁じられた(Vawter, 1992; Robertson, 1988)。統一死体提供法には胎児組織の売買を明確に禁止する規定が設けられ、一方、臓器の売買を禁止する規定が盛り込まれていた国家臓器移植法については、それが胎児の臓器やその一部(fetal organs and subparts of thereof)までをカバーするように改正された(Robertson, 1988)。

 

(オ)胎児組織バンク

 若干の注意が必要なのは、アメリカで禁じられたのは、中絶胎児の組織を用いた移植治療研究に連邦の資金を拠出することであったということである。中絶胎児ではない、自然流産(spontaneous abortion)や死産(stillbirth)によって死亡した胎児の組織を用いる研究には連邦の資金が投入されており(Garry, 1992)、胎児組織バンクも存在していた[25]Newman-Gage1996)によれば、1961年にはワシントン大学にヒト胚および胎児研究室(Laboratory for Study of Human Embryos and Fetuses at the University of Washington)が設置され胎児組織の収集と配布を行っていたという。1984年には、国立疾病研究互助組織(National Disease Research Interchange)が似たような事業を開始している(Newman-Gage, 1996)。

 こうした事業は大学や公的機関にとどまるものではなかった。Kolata1989)によれば、当時、胎児組織を収集・配布していた全米最大の非営利団体では、毎月あたり150から300体の胎児から300から600の胎児組織を供給していたという。研究利用についての同意がとられていたとは限らないことは、その非営利団体の責任者が、胎児組織の提供に応じてくれる医療機関に女性からのインフォームドコンセントを求めたところ、約半分からそれならもう胎児組織の提供はしないと拒否されたという談話が同記事の中で紹介されていることからもわかる。

 そして、モラトリアム時代最後の1992年には、ブッシュ政権が胎児組織バンクを設立[26]している(Hilts, 1992; Leary, 1992)。ここでは、自然流産、死産、子宮外妊娠によって死亡した胎児の組織のみが扱われた。ブッシュ大統領は、モラトリアムを解除するための法案に拒否権を発動したあとの議会宛てのメッセージのなかでも、胎児組織利用研究全体のモラトリアムではなく、中絶胎児を使った移植治療研究のモラトリアムであること、そしてパーキンソン病や糖尿病やアルツハイマー病の治療をないがしろにしているわけではないことを強調している[27]。ときの厚生福祉省公衆衛生局長のジェームズ・メイソン(James O. Mason)は、ブッシュ大統領の立場は「研究尊重かつ生命尊重(pro-research and pro-life)」で一貫していると述べたという(Leary, 1992)。

 移植治療研究にも、流産や死産、あるいは子宮外妊娠(ectopic pregnancy)の胎児を利用すればいいではないかという主張はあった(Fung, 1990)。これに対して、たとえばGarry1992)は、流産や死産の胎児は染色体異常の頻度の高さなどの理由から、子宮外妊娠の胎児はまた別な理由から、研究、とくにヒトへの移植研究には使えないと反論している。

 また、言及している論者が少なく詳細は不明であるが、中絶胎児を動物に移植するような研究に公的資金を投入することは認められていたようである(Vawter, 1992)。

 

(カ)報告書に対する批判

 最後に、検討会での議論や報告書そのものに直接影響を与えることはなかったと思われるが、報告書に対するMartin1993)の批判を紹介しておく。

 カナダの研究者である彼は、中絶の決定と胎児組織提供の決定を切り離すことはできないと、検討会の結論をおもにふたつの点で批判している。批判のひとつは、女性が中絶胎児組織を提供するという選択肢があることを知る機会はいくらでもあり、情報提供や同意のタイミングを医療側がいくらコントロールしても、中絶の決定が胎児組織の研究利用という選択肢の存在に影響されないことはありえないというものである。

 中絶の決定と胎児組織提供の決定とを切り離そうとするあまりの、「胎児組織の提供に関する予備的な情報が中絶の決定がおこなわれるまで差し控えられる」というやり方に関しても、胎児組織提供の決定権を女性に付与するなら、情報の差し控えはその女性の知る権利の侵害であり、(決定権を女性に付与することとの)整合性がないと言う。これがふたつめの批判である。

 彼は実証的な研究も手がけており(Martin, 1995)、その結果を報告している。カナダの都市部の女性を対象にした質問紙調査がそのひとつである。胎児組織がパーキンソン病患者のために役に立つことを知ったら中絶しやすくなると思うかどうかという設問に、266人中32人(12%)が肯定の回答をしていることを報告している。また、望まない妊娠をしたら中絶を考えるとしている女性のうちの83人(45.6%)が、胎児組織がパーキンソン病患者に役に立つことで多少なりとも気持ちが軽くなると回答しているという[28]

