後発品の論点整理
ーどこが・何が違う?・同じ?ー

以下,実はあまり整理できていないのだが,とりあえずということで.

> > 知り合いの医師から「後発品が先発品に品質的に劣るというのは、誤りで品質にどれも違
> > いは無い(という報告がある)」と聞きました。

「同じ」「違う」の判断基準項目が質問者自身整理できていない。「品質」って何?彼らが言う「品質」って、審査で言う「品質」じゃないよね。薬物動態、有効性、安全性のうち、どの項目のことを議論しているのか。

同じ日本人で、同じ医者なんだけど、言語が共有できていないんだ。日常診療現場でもしばしばこのような状況に出くわすが、規制当局の内外にある断層は、特に外側では全く意識されていない。

「先発品と後発品て品質が違うんですか?」という質問は、「膠原病って、怖い病気なんですってね」という質問と同じ。彼我の間にある深い溝をメールで埋める作業を思うと、気が遠くなる。

それでも、疑問を投げかけてくれるのは、非常に有り難いことなので、通常は次のように翻訳している。(下記追記参照)
○現行のガイドラインでは、溶出試験ばかりでなく、健常人を使った生物学的同等性試験で、同等性が担保されているというのが規制当局のスタンス
○しかし、対象が健常人であること(25歳の健常男性と、80歳のおばあさんの薬物動態が同じとはとても思えない)
○限られた薬物動態のパラメーターだけが評価の対象になっていること
○同等性の判断基準が極めて甘いこと
○未変化体のみ測定しており、活性代謝産物など全く考慮に入れてないこと
○薬物動態=有効性=安全性ではない(例えば,薬物動態のある指標が20%異なっていても、薬物動態として「同じ」と判断することはある、しかし,その20%の差が特定の副作用の出方が異なる可能性は十分ある)

以上より、先発品と後発品が「全ての有効性・安全性両面で同じ」との主張は空想科学物語である。一方で、「先発品と後発品が違う」と主張する場合には、一体、どの点で違う、どのようなカットオフポイントを用いて「違う」と主張するのかを、論者が明らかにする必要がある。このように、論点を明確にせずに、違う、同じというのはナンセンスである。後発品の降圧剤方が、血圧が安定してよかった なんてこともありうる。後発品メーカーの中でも、製剤を工夫して先発品の欠点を改善しているところもある。

だから、現実に処方する場合は、「出たとこ勝負」である。私にはそんなこと判断できないなんて言わないでもらいたい.後発品のリスク・ベネフィット&経済効果の判断は、現場を知らない厚労省よりも、患者の命を預かる現場のお医者さんの方がずっとふさわしい。

> 私自身の理解としては、後発品は先発品と主成分が同じであれば溶出試験(90%信頼区間)のみでOK
これは、すでに昔、旧ガイドラインで承認してしまった後発品の再審査では、溶出試験が課せられていて、その溶出試験がクリア(基準については??)できれば、生物学的同等性試験なしでも仕方なくOKとしているってことね。そういう品を載せたのがオレンジブックというわけ。旧ガイドラインで承認してしまった後発品の中には溶出試験ができないようなひどい品質のものもあって、それはオレンジブックに載っていない。だから、オレンジブックに載っている後発品なら「安心」てわけではなくて、最低限の基準だけクリアした古い品ってこと.

2008/7/20 追記:メールで下記のようなご指摘をいただいた.

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○現行のガイドラインでは、溶出試験ばかりでなく、
 健常人を使った生物学的同等性試験で、
 同等性が担保されているというのが規制当局のスタンス

→まぁ、そうですね。
 付け加えるとすると、このガイドラインは、後発品の申請だけでなく、
 先発品の剤形変更や規格追加などにも利用されています。
 このガイドラインで後発品がダメなら、先発品の規格追加などもダメでしょうか。
 

○しかし、対象が健常人であること
 (25歳の健常男性と、80歳のおばあさんの薬物動態が同じとはとても思えない)

→試験はクロスオーバーなんですけど、
 25歳の健常男性で同じような結果になる先発品と後発品が、
 80歳のおばあさんだと同じにならない、というのもわかりにくいのですが。
 

○限られた薬物動態のパラメーターだけが評価の対象になっていること

→ガイドラインでは、AUCτとCmaxの他に、
 AUC∞,tmax,MRT,kelなども評価するよう求められていますが、
 何が「限られ」ているのでしょうか。
 

○同等性の判断基準が極めて甘いこと

→「80?125%」のことを、“先発品の平均値に対する後発品の平均値”
 というように誤解されていませんか。
 この許容範囲は、クロスオーバーで複数人に投与した場合の
 先発品と後発品の薬物動態パラメータの分布について、
 「平均値の差の信頼区間が収まる範囲」を指しているもので、
 この評価方法・許容範囲は、
 WHO <http://whqlibdoc.who.int/hq/1998/WHO_DMP_RGS_98.5.pdf>
 FDA <http://www.fda.gov/cvm/guidance/bioequivalence_Oct02.pdf>
 EMEA <http://www.emea.europa.eu/pdfs/human/ewp/4032606en.pdf>
 のガイドラインも同じ考え方を取っています。
 この判断基準が「極めて甘い」のであれば、世界中の後発品はダメですね。
 

○未変化体のみ測定しており、活性代謝産物など全く考慮に入れてないこと

→先発品と後発品は、有効成分は同じで、
 クロスオーバーなので人も同じなのですが、
 未変化体が同じような濃度になって、代謝産物の濃度が異なることを
 想定する必要があるのでしょうか。
 (そもそもガイドラインでは、場合によっては活性代謝産物を測定するよう
  書いてありますけど。)
 

○薬物動態=有効性=安全性ではない
 (例えば,薬物動態のある指標が20%異なっていても、
 薬物動態として「同じ」と判断することはある、しかし,
 その20%の差が特定の副作用の出方が異なる可能性は十分ある)

→「薬物動態のある指標が20%異なっていても」
 は、前提条件が誤りですね。
 平均値としてこの差は許容されません。
 個体差or個人内変動であれば、先発品でもこの程度の差はふつうにありうると思います。
 (だからPGxとかオーダーメイドだとかが必要、という話につながるのですが。)
 

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