Human Bodies, Human ChoicesThe Law on Human Organs and Tissue in England and Wales(審議会報告、2002年)http://www.doh.gov.uk/tissue/choices.pdfから胎児組織に関する第15章のみを訳出した。

 

15章 胎児組織

 

本章では、胎児及び胎児組織(fetal tissue)の保有、利用、及び処分について論じる。とりわけ、研究または治療を目的とした胎児組織の利用に関する従来の指針について検討したうえで、指針に変更の必要性があるかを考察する。

 

15.1                   胎児または胎児臓器・組織の保有、利用、処分に際しては、いくつかの問題が発生する。その一因は、胎児の早期喪失に通例伴う関係者の痛苦および感受性にある。

 

現在の法的立場

 

15.2     現行法では、妊娠24週経過後 ― 法的生存期間 ― の死産については死亡証明が必要とされる。しかし、妊娠24週以前の死産については、出生の登録・証明が要求されない。

 

15.3                胎児は疑いもなく生存しているが、しかし生存して誕生しているわけではないので1961年人体組織法 Human Tissue Actの適用対象にはならない。すなわち、同法の目的からして胎児は法的に「人」とみなされ得ない。近年まで、妊娠24週前に死産した胎児の研究利用については一般の同意を得られなかったが、現在でも、そうした行為は同時代の倫理的基準にも民意にも反するという認識が広くゆきわたっている。

 

ポーキングホーンガイドライン

 

15.4               明示的な法的条項は設けられていないが、研究・治療を目的とする胎児及び胎児性試料(fetal material)の利用に関するガイドラインをポーキングホーン委員会が提出した(1989年)[i]。その要旨は次のとおりである。

 

       妊娠終了に関する意思決定・行為と胎児性試料の利用に関する意思決定・行為とを明確に区別すること。

       胎児組織の利用についての同意を求める前に妊娠終了の同意についての同意を得ること。

       胎児または胎児組織の利用に際しては、具体的利用目的を特定しない情報提供にもとづく母親[ii]の同意を書面で得ること。

       胎児組織の利用を可能にすることを目的として、胎児の母親または母親に影響力を有する人物に対して金銭もしくはその他の手段による動機付けを行わないこと。

       胎児または胎児組織の利用に関する提案はすべて研究倫理委員会による審理にかけること。

       中絶手技を変更しないこと。

 

15.5               現在の審理活動のなかで、ポーキングホーンガイドラインの一部について新しい進展と見解に照らして再検討を行う機会がある。

15.6               ポーキングホーン委員会で検討が行われた時点では、胎児組織を利用した研究の倫理的許容可能性についてはさまざまな意見が存在したとわれわれは認識している。そうした諸見解の存在を認めつつも、ポーキングホーン委員会は、研究または治療における胎児組織の利用は一定の不正防止策のもとで倫理的に許容できるとの結論で一致した。この結論は当時のイギリス政府にも承認された。

15.7               胎児または胎児組織を利用する研究計画案を研究倫理委員会の審理に諮るべきだとするポーキングホーンの要求の妥当性が今後も変わらないことについては、異論の余地はないと思われる。確かにこの10年間で、ヒト組織に関する研究に関する倫理的審査の重要性は高まっている。いかなる動機付けもあってはならないとする要件は、良好な診療慣行に適うものである。同様に、研究に際して、研究への参加の可否を選択する個人の意思に不当に影響するような動機付けも行うべきではないとする見解にも異論はない。患者を対象とする研究においては、患者が研究に参加することによって新たに負担する費用のみを償還するのが通常の慣行である。

15.8               ポーキングホーン委員会は、胎児組織を治療用または研究用に提供することを目的として女性が妊娠することは倫理的に許容されないとの見解を示した。このように、意思決定の「分離」の原則はポーキングホーン勧告の中枢概念である。以下に考察するとおり、かかる分離の原則はいくつかの段階で該当する。

 

中絶手技

 

15.9               胎児組織の利用の是非が問題になるのは、妊娠中絶が予定されている場合に多い。ポーキングホーン委員会は、女性が妊娠中絶に同意するまでは胎児組織の利用に関する同意を求めるべきではないと勧告している。われわれは、この原則が変更されないことを望む。