 中絶の決定と胎児組織提供の決定、これら両者の意思決定が切り離せないものであるという前提で議論すべきであるという彼の指摘は重要である。彼はまた、中絶胎児の組織を提供することで女性は癒される(solace)のではないかというCaplan1987)の見解をも批判している。

 

1993年以降

 共和党政権によるこの「中絶胎児組織移植研究モラトリアム宣言」が5年ぶりに解除されるのは、政権が交代し、中絶擁護派である民主党のクリントンが大統領になってからのことである。正式には199321日のことであった。モラトリアムの間、議会ではこのモラトリアムの解除をめぐっていくたびか議論されたが、いずれも大統領の拒否権を覆すだけの票を集めることはできなかった(Vawter, 1992; Kassirer, 1992)。

 クリントンが大統領に就任したのは1993120日のことであり、彼は就任後ただちにこのモラトリアム解除の仕事をしたことになる[29]。「一般法律103-431993年国立衛生研究所再編法の規定改正に伴う治療的ヒト胎児組織移植研究の実施と援助のための暫定指針の廃止(Withdrawal of interim NIH guidelines for the support and conduct of therapeutic human fetal tissue  transplantation research in light of  superseding provisions of Public Law 103-43 The National Institute of Health Revitalization Act of 1993)」には次のようにある。

 

 1993122日、クリントン大統領は、保健福祉省の長官に対して5年間のモラトリアムを終了するように指示した。人工妊娠中絶胎児から採取されたヒト胎児組織を用いる移植治療の研究に連邦の資金を拠出することについてのモラトリアムである。保健福祉省の長官であるドナ・シャララ(Donna E. Shalala)は、NIHに大統領のこの意向を伝えた。かくして、1993年の2月1日をもってモラトリアムは正式に取り消されたのである。同時に、長官は、保健次官補を通して、NIHに当座の指針を策定するように指示した。ヒト胎児組織移植の研究に連邦資金を拠出することは中絶の選択を助長するものではないことを明確にするために、1988年のヒト胎児組織移植研究検討会の勧告に基づいた指針を策定するように指示したのである。(NIH GUIDE, Volume 22, Number 32, September 3, 1993より)

 

 上記の「公法103-43・国立衛生研究所改訂1993年法」の詳細については別稿に譲るものとするが、流産、中絶、死産(a spontaneous or induced abortion or pursuant to a stillbirth)すべてをカバーする規定になっている[30]

 関連するものとして、先に述べた「合衆国規則(Code of Federal Regulation 45)」の「被験者保護(protection of human subjects)」のパート4645CFR46)がある。そのなかのサブパートBの現在のタイトルは、「研究の対象となる妊娠した女性、ヒト胎児、そして新生児のさらなる保護(Additional Protections for Pregnant Women, Human Fetuses and Neonates Involved in Research)」である[31]。さらにそのなかに、「§46.206 分娩後の胎盤、死亡胎児、胎児由来試料を利用する研究(Research involving, after delivery, the placenta, the dead fetus or fetal material)の項があり、以下のような記述が見られる。

 

(a)分娩後の胎盤、死亡胎児、廃棄される胎児由来試料(macerated fetal material)、あるいは死亡胎児から摘出された細胞、組織、臓器を用いる研究は、それに関する連邦、州、そして地域の法や規則にのっとって行われる限りにおいて実施可能である。

(b)もし、このセクションのパラグラフ(a)で述べられた試料から得られる情報が、研究目的ではあるが、生きている個人の特定に直接に、あるいは個人識別情報を介して結びつくようなかたちで収集されるなら、それら生きている個人は被験者であり、このパートのなかの関連するすべてのサブパートの規定が適用される。

 

 さて、1993年にモラトリアムが解除されるやいなや、パーキンソン病患者への中絶胎児組織移植研究がNIHに申請された。コロラド大学のカート・フリード(Curt Freed)らである。これをめぐっては申請された段階から様々な反応があった(Cohen, 1994; Thompson, 1994; Widner, 1994)。結果的には認められ、これがさらに物議をかもすことになるパーキンソン病患者を対象とした二重盲検臨床試験(Feed, 2001)につながることになる[32]。詳細については別稿(栗原, 2003)に譲るが、この研究が外科的な手法(sham surgery)を用いたプラセボ対照であったことも、論議を呼んだ所以である(Macklin, 1999; Gillett, 2001, Weijer, 2002)。なおRascol2002)によれば、現在でもパーキンソン病患者への胎児組織移植治療に関しては評価が定まっていないという[33]。日本神経学会のパーキンソン病治療ガイドラインにおいても判断は保留されている[34]

