わかっちゃいるけどBrexit
British Hearts & Mindsから読むBrexit

以下,EMAのアムステルダムへの移転が辛うじて関係がありそうな点を除けば,医薬品,医療機器とは全く関係のない話

Brexitに対するBritishの心境は,植木等と同じです.時代,人種,洋の東西を問いませから,いくらでも同様の事例はあります.欅坂46だって,スティービー・ワンダーだって.(Knowing it's so wrong, but feeling so rightを「わかっちゃいるけどやめられない」と訳したのは私です).それは一個人の中でのHearts and Mindsの問題です.

全ての英国民は,「俺たちは大陸の連中と「仲良くやっていく」なんてことは金輪際してこなかったし,これからも未来永劫そうだ.かと いって喧嘩をしたってどっちも損するだけだってこともわかってる.俺たちは子供じゃない」そう思ってきました.そうです.彼らはわかっているのです.Hearts and Mindsの観点で言えば,Mindsではわかっている

その一方で,次のような思いも止められないこれがHeart.
「な んで俺たちがじゃがいも野郎の風下に立たなくちゃならないんだ.あいつら,一度ならず二度までも俺たちに戦争を仕掛けて,俺たちの祖父や曾祖父を殺してき たじゃないか.二度目もボロ負けしたくせに,アメリカから金をせしめて焼け太りした挙げ句,俺たちにああしろこうしろと指図してきやがる.もう,うんざり だ.いつまで,かえる野郎やじゃがいも野 郎の言うなりになるほど,俺たちは馬鹿でも腰抜けでもない」

誰でもHeartとMindを持っている.一人のBritishの中で,Brexitへの賛否が拮抗している.それが政党への投票とBrexitの是非と問う国民投票の決定的に異なる点です.だからこそ,あれほど賛否が拮抗し,また,投票行動も政党支持とは全く異なっていました.

Brexitに対する賛否の分布は,従来の政党への投票のそれとは全く異なっていました.中でも興味深いのは,「共通しているのはパスポートだけ」と言われるスコットランドとイングランドの対照です.スコットランドではおしなべてBrexit賛成派が優勢です.これは伝統的に18世紀初頭の連合王国形成以前から,大陸と親和性があり,20世紀入ってからも常にイングランドからの「独立」の動きがあるお国柄から考えれば当然でしょう.では,ヘンリー8世以来の”splendid isolation”の伝統があるイングランドはBrexit反対派が優勢かというと,決してそうではなく,地域によってばらばらです..

金融業に象徴されるように,大陸から呼び込んだ金で潤ってきた大ロンドンを中心とする地域(大票田です)では,Brexitに対する反対票が優勢でした.一方,マーガレット・サッチャーの「改革」で切り捨てられた地域では,マネーゲームのメッカに成り上がったシティに対して強い反感が生まれ,「俺たちがありついてきた低賃金の働き口が移民に奪われた」という感情を助長してきました.

そんな彼らには,負け癖がついていました.でも,国民投票は別でした.選挙と違って,一生に一度のお祭りなのです.「どうせ残留組が勝つんだろうけど,同じアホなら踊らにゃ損々」とのノリで,投票所に行った.その結果が国民投票で「民意」となったのです.

しかし,国民投票の結果がどうあれ,一人のBritishの中で,Brexitへの賛否が拮抗している状況は全く変わっていません.国民投票の後も延々と繰り返されるドタバタ劇の説明もそれできれいに説明できます.

目次へ戻る