15.10            ポーキングホーンの委員会はまた、妊娠中絶が専ら母体の健康上の必要に迫られて行うものであるとの確証を得るよう念を押している。しかし、ある中絶方法が他の方法よりも母体にとって安全だと思われるが、研究のために別の方法のほうが適切であるというケースが存在することを認めている。そこでポーキングホーンは、胎児利用を考慮することが中絶方法に影響してはならないとの勧告を示した。なお、当該女性が自己の健康以外の誘因によって別の中絶方法や中絶時期を選択しようとしている場合、たとえば、胎児組織が有益な目的に利用されることで中絶に伴う痛苦を緩和できると考えた場合にはどうするべきかについても同委員会は議論したが、却下した。

15.11            後で胎児を利用することを決定したために妊娠中絶の次期を遅延することは、母体の痛苦を増長するおそれがある。基本的には、そうした事態は好ましくないと思われる。しかし、母体の健康上のニーズと研究のニーズとは必ずしも相容れないものではない。たとえば早期中絶はふつう、超音波ガイド下では行わない。しかし、超音波ガイド下で行うことが最善の診療であると同時に研究のためにも好都合であるというケースはありうる。当該手技の絶対的安全性や母体が被るストレスと痛苦など、いくつかの要素を考慮する必要があるだろう。中絶の標準手技を逸脱する場合には、研究倫理委員会の承認を得る必要がある。

 

15A.      中絶手技の変更は次の条件を満たしている時に容認可能となる。

・ 変更後の手技によって母体が被るリスクが変更前と同等もしくはそれ以下であること。

・ 研究倫理委員会の承認を得ること。

・ 当該女性に対して標準手技と変更後の手技の両方に関する情報を提供し、同意を得ること。

 

同意

 

15.3               ポーキングホーン委員会は、当該女性が胎児利用の用途を指示することは認められないとの立場から、結局、当該女性には胎児利用の用途はもとより、実際に利用されたかどうかについても知らせるべきではないとの勧告に帰着した。当該女性は、胎児が何らかのかたちで利用される可能性があるとの前提について漠然と同意をすることは認められる。そうした同意には、たとえばHIVウイルスなど、必要な組織検査に関する同意も含まれる。

15.4               われわれは、計略的な妊娠中絶を避けるべきだとのポーキングホーン委員会の懸念は妥当だと考える。しかし、具体的用途を教えずに同意を求めるという発想は、各個人が適切な情報提供にもとづいて選択するという現代社会の要請に逆行している。他方、たとえ同意を得ても、その胎児組織が個々の目的に適さないかもしれないわけで、本当に利用されるという保証はない。

15.5               人体の臓器及び組織の保有という広い文脈で考えるならば、個人(またはその親など、代行者)には、自分の組織が保有もしくは利用されるか否かをしる権利が認められている。しかしながら、特定の「目的」のために利用されているという認識と、特定の「個人」の治療に利用されているという認識とは、同じではない。後者の場合、レシピエント側の立場に立った秘密保持の問題が生じる。また、組織提供者側が専ら特定個人の治療を目的に組織を利用することを要求する可能性が高くなる。そうなると、ポーキングホーン委員会が表明した中絶の動機に関する懸念が生じる。

15.6               胎児組織が提供された時点では、その組織がどの研究目的に利用されるかが全く分らないはずである(このことはヒト組織に関する他の研究に当てはまることが多い)。胎児組織の利用に際していちいち自分で意思決定権を行使したいという人もいれば、組織の存在に関連するような事象を考えたくもないという人もいる。しかしいずれにせよ、研究倫理委員会が承認した治療または研究に組織が利用されことについての覚悟はできている。

15.7               考えられる修正案を以下に述べる。

       研究であれ治療であれ、胎児組織の利用目的が明示されている場合、当該女性には、胎児以外のヒト組織の研究・治療利用に適用されるのと同等の基準による情報提供にもとづいて同意する権利が与えられるものとする。組織を研究に利用する場合、組織を匿名扱いするか否かについて当該女性に通知する。後日、組織の利用・処分について本人に通知できるか否かはその点にかかっている。

       組織を治療に利用する場合、当該女性は組織が実際に利用されたか否かの情報提供を受けることはできても、特定の個人の治療に利用されたのかどうかの情報や、個人の特定につながるような情報(たとえば利用の期日や場所など)を提供することはできないということを当該女性に知らせておくこと。

