客員研究員と税金(交換教授免税)

英国に滞在する日本人が取られる可能性のある直接税は所得税(PAYE: Pay As You Earn.源泉徴収)Counciltaxである.とくに客員研究員ではこれらの税金が免除される(所得税は確実,カウンシルタックスも免除ないし減免される可能性が十分ある)

この免除の元となる協定の正式な名前は明らかではないが,IR20 Residents and Non-residents : Liability to Tax in the United Kingdom’の9.7と9.8節に、教師・教授など人にものを教える職の場合は2年間以下の滞在に限り免税されること、協定がある場合には研究者にもこの規定が適用されることが記されている。ただし,2年以上滞在した場合には免税の対象とはならず、到着日に遡って課税される。

日本の法律で根拠となっているのは,所得税法第161条第8号イ、日英租税条約第22条(1)である.そこでは,「大学、学校その他の教育機関において教育を行うため一方の締約国を訪れ、2年をこえない期間滞在する教授又は教員で……」と規定されている.

所得税の免除
(日本の機関からではなく)英国の機関から給料をもらうと,普通は源泉徴収で所得税が引かれる.しかし,2年以下の滞在の日本人客員研究員はこの所得税が免除される.そのためのきちんとした日英間の協定がある.管轄は税務監督官(事務所)(H.M. Inspector of Taxes.けったいな名前をつけやがる)である.税務監督官事務所は税務署「Inland Revenue」のRevenueの1部署である.私の場合,グラスゴー大学から給料をもらっていたので,日英間の協定により云々と税務署に手紙を書き,それまで払っていた所得税を返納し,以後の所得税を免除してもらった.下記がその手紙の文例である.(冒頭にあるのは納税者番号.この文章では滞在途中で,それまで納めていた源泉徴収を返してくれ,併せて今後は源泉徴収されないようにしてくれと依頼している)

H.M. Inspector of Taxes, Centre 1, Management Unit
Queensway House, East Kilbride, Glasgow

Dear Sir

N. I. No. PW 028404A 961/32

I am a Japanese citizen who arrived in the United Kingdom in April 1990 to take up a 2 year research register post. Shortly after my arrival, all the necessary forms were completed regarding my salary, national insurance code etc. I have now been informed that, due to an agreement between our governments, I do not require to pay tax as I will be staying in the U. K. for less than two years.

I would be grateful if you let me have necessary forms to alter the existing code into NT (No Tax) code and arrange for me to apply for a refund for the amount of tax which I have already paid.

Thank you for your help in this matter

Yours sincerely

Masayuki Ikeda, M.D.

ちなみにエジンバラの所得税相談所の住所は下記の通り.

Inland Revenue Scotland
PAYE Enquiry Office
Stuart House
30 Semple Street
EH3 8BL

カウンシルタックスの免除
カウンシルタックス(詳細は別記参照)は日本の地方税(住民税+固定資産税)に相当し,管轄は地方自治体である.カウンシルタックスの免除に関しては,所得税ほど事例がはっきりしない.しかしお互い国の学術振興のために税を免除するというのであれば,所得税とカウンシルタックスを区別するというのもおかしな話だ.

カウンシルタックス免除交渉の実際
エディンバラ在住のSJさんは日本の大学で文部教官であり,休職扱いでスコットランドで社会学の勉強をしている.彼がカウンシルタックス免除の交渉過程で用意した文書は次の通り.

1、パスポート
2、客員研究員としての招聘状
3、日本の財団からの研究助成通知書
4、日本の大学の給与証明

を準備して、事前に電話などすることなく、直接、支払い窓口に行った。実際に3と4は使わなかった。実際の交渉は次の通り.実際の交渉は同伴していったThe Brain of Flying Scotsman,芝崎 芳朗さん.カッコ内の実用的なコメントも芝崎さんです.

芝崎「彼の所に、カウンシル・タックスの督促状が来ているのです。短期滞在の研究者のカウンシル・タックスは、免除されると、大学や、ブリティッシュ・カウンシル等から聞いたのだが、手続きをお願い出来ませんか?」(He has just received a remider of the Council Tax. We have heard from the University and the British Council that the Tax exemption is applied for the fixed term-visiting researchers. Can we make an application here?)
(どこの国でも、お役人は、権威に弱い!大学や、リサーチ・カウンシル等の名前を出すのが得策。)

窓口職員「学生ですか?」(Are you a student?)

芝崎「いいえ、研究者です。奨学金をもらっている客員研究者です。大学で研究のみをしています。」といって、招聘状を見せる。(No, he is a research fellow. He is receiving a fellowship from an exchange programme. He is doing full-time research.)
(「research fellow」や「fellowship」は、一般にはとっても曖昧な言葉で、大学関係者以外はその実体をあまり知らないので、お役人を「煙に巻く」のにはうって付けの言葉です。)

芝崎「それと、督促状には5月からとなっているが、彼は、6月に赴任したので、これはありえない。」(Oh, there is another thing to mention. On thereminder, his stay starts in May, but he came in this country in June. It is not possible.)
(日本と同様、お役人の「マイナー・ミス」を指摘するのも、気を逸らすのと、「相手に貸しを作る」為の常套手段。)

窓口職員「こちらは、不動産屋や事務弁護士の申請に頼っているので...」
(We just rely on the information from the letting agent or solicitor....)
(軽く聞き流す。これも日本と同様、お役人の言い訳にまともに反応してはいけない。単に話がこじれるだけ。)

芝崎が(自主的に)申請者からパスポートをお借りして「パスポートの入国印を見てください。」(His passport has a date stamp at the Immigration Control.)

窓口職員「上司の意見を聞いて来るので、お待ちください。」(と言って奥に入る。)
(I have to ask my boss' opinion.)

窓口職員「招聘状とパスポートのコピーをとってもいいですか?」
(Can I take a photocopy of the letter and your passport?)

芝崎「勿論です。」
(Certainly!)

窓口職員が、申請用紙の必要欄を埋めて(滞在開始も6月からと直した)、その空白に、「大学の示唆により、短期滞在研究員のカウンシル・タックス免除を申請します。」と書いて、「下にサインしてください。」と言った。(Could yousign at the bottom?)

芝崎「どのくらいで、結果がわかるのですか?」
(How long does it take to hear the decision?)

窓口職員「一ヶ月ぐらいかかります。」
(It takes about 4 to 6 weeks.)

芝崎「ありがとう」
(Thank you.)
(そして、最後にThank you!を絶対に忘れないこと!それによって、申請書が、「書類の山の一番上に行くか、下の方に行くか」が変わることがままある。窓口係員の印象によっては、書類が直接上司の机に行くこともある。これも日本のお役人と一緒!)

窓口職員は、若いお兄ちゃんでしたが、対応はいたって丁寧で、言葉使いも高圧的ではありませんでした。免除交渉過程を文章にして残しておくのは、後々の為に大切だと思います。

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