 翌1994年には、クリントン大統領によって「ヒト胚研究検討会(Human Embryo Research Panel)」が設けられ、議論は死亡した胎児組織から生きているヒト初期胚の研究利用へと移行していく。そして1998年には、ヒトの幹細胞が樹立されたことから、幹細胞の樹立のために必要なヒト胚とならぶ貴重な資源として中絶胎児(正確にはその始原生殖細胞)が注目されることになるのである。

 

3.おわりに

 

 胎児組織の研究利用問題は、中絶問題と切り離すことができない。わが国は、中絶の是非について議論されることは欧米に比して少なく、中絶胎児の研究利用問題も大きな社会問題になっているとは言いがたい[35]。アメリカは公共政策というレベルでは折り合いをつけたが、中絶の意思決定との不可分の関係性という問題の性質が変わったわけではない。欧米に倣い、先に述べたような「中絶の意思決定と胎児組織提供の意思決定の分離および前者の先行」「中絶の時期および方法に対する不干渉」「胎児組織ドナーによるレシピエントの指定禁止と相互の匿名性確保」を条件に中絶胎児の研究利用を認めるとしても、それらを、包括的な被験者保護のシステムもない日本の医療現場において現実のものとするためにはどのようなインフラ整備が必要なのかから検討する必要がある。胎児研究全体を見据え、少なくとも死亡胎児組織の研究利用問題として包括的に、とくに中絶胎児の利用という倫理的な問題性を認識して議論すべきであると考える。

 

謝辞:

本稿をまとめるにあたり、名古屋大学大学院人間情報学研究科博士課程在学中の加藤太喜子氏に資料収集その他で大変お世話になりました。深く感謝いたします。

 

 

<文献>

 

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緑字は文献未入手のもの


【資料1】

 

胎児組織の研究利用に関連する指針等

国や国際機関の指針等

■イギリス保健社会保障省の助言者集団による「胎児および胎児由来試料の研究利用、助言者集団による報告書(ピール報告書)」

Department of Health and Social Security (1972) The use of fetuses and fetal material for research, report of the advisory group (Peel report) Her Majesty's Stationary Office, London

■フランス・生命科学と保健に関する国家倫理諮問委員会による「治療、診断、科学的目的での死亡胎児組織および胚組織の利用についての勧告」

National Consultative Ethics Committee for Life Sciences and Health (CNESVS) (1984) Recommendation on the use of embryo tissue as well as tissue of dead foetuses for therapeutic, diagnostic and scientific purposes.

■オランダ保健審議会の委員会による「胎児組織およびその他の中絶残余物を科学的目的のために提供および利用する際の助言」

Committee of the Netherlands Health Council (1984) Advice on donation and use of fetuses, fetal tissue and other remains of abortion for scientific purposes (Kuitert report), Health Council of The Netherlands, Den Haag, no 19

■ヨーロッパ審議会による「ヒト胚と胎児の診断、治療、科学、工業、商業目的での利用について」

Parliamentary Assembly of the Council of Europe (1986) On the use of human embryos and foetuses for diagnostic, therapeutic, scientific, industrial and commerical purposes. Council of Europe, Strasbourg, Recommendation 1046

■ヨーロッパ審議会の科学技術委員会による「ヒト胚および胎児に関連する科学研究についての報告書」

Committee on Science and Technology (1988) Report on scientific research relating to the human embryo and foetus (Rapporteur: A. Palacios). Parliamentary Assembly of Council of Europe, Strasbourg, Doc 5943

■アメリカ保健福祉省による「ヒト胎児組織移植研究検討会報告書」

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■ヨーロッパ審議会による「ヒト胚と胎児の科学研究目的での利用について」

Parliamentary Assembly of the Council of Europe (1989) On the use of human embryos and foetuses for scientific research. Council of Europe, Strasbourg, Recommendation 1100

■イギリス保健社会保障省による「胎児および胎児性試料の研究と利用についての指導の概観(ポーキングホーン報告書)」

Department of Health and Social Security (1989) Review of the guidance on the research and use of fetuses and fetal material (Polkinghorne report), Her Majesty's Stationary Office, London, Cm 762

■オランダ・医学研究に関する倫理的側面に関する委員会の年次報告書

Dutch Committee on Ethical Aspects of Medical Research (1993) Annual Report 1991 and 1992. Health Council of The Netherlands, Den Haag, publication K93/01

専門家集団による指針等

■世界医師会の胎児組織移植に関する声明

WMA (1990) World Medical Association Statement on Fetal Tissue

http://www.wma.net/e/policy/17-t_e.htmlで参照可

■イギリス医師会の指針

BMA guidelines on the use of fetal tissue (1988) The Lancet I: 1119

■アメリカ医師会の立場

American Medical Association (1990) Medical applications of fetal tissue transplantation. JAMA 263: 565-570