       組織を利用して当初の目的を達成したら、同じ組織を別の目的に利用してもよい。現在の社会通念からすれば、身元の知れている組織は、当事者がとくに同意していない限り利用するべきではないということになる。そうした状況での利用について同意を求める際には、当該女性に以下の点について意向を尋ねるべきである。

   組織の身元が特定可能になる場合に:

・ さらに具体的な用途が明らかになった時に同意の可否について当該女性に問い合わせることについて。

・ 当初の目的が達成され、倫理的に適切な研究または治療に利用されていれば、組織の身元は匿名扱いにすることについて。その場合、当該女性には、後日、組織の利用・処分状況について知ることはできないということを知らせておく必要がある。

       当初の用途で組織の身元を匿名扱いにする場合、倫理的に適切な他の研究または治療にも同じ組織を利用することの可否について。

       具体的用途が明らかにされていない場合、当該女性には、研究または治療において考えられる用途について現在の一般的な情報を提供する。このような状況での組織利用について同意を求める際には、当該女性に対して以下の点について意向を尋ねること。

       組織の身元をそのまま特定可能にしておくべきかについて、また、さらに具体的な用途が明らかになった時に同意の可否について当該女性に問い合わせることについて。

       組織の身元を匿名扱いとし、倫理的に適切な研究または治療に利用することについて(その場合、組織の利用または処分については知らせることができない)

15B    前記15.16項の同意取得方法は許容可能か。許容されないのなら、どのように修正するべきか。

 

女性が同意権を行使できない場合

 

15.8               妊娠中絶する女性に同意権を行使できない場合がある。その場合でも、1967年施行の「人工妊娠中絶法」(改定)に定める中絶理由が満たされていることを前提に、中絶が女性にとって最善の選択肢であるならば(当該女性が18歳未満の場合、親権者の同意によって)これを実施することは法的に可能である。

15.9               胎児の診療または検査が当該女性の将来の健康または生殖に関する選択に影響しうる場合には、かかる診療または検査についても同様に同意を求めるのが正しいと思われる。しかし、胎児または胎児組織を研究または治療に利用するべきか、あるいは利用してもよいかをめぐっていくつかの論点が浮かんでくる。

15C     同意権を行使できない女性の胎児または胎児組織を研究または治療に利用することが本当に必要もしくは望ましいことなのか。必要もしくは望ましいとすれば、その理由は何か。

そうした胎児または胎児組織を利用することが必要もしくは望ましいとして、それは許容されるものなのか。許容されるとすれば、その条件は何か。

 

男性側にとって問題点

 

15.10            1967年人工妊娠中絶法(改定)では、女性の妊娠中絶の可否について、胎児の父親には意見する法的権利が与えられていない。裁判所も、父親には胎児の父権者もしくは代理人として意見をする権利がないという立場を支持している[iii]。この点における父親の権利は検討の対象外である。したがって、以下の各項では他の論点に着目する。しかしここでこれらの論点について考察するのは、そうすることで検討対象に含まれるいくつかの問題点が明らかになるからである。

15.11            ポーキングホーン委員会は、胎児検査の結果として胎児の父親にとっても抜き差しならない意味のある所見が出るかもしれないことを認めている。しかし同委員会では、胎児とその父親との関係は胎児と母親との関係ほどに緊密ではないとの見解を示した。そこで、父親には胎児組織を利用した研究または治療を禁止する権利は与えられないとの結論に達した。

15.12            第7章でわれわれは、妊娠した子供の胎児について検死を行うことの是非、あるいはその組織の保有もしくは利用の可否については親権者の間で意見が別れる可能性のあることに触れた。われわれは基本的には、一方の親権者が反対すればそれが尊重されるべきだとする立場だが、たとえば検死結果が妊娠の相手方当事者の健康または生殖に関する選択に影響することを理由に反対意見が却下されるような状況について意見を求めた。

15.13            第7章の考察では、親権者各々の身元が知られており、また親権者が「親」として名乗り出ているという点で、親権者の身元は特定可能だという前提にもとづいていた。妊娠中絶の文脈では、そうした事情は当てはまらない。

         状況によっては(たとえばレイプによる妊娠の場合など)、父親の身元は不明かもしれない。

       当該女性が妊娠の事実を父権者に知らせないかもしれない。イギリスの法律では、女性にその法的義務はない。他の司法管区でそうした事情を考慮する時には、女性が妊娠の事実を父権者に知らせない理由として、ドメスティック・バイオレンスに対する恐怖心、自分またはパートナーの健康やパートナーとの関係の持続性に関する懸念、女性の親が中絶に反対することがわかっている場合などがあげられる[iv]

