臨床研究法が招く阿鼻叫喚

Dieu le veult! (神それを欲したもう!)
(この頁は工事中で雑多なメモで満ちあふれていることをお断りしておきます)

These wonderful results were almost too good to be true. I would put my mother on an ACE inhibitor, but valsartan is just good enough for my mother-in-law.

2009年9月1日,バルセロナで開かれた欧州心臓病学会で発表されたKyoto Heart Study (KHS)に対する,チューリヒ大学のFrank Ruschitzka教授のコメントです.その時会場は爆笑に包まれたとのことです.(桑島 巌 『赤い罠』 日本医事新報社)

このエピソードからもわかるようにKHSは,その論文発表直後から研究不正を疑われていました.ところが高血圧学会は, 2013年初頭に報道各社のスクープ合戦が始まるまで,何の調査もしませんでした.「誇大広告の公訴時効(3年)を迎えるまで学会ぐるみで研究不正を隠蔽していたのではないか?」と問われたら,学会幹部はどう答えるのでしょうか.

高度先進医療などもどうなることやら.適応外使用,自由診療,個人輸入はどうなるか?もし事故が起きたら,因果関係の有無なんかすっ飛ばして,マスコミは大騒ぎするだろう.それをコントロールする手立ては無い.最大の問題は刑事告発をコントロールする手立てがないこと.厚労省がどうこう言ったって,人体実験だと刑事告発されれば,「国民感情」を考えたら警察・検察は乗り出す.それをコントロールする手立てはない.刑事告発は嫌疑不十分で不起訴処分になったとしても恫喝の手段としては有効に使える.
さらに悪いことには内部告発の質を見極める手段がないことだ.

以下は薬害オンブズパースン会議のサイトからの引用である
EUではICH-GCPが大学等の臨床試験を駆逐している?2010-03-23
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 EU臨床試験指令(European Directive 2001/20/EC)の導入後、ヨーロッパ各国ではあらゆる臨床試験はGCP(「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」)に準拠して行われるようになっている(※1)。これらの改革は被験者保護という観点から評価される一方で、大学等の研究者にとっては研究を阻害し、医療の発展を損なうものとも受け取られている。以下、この点についてイギリスの実情に即して現行の臨床試験規則を批判的に捉えている、PLoS Medicine誌2009年12月号の論説「臨床試験規則がもたらす意図せざる結果」(※2)の要旨を紹介する。
※1 EU臨床試験指令とイギリス臨床試験規則
※2 臨床試験規則がもたらす意図せざる結果
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それが6年後には次のように論調が変化している。
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米国では政府が実施の臨床試験の減少と企業実施の臨床試験の増加が顕著2016-04-19
(前略) 日本では、治験以外の臨床試験を規制する法律(臨床研究法)さえ、今国会(2016年1月〜)での成立があやぶまれている現状にある。ディオバン事件の公判で明らかになりつつある、企業がやりたい放題の日本の臨床試験の現状に多くの国民が厳しい目を向けるべきであり、医療関係者が自らを律するとともに、企業から影響を受けない臨床研究とそのための実効性のあるルールを医療界が主体となって構築しなければならない。
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臨床研究法案は2017年3月23日、衆議院本会議で全会一致で可決された。1095年11月28日、ウルバヌス2世によるエルサレム奪回活動への参加の呼びかけに応じたのは、クレルモンの広場に集まった、たかだか数千人のフランス人に過ぎなかった。それに対し、臨床研究法を歓迎する日本国民の皆さまの数は、一億を優に上回る。なぜなら、臨床研究法を否定する声は日本全国どこからも聞こえてこないからだ。ちょうど「ベクロニウムを検出したとする警察鑑定はまるきりの捏造だ」という声が一言も聞こえてこないように。ちょうど大東亜戦争開戦前夜、「鬼畜米英に天誅を」の声で日本中が溢れかえっていたように。

刑事罰規定を盛り込んだ臨床研究法を歓迎する人は、臨床研究法が研究不正を取り締まり、日本の臨床研究の治安維持を図ることを歓迎しているのだろう。そうして、研究不正の判断基準を自由に操作することにより、臨床研究を撲滅できることもご存じなのだろう。それに対して、臨床研究者は通常、自分の大切な研究が撲滅されてはたまらないから、対応策を講じる。