■ヨーロッパ中枢神経系移植・修復ネットワークによる指針

Boer, G. J., on behalf of the Network of European CNS Transplantation and Restoration (NECTAR) (1994) Ethical guidelines for the use of human embryonic or fetal tissue for experimental and clinical neurotransplantation and research, Journal of neurology 242: 1-13

http://www.nesu.mphy.lu.se/nectar/eth.1.htmlで参照可

 


【資料2】「胎児および胎児由来試料の研究利用、助言者集団による報告書(ピール報告書)」のなかで示された「ピール綱領(Peel Code)」

 

 この綱領にはいかなる法的拘束力もないが、入手しうる根拠を考慮し全ての関連要因を注意深く考えた結果となっている。医療・看護職で、懲罰に関し法的責任のある団体にとってこれが受け入れられるものであるよう望んでいる。

 

1.母親からの分離後、胎児が生存可能である場合、胎児を生かすのに必要な処置と矛盾したいかなる実験を行うことも非倫理的である。

2.ヒト胎児の最小生存可能限度は懐胎期間で20週とされるべきである。これはおよそ400-500gに相当する。

3.死亡胎児全体や、死亡胎児から得られる組織を医学研究に利用することは、以下を条件として許される:

(i) 人体組織法の条項があてはまる場合は、それが遵守され;

(ii) 胎児の処分に関して希望を示す機会を持つ親の側に異議がない場合には人体組織法の条項は適用されず;

(iii) 死亡胎児の解剖や、胎児あるいは胎児由来試料に関する実験は、手術室や分娩室でなされず;

(iv) 胎児や胎児由来試料に対して一切の金銭的なやりとりはなく;

(v) 適当な施設に完全な記録が保存されること。

4.生存可能である前の胎児全体の利用は以下の条件で許される:

(i) 上述のパラグラフ3の条件が遵守され;

(ii) 300g以下の胎児のみが使われ;

(iii) 胎児がこのような研究に使われ得ると決める責任は決して研究しようとしている人にではなく、出産に関わった医療者にあり;

(iv) このような研究は直接病院と関係した部署でのみ行われ、その倫理委員会の直接の認可対象であり;

(v) このような研究が許可される前に、倫理委員会は、(a)研究の妥当性;(b)研究によって得られる情報は、他の方法で手に入れることができないものか;(c)研究者は必要な熟練と技術を有しているか、検討すること。

5.妊娠中に、胎児に危害になり得ると確実にわかった上で、故意に薬物を投与したり、処置を行ったりすることは非倫理的である。

 

(加藤太喜子 訳)

 


【資料3】「ヨーロッパ中枢神経系移植・修復ネットワーク(Network of European CNS Transplantation and Restoration=NECTAR)の指針」の骨子

 

実験的・臨床的神経移植と研究のためのヒト胚もしくは胎児組織使用の倫理指針

 

1)移植もしくは研究に使用する組織は、合法的な中絶(legally induced abortion)、またもしは自然流産の結果死亡した胚もしくは胎児から採取することができされる。生存していた胚もしくは胎児の死亡は、呼吸と心拍の停止によって確定される。

2)使用可能な試料を採取する目的のために無傷な胚もしくは胎児を人工的に生かしておくことは許されない。

3)中絶の意思決定は、胚や胎児が後に使用される可能性があるかもしくは使用が望まれることにっての可能なあるいは要請される使用の意図に影響を受ける状況にあってされはならず、それゆえに、胚や胎児の組織が使用される可能性の可能な利用法についてのあらゆるいかなる紹介に先んじてがなされる前に行われおこなわれなければならない。ドナーとレシピエントは関連づけらリンクされてはならず(no link)、ドナーはレシピエントを指定できない。 

4)中絶の手続きやタイミングは女性の利益と相反することになりうる場合もしくは胚や胎児の苦痛を増大しうる場合には、移植の必要性に影響されてはならない。女性の利益と相反することになり胚や胎児の苦痛を増大させる。 

5)当該の女性のインフォームド・コンセントなしに試料を使ってはならない。このインフォームド・コンセントは、可能ならば中絶の前に得られていなければならない。 

6)伝染性疾患のための女性のスクリーニングについてはインフォームド・コンセントを要する。

7)移植のための神経組織は細胞の標本もしくは組織切片tissue fragmentsフラグメントとして保存され移植に使用される場合がある。

8)病院スタッフ全員もしくは手続きのどの段階であれ直接関与する研究スタッフはすべて、十分に情報提供されていなければならない。 

9)胚や胎児やその組織の調達は利益を得ず無報酬で行われなければならない。 

10)胚や胎児を用いる移植もしくは研究は、地方ごとの倫理委員会(local ethical committee)の承認を得なければならない。 

 