       男性側の身元が分かっており、男性側が妊娠の事実と女性が中絶を希望していることを知っている場合には、男性はそれ以上妊娠に関わり合いたくないかもしれない。

前述のとおり、妊娠中絶に関して父権者の意見を求めることはここでの検討対象に含まれない。

15.14            稀な状況(1983年イギリス精神保健法に定められているような状況)を除き、同意能力のある成人女性には、胎児検診・検査をはじめとする医療介入に対する同意・拒絶の絶対的権利が与えられる。胎児の父権者には、たとえそうした検診・検査が自身にも影響する可能性がある場合でも、拒否権は与えられない。法的に資格のある成人が選択した医療介入を拒否する権利が他人に与えられるか否かは、人権上の重大な問題であり、ここでの検討範囲を越える問題である。

15.15            胎児検診の結果、胎児に生存の困難や重大な障害をもたらし得るような異常が見つかる場合がある。1967年人工妊娠中絶法(改定)に定める基準を満たしている場合には、当該女性は妊娠中絶を選択することができる。その場合、次の目的で胎児の検死を希望するのがふつうである。

       胎児の容体を正確に知ること。

       将来の妊娠への影響(たとえば胎児が遺伝的障害を持っているか)を確認すること。

15.16            胎児検査や妊娠中絶に関して男性側に相談するのが望ましいと考えられる場合でも、15.22項3に概略を示した点からして、男性側への相談を必須事項とすることは人権問題になる。このことは、胎児と女性の身体との不可分性に根ざした問題であり、個人間の権利の確執をもたらす可能性を秘めている。ただしこの確執は、胎児が女性の身体の外に出てからもそのまま当てはまるものではない。

15.17            その点からすれば、男性側にも役割を担う可能性が考えられる。しかし、別の角度から考えるなら、女性が出生前検査の受診と(たとえば、胎児が生存することのできないような遺伝的障害を負っていることを理由に)妊娠中絶を選択できる一方で、男性が中絶後の胎児の確定診断を拒否する可能性があるというのは、論理の矛盾であろう。ただ、父権者に同意の機会は与えられないにしても、父権者が検死結果を知る権利や結果の通知を拒否する権利は与えられるというケースはおそらくある。やはり、遺伝子検査の結果の開示はここでの検討対象外であり、既にヒトゲノム委員会による審議にかけられている。

15D      流産または妊娠中絶の後に行う胎児の検死は、次の目的で要請される。

・ 胎児の容体の性質を明らかにすること。

・ 当該女性の将来の健康または生殖に関する選択肢への影響を明らかにすること。

・ 女性だけに同意を求めることは許容されるのか。許容されないのなら、どのような方式を採用するべきか。

15.18            15.23に述べた事情とは異なり、胎児組織の研究・治療への利用を一方の当事者が拒否しても、相手方当事者に対して直接的に不利な影響をもたらすことはないはずである(ただし、たとえば感情が損なわれるかもしれない)。そうした場合には、「言いたいことを言い合う」議論をしたほうがよい。胎児性試料を使った研究が一方の当事者に影響を来す可能性のある場合に、その当事者に適切な情報提供と同意または拒否の機会を与えられるのは、現在の一般的な社会的要請に反すると考えられる。

15.19            しかし15.22に述べたとおり、父権者の身元が不明の場合や女性側が父権者の身元を明かしたがらないこともあり得る。その場合、男性側の同意を取り付けることは実質的に不可能であるか、可能にしても、あるいはそれが望ましいにしても、多くの場合、父権者の身元が本当に女性に分っているのかを担当医は観察する。また、父権者側の役割を考えた女性が組織の提供に気後れすることも考えられる。

15.20              関連するすべての権利が保護されるようにするために、以下の方策を取るべきだろう。

        身元を特定可能な組織を研究に使用し、しかもその研究結果が組織提供に関与する当事者の一方または両方に有意な影響をもたらしうる場合には、両者の同意なしにその研究を行うべきではない。

        匿名化された組織を研究に使用する場合、またはその研究結果がいずれの当事者にも有意な影響をもたらし得ない場合には、男性側の同意を求めるかどうかは女性側の判断に委ねるべきである。女性側が同意すれば、男性側の意見を求め、男性側が反対すればそれを意見として尊重する。女性が男性側との相談を拒否する場合には、その意思を尊重する。このような場合、研究実勢の是非は専ら女性の意向によって判断すればよい。