新しく規制ができる時は、その規制対象となる個人あるいは法人は、あらかじめその規制の内容と、罰則を把握し、対応策を立てる。対応策を立てる時は、最悪のシナリオを想定する必要がある。そこで臨床研究法下での最悪のシナリオを想定してみよう。

自分の行っている研究について、ある日突然不正が告発された。(危機管理の観点から、あらかじめ告発内容や告発者が予告されることは決してないと考えるべきである)。週刊誌、新聞社、放送局・・・種類を問わず全てのメディアが欣喜雀躍して自分の大学に乱入し「スクープ」を乱発した。研究室に医学用語辞書を手にした「医学ジャーナリスト」が大挙来襲し、「薬害」被害者の怒号の中を、お縄を頂戴した生物統計家が自分の身代わりとなりフラッシュを浴びながら東京地検特捜部に護送されていった。被害は当該部門だけにとどまらなかった。報道キャンペーンは国民の皆さまに「袈裟が黒けりゃ腹まで黒い」と思わせた。その大学で行われる臨床研究は全て信用を失った。研究費取得は困難を極め、有能な人材は去り、本格的な復興までに東日本大震災以上の年月がかかった。

「そんな馬鹿な」と思う人々は、臨床研究法の心配をする前に、自分の記銘力を心配した方がよかろう。上記はシミュレーションでも何でもない。まさにディオバン事件そのものである。

ディオバン事件の裁判でも、研究不正は認定されたのだから、もし臨床研究法下で同じ裁判が行われれば、白橋伸雄氏は有罪となっていた。松原弘明氏を始めとした、KHSの著者達は東京地検特捜部から正義の味方のお墨付きをもらって、これからも堂々と医師としてのキャリアを進んでいけた。ノバルティスのバーゼル本社、PROBE法を悪用して降圧を超えた効果をでっち上げた張本人、前代未聞の査読スルーをプロデュースしたEuropean Heart Journalの編集部や、JHSの別刷でたんまり儲けたランセット編集部といった海外の黒幕たちは高笑い。

臨床研究法下での告発はこんな裁判の繰り返しとなる。そんな馬鹿なと思う人は私に対して反論を試みる前に刑事裁判の基本を学ぶことをお勧めする。元裁判官が書いた当代一級の解説書には、「刑事裁判はすべて冤罪である」、「裁判は真実発見の場ではない」とある。冤罪=つまり、どんなに正しいと信じて研究していてもいくらでも言い掛かりはつけられる。真実発見の場ではない=どんなに「研究不正は存在しない。それが真実だ」と叫んでも

臨床研究に関わっている方々の一体何割が臨床研究法対策を考えているだろうか?もし何も考えていないとしたら、臨床研究なんか撲滅されても痛くもかゆくもないと思っているのか、自分が関わっている、あるいは関わるであろう臨床研究には、全く問題がなく、刑事罰規定の対象外であると確信しているかのどちらかであろう。しkし、自分の臨床研究は絶対に撲滅されないと確信できる根拠はどこにあるのだろうか?

 来るべき臨床研究法の下で最も懸念されるのは、研究者間の葛藤に基づく内部告発の乱発である。「あいつを吊してやる」という意図の下に行われる告発とそうでない告発を見分ける仕組みが全く担保されていない。そこが悪意ある告発者にとっての臨床研究法の最大の利点である。

ディオバン事件で白橋伸雄氏が逮捕されたのが2014年6月11日、起訴(公判請求)が7月1日で、初公判が1年半後の2015年12月16日でした。この間白橋氏はずっと勾留され続け、保釈されたのが初公判前とのことですから、保釈が12月1日としても勾留期間は538日。なんと「獄中記」を著した佐藤優氏の512日よりも長かった。

そんな勾留期間の長さだけ考えても、特捜の苦労のほどがうかがえます。にもかかわらず、白橋氏に対しては「長い間勾留、お疲れ様」という辻川靖夫裁判長の言葉はあっても、まさかの完敗を喫した特捜検事に対しては誰もねぎらいの言葉一つかけませんでした。ではこの間、刑事告発をした厚労省と薬害オンブズパースン会議(YOP)は一体何をやっていたのでしょうか?

基本的に司法メディアは、「特捜が事件を手がけることは、自分たちにとってプラスだ」と考えています。そういう意味でメディアと検察は利益共同体です。(中略)だから検察の問題点を指摘するようなことは一切しません。(検察の正義、その根拠はどこにあるか?

(この頁はまだ書きかけ)

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