(栗原千絵子 訳)原文はhttp://www.nesu.mphy.lu.se/nectar/eth.1.htmlで参照可

 


【資料4】保健福祉省保健次官補ロバート・ウィンダムのメモ

 

日付:1988322

From: 保健次官補

主題: 研究における胎児組織

To: 国立衛生研究所(NIH)所長

 

 パーキンソン病の症状緩和のためヒトの中絶胎児から得た神経組織を患者に移植する実験を行いたいという貴殿の申請を慎重に検討しました。

 この申請は公衆衛生部門(Public Health Service)内部でも社会一般でもまだ十分議論されていない多数の問題をはらんでいます(おもに倫理・法的問題です)。従って、貴殿の申請に対する決定を下す前に、貴殿のほうで外部諮問委員会を一つあるいはそれ以上招集され、人工中絶で得られたヒト胎児組織の使用について包括的な審議の機会を持たれることを要望します。そして、この種の研究が実施されるべきであるのか、そうであるとした場合どのような状況下でなされるべきかについて、審議の結果を報告されることを求めるものであります。

 諮問委員会に特に審議していただきたいのは以下の点であります:

1.人工中絶[を受ける・行うということ]はヒト胎児組織を研究に使用することを決めるということと道徳的につながりをもつか?この質問に答えることで、この種の研究が行なわれるべきか、そしてどのように行うべきか、という問題について考える際に何らかの視点が得られるかどうか?

2.胎児組織の研究使用がなされるようになると、女性が中絶を選ぶことを助長することにならないか?なるとすれば、そうした傾向を最小限に食い止める方策があるか?

3.法的問題として、妊婦からインフォームド・コンセントを得る手続そのものが、保健福祉省(HHS)規則が禁止している研究目的で妊娠を人為的に終了させる行為に該当しないか?すなわち、この種の研究は同規則上許されないものではないのか?

4.組織を使用する場合、母親の同意だけで十分なのか?あるいは、他の同意も必要でないのか?後者の場合、同意の中身、同意者および同意手続はどのようなものであるべきか?

5.家族、友人あるいは知人間での胎児組織提供を禁止すべきか、あるいは禁止することが可能か?家族間での提供を禁止することで臨床的有用性が損なわれることにならないか?

6.中絶で得た胎児組織の移植が広く行われるようになった場合、中絶クリニックの業務や業務手順にどんな影響が考えられるか?特に、中絶を行うための最適で最も安全な手順と胎児組織の保存という目的とが衝突することにならないか?研究や移植の便宜を考えて妊娠中期(second trimester)の胎児組織を得るために、中絶時期を意図的に遅らせるようなことをなくすための方策はあるのか?

7.胎児組織をその供給源から研究者が調達する時、実際にどんなステップが踏まれることになるのか?金銭の支払いが絡むことになるのか?こうした状況下で金銭支払いがあるとして、どんなタイプの支払いであればHyde Amendment [Medicaidにおける財政支出に関する修正措置]の定める範囲に収まり、あるいはその範囲を逸脱することになるのか?

8.HHS規則によると、死亡した胎児に関する研究は州及び自治体の法令に従って行う必要がある。いくつかの州が既に採択した改訂後の統一死体提供法(Uniform Anatomical Gift Act)は、人工中絶で得た胎児組織の研究への使用を制限している。これらの州では、人工中絶による胎児組織の治療応用にこうした制限が適用されることになるのか?そうであれば、当該州でのNIH助成金を受けた研究者にどういう影響があるのか?

9.貴殿が胎児組織の移植を提案している疾患に関して、ヒトへの応用を正当化できるほどの十分な動物実験がなされてきたのか?妊娠初期(first trimester)での中絶の方が妊婦にはリスクが小さいことを考えると、妊娠中期(second trimester)の胎児組織を移植に用いるべきであることを示す十分な動物実験データがこれら疾患のそれぞれについて得られているのか?

10.胎児細胞を培養したものを移植に用いる場合の成功の可能性はどの程度なのか?培養細胞を用いることで新鮮胎児組織の使用を避けることが可能か?その場合、[採取・培養・移植の]時間的関係はどうなるか?