        研究計画案を審査する研究倫理委員会は、研究計画案の倫理的許容可能性を検討する際に、その研究方法が(たとえば、研究結果が当事者に有意な影響をもたらすかという観点で)当事者の同意を得られるものであるかどうかを考慮するべきである。

        今後の研究プロジェクトでの利用に関しては、

     所期の研究プロジェクトについて男性側が同意している場合には、将来の研究についても前記15.16項で提案した原則にもとづいて男性側の同意を求める。

     所期の研究プロジェクトについて男性側の同意を求めていない場合には、それ以降、その男性にとって有意な影響をもたらしうる研究は行わない。その他の研究は、15.16項に定めた原則に則って女性の同意が得られれば進めてもよい。

15E   15.29項に定める方法を採用すれば、胎児または胎児組織に関する研究において男性を含む個人の利益を十分に保護できるのか。十分に保護できないとすれば、他にどのような方式を採用するべきか。

 

仲介者

 

15.21            15.8項に述べたとおり、意思決定の分離の原則はポーキングホーン勧告の中核をなしている。したがって、現在はMedical Research Council Fetal Tissue Bankが中心となる仲介者は、胎児組織の提供者と利用者を明確に分離している。しかしながら、ポーキングホーン報告では、仲介者を利用しなくても提案する規則を順守することは可能であることを認めている。実際、新鮮な体制組織を必要とするいくつかの(適切な研究倫理委員会の承認を得ている)研究プロジェクトでは、仲介者を必要としない胎児性試料の供給体制を確立している。

15.22            組織バンクには、たとえば下記のようないくつかの利点がある。

       研究者が組織の入手先に連絡できる。

       組織の供給が倫理的に妥当な仕方で入手されていることを保証できる。

       レシピエントには組織の身元が絶対に分らない。

15.23            身元の分るような仕方で組織を利用する場合には、たとえ同意が得られていても、その身元が分るような情報を開示する相手は必要最小限にとどめるのが望ましい。多くの場合、必要に応じて当事者に情報をフィードバックできるよう組織をコード化するだけで十分である。それでも個人情報には高いレベルの保護対策を講じる。仲介者を利用することは、そうした保護対策に役立つ。

15.24            結局のところ、胎児組織バンクを引き続き仲介者として利用するのが便利だと思われる。しかし、ポーキングホーン委員会が認識しているように、状況によっては仲介者の利用を必須とすると問題が生じる事がある。きわめて鮮度の高い胎児組織が必要な場合がその一例である。したがって、胎児組織バンクの利用は望ましいことであるが、研究倫理委員会の裁定としては、現状どおり他の供給体制も容認されることを期待する。

15F      仲介者に関する法規制を設けるべきか。設けるべきなら、そうした規制条項の目的は何か、仲介者を立てることで問題が生じるケース(新鮮な胎児組織が必要な場合など)についてはどのように対応するか。

 

財産権と金銭的問題

 

15.25            ポーキングホーン委員会も認めているように、胎児由来の細胞株には財産権の問題が絡んでくる。この種の財産権が成立するかについては、1989年までイギリスの法律では考慮されていなかった。紛らわしさを避けるために、ポーキングホーン委員会では財産権の放棄に関する条項を設けるべきだと勧告している。本報告書でも前述したとおり(5.9項)、生命倫理分野の国際的規定書に共通する点は、人体及びその一部が金銭の授受につながってはならないということである。

15.26            法改正によって胎児の身体及びその組織がそれ自体としては財産権の対象にはならないという原則が確立されれば、前項の国際的規定に適合する。このことはもちろん、前記7.19項に従って、当事者の同意に基づくべき組織の利用を制御する権利が存在しないということにはならない。ただ、金銭の授受の可能性は排除される。

15G   胎児の身体及び胎生組織はそれ自体として財産権の対象にはならないということを法律に定めるべきか。

15.27            細胞株を培養するなどして、胎児組織の利用範囲を広げるために加工する場合もある(第17章)。この加工の技量、資源、及び見識は、加工による成果物を財産権で保護するための根拠となる。その場合、将来の金銭的利益をもたらすのは胎生組織そのものではなく、加工という行為とそのために費やされた技量である。ヒトの組織に関するイギリスの現行法規では、このような考え方を採用している[v]。この財産権は、当該する加工作業を行った個人または団体に帰属する。