 

 諮問委員会の審議結果・勧告が出たら、改めて貴職がこの種の研究をすすめるつもりがあるのかを判断されるよう求めます。研究を進める場合には、貴施設内外でなされる研究プログラムに関するチェック・実施手順について、変更(規制措置によるもの、あるいは他の手段によるもの)を加えるべきかどうかも検討されたい。

 諮問委員会の判断が示され、それに基づいて貴職から本申請の取扱いに関する連絡があるまで、人工中絶で得た胎児組織の移植を行う本件申請実験および将来の同種の実験に対する承認は行わないものとします。このことは自然流産あるいは死産のケースで得た胎児組織を用いる研究には適用されません。しかし、こうしたソースからの胎児組織を使用する研究においても、現行の研究手順が倫理的、法的および科学的に適切な組織使用を担保するに十分であるかどうかを諮問委員会の場で検討されることを望みます。

 外部の専門家および一般市民をも含め、幅広い層からの意見を聴取することにより、研究参加者の保護が確保され、われわれの仕事への社会の信頼を増すことになると信じるものであります。

 

Robert B. Windom, M.D.

 

[  ] は訳者が言葉を補ったもの

 

(福見一郎 訳)原文はhttp://books.nap.edu/books/0309044863/html/242.htmlで参照可

 

本稿は、「環境・生命・科学技術倫理研究[ 2003年」(千葉大学先端技術と倫理企画委員会編)掲載稿ですが、校正の段階で若干の字句の修正をしていますので、引用される場合は、論文集を事務局(千葉市稲毛区弥生町1−33 千葉大学文学部哲学講座)から取り寄せてください。



[1] 第5回委員会(200282日)において当該問題に関するヒアリングが行われ、参考人として招聘された東京大学医学部産婦人科の矢野哲氏からは「“再生医療を支えるもの”胎児組織の研究使用−日本産婦人科学会倫理委員会の検討の状況」、岡山大学医学部脳神経外科の伊達勲氏からは「パーキンソン病に関する細胞移植療法」、慶応大学医学部整形外科の中村雅也氏からは「脊髄損傷に対する胎児脊髄由来神経幹細胞移植療法の開発」、産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリング研究センターの金村米博氏からは「胎児組織由来神経細胞を用いた基礎的研究の実施状況とその倫理的問題点」と題してそれぞれ報告がなされ、質疑応答が行われた。また、第8回委員会(20021115日)では、死亡胎児の研究利用を認める方向性が確認された。これは次の日、「死亡胎児の細胞の一部利用を容認 厚労省専門委、幹細胞研究で」(朝日新聞)、「死亡胎児の幹細胞、臨床研究での使用容認/厚労省専門委方針」(読売新聞)、「『死亡胎児』を治療に 厚労省、幹細胞に限定し利用認める−『倫理問題』指摘も」(毎日新聞)などと、一斉に各紙で報じられた。

[2] 統一死体提供法の第二条には、「以下の者はすべて、先順位の者が死亡時に間に合わず、かつ死者による反対の指示または同順位若しくは先順位の者による異議が現実に告知されていない場合には、列挙された順位に従って、第三条で特定されたいずれかの目的のために、死者の死体の全部または任意の部分を提供することができる」とあり、死者の「配偶者」、同じく死者の「成年の息子または娘」に続く3番目に死者の「両親の一方(either parent of the decedent)」とある(丸山, 1975)。「同順位」である「両親の一方」が異議を唱えている場合は提供できないが、逆に言えば、一方が拒否しない限り両親のうちどちらかの同意で提供は可能である。胎児に関しては、Robertson1988)も父親が反対しない限り母親の同意のみで十分と解釈している。

[3] State Embryonic and Fetal Research Lawshttp://www.ncsl.org/programs/health/genetics/embfet.htm, 20021220日現在)を参照。

[4] アメリカでは、1972年から1973年にかけて、タスキギー梅毒研究事件やウィローブルック肝炎研究事件などを契機として、立法を含めた連邦政府による包括的な研究規制への要請が高まっていた。タスキギー梅毒研究事件に関しては、G. ペンス著『医療倫理』(T,U)宮坂道夫・長岡成夫訳、みすず書房、2000年(Gregory E. Pence, Classic Cases in Medical Ethics, 2nd ed., 1995)第9章を、ウィローブルック肝炎研究に関しては、T. ビーチャム・J. チルドレス著『生命医学倫理』永安幸正・立木教夫訳、成文堂、1997年(Tom L. Beauchamp & James F. Childress, "Case 26" in Principles of Biomedical Ethics, 3rd ed., 1989)の巻末資料「事例26―ウィローブルックでの肝炎研究」(pp.518-521)を、国家研究法に関しては、D. ロスマン著『医療倫理の夜明け』酒井忠昭監訳、晶文社、2000年(David J. Rothman, Strangers at the Bedside: A History of How Law and Bioethics Transformed Medical Decision Making, 1991)の第9章を、それぞれ参照。

[5] http://www.sphere.ad.jp/cont/28-3/p559-68.htmlで翻訳の全文を参照できる(20021220日現在)。

[6] 生命倫理の原則の提唱者のひとりとして知られているジェームス・チルドレス(James F Childress)は、「生物医学の政治学(Biomedical Politics)」(1991)のなかの一章「胎児組織移植研究検討委員会での議論(Deliberations of the Human Fetal Tissue Transplantation Research Panel)」(Childress, 1991b)で、検討会での議論を詳しく紹介している。http://books.nap.edu/books/0309044863/html/215.htmlで全文を参照できる(20021220日現在)。

[7] 香川(2000, p.176)によれば、「国家研究法」に基づいて1974年に発足した「生物医学および行動科学研究における被験者保護のための国家委員会(National Commission for the Protection of Human subjects of Biomedical and Behavioral Research)」の委員長でもあった人物である。

[8] 最終的なメンバーは、Childress1991b)の巻末資料(p.245)として列挙されている。

[9] Culliton1988)は、胎児組織がエイズの研究にも利用されていることから、「ゲイたちが生命への権利(Right-to-Life)に反対するようになるだろう」と、ある科学者のせりふを紹介するかたちで皮肉っている。

[10] 当初の予定では1回の会合で報告書をまとめる予定であったという(Childress, 1991b, p.220)。

[11] 研究推進派のKassirer1992)によれば183で1名はのちに賛成票を撤回したことになっており、慎重派のAnnas1989)によれば152である。Childress1992b, p.219)によれば、報告書の最終的な結論を支持する声明(concurring statement)を提出したのは部分的な支持を含めると15人であり、それぞれカウントのし方が異なっている。反対したうちの少なくとも2名は、弁護士(attorney)のジェームス・ボップ(James Bopp)と神学者のジェームズ・バートチェル(James Burtchaell)である。バートチェルにはBurtchaell1988)、Burtchaell1989)などいくつかの論考があり、胎児組織研究反対派の論客の1人である。ボップは、カトリック教会系の中絶反対派の団体であるNRLCNational Right to Life Committee=全米生命の権利委員会)の常任理事(General Counsel)であった。

[12] Ternus MP( 1999 ) Fetal tissue transplantation research: legislative analysis and ethical considerations http://www.aum.edu/home/academics/schools/nursing/fetal.htm, 20021220日現在)およびPikunis RL( 1997 ) Fetal tissue transplantation as treatment for Parkinson's disease and other neurodegenerative disorders: Is a restriction on designated donation of fetal tissue an undue burden on the right to abortion? http://www.geocities.com/CapitolHill/Senate/8020/fetaltissue.html, 20021220日現在)によれば、サリバンはプロチョイス派であった。国内でも、「黒人で厚生長官になるサリバン氏は『妊娠中絶』に賛成の発言をして、物議をかもした人物。右派にとっては許せぬ存在だが、ブッシュ氏は強引に起用した」(北海道新聞、198918日)「米上院本会議は一日、ブッシュ政権唯一の黒人閣僚ルイス・サリバン氏の厚生長官就任を九八対一で承認した」(北海道新聞、198932日)と報道されている。

[13] 具体的に紹介されていないのが残念であるが、検討会のメンバーでもあったKing1991)は、検討会では中絶をする女性がステレオタイプ化されて話題にのぼっており、彼女は不満を感じることがしばしば(often frustrated)であったという。

[14] 彼は検討会のメンバーであり、パーキンソン病患者への胎児組織移植を精力的にすすめているコロラド大学薬理学の所属(当時)でもあった。

[15] Newman-Gage1996)によれば、「1987年まで(by 1987)に118件以上(more than 118)」。

[16] 1974年の国家研究法成立の引き金のひとつともなった中絶胎児の研究利用問題は、香川(2000)によれば「胎児そのものを被験者とする実験(p.177)」をめぐってであり、胎児組織を実際の移植に用いる臨床研究の是非ではなかった。詳細は、香川(2000, pp168-171, pp175-180)を参照。このときのきっかけとなったのは、Cohn(1973a)によるワシントンポスト紙の記事とその続報Cohn(1973b)

[17] これ以前にBacklund1985)らの同様の研究もあるが、注目されるほどの結果ではなかったのかほとんど引用されていない。

[18] 朝日新聞、毎日新聞、読売新聞が、1987325日のいずれも夕刊でいっせいに報じている。

[19] 胎児は、1987912日に入院してきた31歳の女性から書面による同意を得て提供されたもの。この女性は何度も流産(自然流産か人工流産かは不明)を繰り返してきた既往歴があったという。専門誌に発表されたのは一定の効果が確認されてからの翌1988年のことであるが、手術が行われた時点でアメリカ国内でも報道されたものと推察される。