15H     加工及び技量を通じてさまざまな属性を獲得した胎児組織を財産権の対象にすることは許されるのか。財産権の対象とすることに伴う利点と問題点は何か。

 

良心にもとづく反対

 

15.28            胎児または胎児組織を研究・治療に利用することには、倫理的に反対する人もいる。ポーキングホーン委員会は、医師や看護師に対して、自己の良心に照らして賛成できない研究や治療への参加義務を免除するよう勧告している。ただしこの参加拒否権は、当該患者に対する過去または将来の医療にまで敷衍されうるものではない。

15.29           1967年「人工妊娠中絶法」(改定)及び1990年「ヒトの受精と胚研究に関する法律」では、規制対象の活動についての良心にもとづく反対[vi]に関する条項を設けている。

151      胎児組織を利用した研究または治療に対する良心的反対について法規を設けるべきか。設けるべきでないとすれば、その理由は何か。

 

胎児及び胎生組織

 

15.30            慣習法では、死産の胎児の身体(15.2項参照)や出産後に死亡した胎児の身体は土葬または火葬しなければならないと規定している。この規定は、妊娠24週を過ぎてからの妊娠中絶にも適用される。

15.31            24週以前に死産した胎児については死亡証明・登録が義務づけられていない(15.3項)が、現在の保健省の指針[vii]によれば、処分の仕方については個人の意思が全面的に尊重されるべきである。このことは、胎児の喪失(流産または妊娠中絶)の場合にも当てはまる。個人の意思が表明されていない場合には、現在のところ胎児は償却されることになる。Chief Medical Officers 2000の調査結果によれば、近年の慣行は既存の指針[viii]にほぼ準拠している。

15.32            Retained Organs Commissionが現在実施中の協議会(9.39項参照)では、「ヒトの組織にも医療廃棄物の焼却処分は適用してよいかなど、臓器及び組織の処分方法に関するさまざまな問題を議論している。同Commissionの発行文書には、大量のヒト組織の処分方法として土葬または火葬を選択する場合の適合性、実行可能性、及び安全性についての懸念が強調されている。

15.33              2001年に発行されたイギリス看護協会の手引書には、現代の焼却方法で保健省が要求する慎重かつ丁重な処分基準に対応することは現実的に困難であるとし、妊娠初期胎児の遺骸の処分方法は国内でも統一されていないことを指摘している[ix]

15.34            こうした問題は、とくに妊娠中絶に当てはまる。イングランドとウェールズを合わせて毎年180,000件の人工妊娠中絶が行われている(うち88%は妊娠12週以前)。ほとんどの中絶は、比較的少数の専用クリニックで行われており、火葬に関してこれまでに行われた調査結果によれば、各地の火葬場は胎児組織の数が多くて対応しきれないと訴えている。加えて、妊娠中絶術を受ける女性のなかには、処分方法に関与したがらない者もいる。

15J   胎児、とりわけごく所期の胎児について処分方法について処分方法について希望が示されていない場合には、焼却処分にすることが許容されるのか。

15K   焼却処分が許容されないとしたら、他にどのような処分方法を採用するべきか。また、そのために要する追加費用は誰が負担するべきか。

 

その他の問題点

 

15L  胎児または胎児組織について、本書での検討対象に加えるべき論点は他にあるか。

 



[i] Review of the Guidance on the Research Use of Fetuses and Fetal Material (Chairman: John Polkinghorne)

(1989)

[ii] 言葉遣いは微妙な問題である。中絶あるいは流産した女性の全てが自分たちを母親と形容するわけではない。

[iii] Paton v Trustees of BPAS [1978] 2 All ER 987

[iv] Planned Parenthood of SE Pennsylvania v Casey (1992) 112 S Ct 2791

[v] 例えば、R v Kelly [1998] 3 All ER 741

[vi] それぞれ、s4s38

[vii] HSG (91) 19/EL(91)144.

[viii] Report of a Census of Organs and Tissues Retained by Pathology Services in England Conducted in 2000 by the Chief Medical Officer (Department of Health, 2001)

[ix] RCN, Sensitive disposal of all fetal remainsguidance for nurses and midwives (May 2001)(www.rcn.gov.uk)