[20] 1986年の時点ではおそらく予備的な成功結果として発表されたものと思われる。

[21] Medlineを用い「Parkinson and transplantation」で検索すると、ヒットするのは、19851件、19868件、8729年、8870件、8967件、9099件である。

[22] Lewin1987)によれば、パーキンソン病の元ボクシング選手モハメド・アリもキャンペーンに一役買っていたようである。

[23] アメリカ家族計画協会(Planned Parenthood Federation of America)のDonating Fetal Tissue for Medical Treatment and Research. (http://www.plannedparenthood.org/library/facts/fetaltis_010600.html, 20021220日現在)より。

[24] 「中絶と国民の良心(Abortion and conscience of the nation)」Nashville: Thomas Nelson Publishers, 1984という著書も著している(荻野, pp.112-113)。

[25] イギリスの例ではあるが、医学研究協会(Medical Research Council)の特別助成金によって設立された胎児組織バンクがある。Lawler SD1981)によれば、1957年から1979年までに、中絶の方法別に見ると、子宮切開術(Hysterotomy11体、プロスタグランディンの挿入(prostaglandin induction209体、吸引(Suction1,771体、計1,991体の胎児が提供されていた。

[26] Executive Order 12806: Establishment of a Fetal Tissue Bank (Signed: May 19, 1992), Federal Register page and date: 57 FR 21589; May 21, 1992NIH GUIDE, Volume 21, Number 22, June 12, 1992, http://grants1.nih.gov/grants/guide/rfa-files/RFA-HD-92-010.html, 20021220日現在)

[27] Message to the House of Representatives Returning Without Approval the National Institutes of Health Revitalization Amendments of 1992, June 23, 1992http://bushlibrary.tamu.edu/papers/1992/92062303.html, 20021220日現在)

[28] 国内には類似の研究は見当たらない。中絶一般についても実証的な研究は少ないが、そのなかにあって、社会評論社編集部編「女の性と中絶〜優生保護法の背景」(1983年、社会評論社)に収められている平智子、青木優子、岩月澄江の体験談は貴重である。

[29] 1993123日の朝日新聞夕刊によれば、新大統領クリントンは「ブッシュ政権が出した中絶胎児の組織を使った医学研究への連邦資金の提供禁止の撤廃、連邦から資金援助を受けている医療機関で、医師以外の医療スタッフが患者に対し、中絶について助言することを禁止するギャグ・ルールと呼ばれる制度の撤廃、家族計画を担当している国連人口基金への資金提供の禁止の撤廃、RU486と呼ばれる中絶薬の輸入禁止の撤廃」を行った。これについては、経過も含めて荻野(2001, p.138)が言及している。

[30] 詳細については本誌収録の横野論文を参照。

[31] 1991年版のサブパートBのタイトルは、「胎児、妊娠した女性、体外受精の過程にあるヒト(Human)を対象とする研究、企画、関連の活動におけるさらなる保護(Additional Protections Pertaining to Research, Development, and Related Activities Involving Fetuses, Pregnant Women, and Human in vitro Fertilization)」である。死亡胎児の扱いに関しては、「§46.210死亡胎児、胎児由来試料、胎盤を利用する研究活動(Activities involving the dead fetus, fetal material, or the placenta)」として、現在のものよりも簡単に記載されている。

[32] コロラド大学のカート・フリード(Freed C)らは、この研究を含め関連研究に4年間で約750万ドルの研究費をつぎ込んだことを、19994月におこなわれたアメリカ神経学会で報告している(Clark, 2002)。

[33] 日本語の解説がhttp://square.umin.ac.jp/massie-tmd/pdtrtrev.htmlで参照できる(20021220日現在)。

[34]日本神経学会ガイドライン:パーキンソン病治療ガイドライン(http://www.neurology-jp.org/guideline, 20021220日現在)によれば、移植に関しては、副腎髄質移植=無効、胎児黒質細胞移植=判定保留、交感神経節移植=判定保留である。

[35] ただし、第10回ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会開催前日の20021225日に、「ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会への意見書および質問状」が社民党3議員の連名で、「ヒト幹細胞等を用いる臨床研究に関する指針案」への要望が「優生思想を問うネットワーク」から、「死亡した胎児の利用についての要求」が「soshiren(わたし)のからだから」からそれぞれ提出されており、いずれもおもに中絶胎児利用問題に焦点が当てられている。また、これに先立つ同年1213日の毎日新聞には「死亡胎児利用まだまだ議論が足りない」という社説が掲載されている。