内科疾患とReversible posterior leukoencephalopathy

Hincheyらの報告とそれ以前自験例RPLの基礎疾患と血管原性浮腫PRLとCPM/EPMRPLはreversibleか?なぜ,posteriorなのか?RPLという疾患概念の臨床的意義文献RPLのMRI画像 

Hincheyらの報告とそれ以前
Hincheyら1)が,頭痛,意識障害,けいれん,視力障害を主徴とし,脳画像上,後頭葉白質を中心とした病変を呈した15症例を,reversible posterior leukoencephalopathy (syndrome) (以下RPL)と名づけて以来,同様の症例が数多く報告されている.このような症例報告の増加は,Hincheyらの報告が,New England Journal of Medicineという臨床のトップジャーナルに掲載されたために,病名が早く,広く知られるようになったことと,白質病変の検出においてX線CTよりも鋭敏なMRIの普及という,二つの要因によると私は考えている.
Hincheyらは,RPL の原因として,腎障害に合併した高血圧による高血圧性脳症,子癇,免疫抑制剤の使用を重視した.しかし,これらの基礎疾患はRPL提唱以前からあったわけだから,RPLもHincheyらの提唱以前からあった2) 3)4)5)我々6)も,Hincheyらの報告以前に,低ナトリウム血症の補正を余儀なくされた後に,橋と両側後頭頭頂葉を含む広範な白質病変が出現し,橋中心ならびに橋外髄鞘崩壊(central and extrapontine pontine myelinolysis:以下CPM/EPM)と診断したが,その後白質病変が急速に退縮し,RPLの経過を呈した一例を報告している.以下,自験例として紹介する.

自験例
36歳男性が,台湾へ旅行し,現地の女性と性交渉を持った6週間後に,劇症肝炎と急性腎不全の診断で緊急入院となった.入院当日,体温35.4度,血圧168/70mmHg,脈拍72/分,黄疸が著明で,閉眼,開口などの簡単な口頭命令には従えなかったが,覚醒は維持できており,痛み刺激にも迅速に反応できた.
臨床検査では,血清ナトリウムが116 mEq/Lと著明に低下していた.血清カリウム 4.3 mEq/L,クロール79 mEq/L,BUN 127 mg/dl,クレアチニン 12.6 mg/dl,血糖 104 mg/dl,ALT 5170 IU/L,総ビリルビン 11.06 mg/dl,アンモニア 163 mg/dlと,著明な腎機能障害,肝機能障害を認めた.HBsAg, anti-HBc IgMはともに陽性だった.脳波はびまん性の徐波を示したが,左右差はなく,入院当日の頭部X線CTには異常を認めなかった.
劇症肝炎に対し血漿交換,急性腎不全に対し,緊急血液透析を行った結果,24時間で血清ナトリウムは136 mEq/Lとなった.その後も同様の治療を継続,状態は徐々に改善し,入院第4病日には血漿交換は中止した.入院第10病日には,意識は清明となった.しかし,入院第12病日に突然の全身痙攣とともに昏睡状態に陥った.MRI(図)では,T2強調画像で橋中央に(a),両側後頭頭頂葉白質に左右対称性に(b,c),また,右前頭葉白質(c)にも,異常な高信号を認めた.低ナトリウム血症の急激な補正と特徴的な画像所見より,CPM/EPMと診断した.デキサメサゾンとグリセロールの投与を開始するとともに,臨床検査で,肝不全の再燃を認めたため,血漿交換も再開した.その後,全身状態は徐々に改善したが,2ヵ月後の退院時点では,失読・失書,場所と時間のオリエンテーションが障害されていた.対座法では視野障害は認めなかった.退院時のMRIでは,橋病変 (d),両側後頭頭頂葉白質(e, f),右前頭葉白質(f)ともに著明に退縮していた.

RPLの基礎疾患と血管原性浮腫
Hincheyらの報告1)では,15例の基礎疾患の内訳は,肝移植4例,子癇3例, SLE2例,急性腎炎,肝腎症候群,再生不良性貧血,骨髄移植,腎移植,悪性黒色腫がそれぞれ1例ずつだった.15例に共通する病態として,高血圧性脳症,あるいはサイクロスポリン,タクロリムスの使用が挙げられている.
Hincheyらは,自験例の多くで,高血圧が合併していること,意識障害,痙攣,視力・視野障害といった症状が高血圧脳症や子癇と共通していることから,RPLでは,脳循環の自動調節能を凌ぐ血圧の急激な上昇により,血液脳関門が障害され,血漿成分の漏出から浮腫,白質障害が起こるという,高血圧脳症や子癇と同様の病態を想定した.一方で,シクロスポリンやタクロリムスといった免疫抑制剤については,血管内皮細胞障害による血液脳関門の障害が白質病変の原因となっている可能性考えた.
その後報告が積み重なるにつれ,表のように,病態に共通性を見出せない数多くの疾患でもRPLが報告されるようになった.その中には,Hincheyらが重視した高血圧症,免疫抑制療法を欠いている症例も数多く含まれている.つまるところ,血管内皮を含む血管壁の障害であろうと,電解質を含む血液成分の異常であろうと,血液成分が血管外に漏出し,脳浮腫が生じさえすれば,原因の如何にかかわらずRPLとして報告されることが,基礎疾患の多様性につながっている.したがって,高血圧症の存在や免疫抑制剤の投与はRPL発現の必要条件ではない.我々の症例でも,入院時から高度の高血圧はなかったし,その後,全身痙攣で発症する第12病日までは,血圧を含めて全身状態は安定していた.また免疫抑制剤は一切投与されていない.

表 RPLの基礎疾患
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○高度の高血圧症(腎障害,子癇) 1)
○肝不全,肝移植1)
○薬剤
シクロスポリン・タクロリムス1),シスプラチン16),メソトレキセート・シタラビン髄注17)
○膠原病・自己免疫疾患
SLE1), 血栓性血小板減少性紫斑病18),ウェジナー肉芽腫症19)
○血液系悪性腫瘍20)21)
○内分泌・代謝疾患
褐色細胞腫22),高カルシウム血症23)
○HIV感染24)
○神経疾患
てんかん25),クロイツフェルト・ヤコプ病12) ,頭部外傷26)
○過酸化水素中毒27)
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PRLとCPM/EPM
我々の症例では,低ナトリウム血症補正後の白質病変との観点から,CPM/EPMと診断したが,両側後頭頭頂葉白質の左右対称性病変を含む白質病変が著明に退縮した点では,典型的なRPLと考えられる.髄鞘崩壊は,通常不可逆的な病変を想定しているが,CPM/EPMでも,少なくとも初期病変は浮腫であり,画像病変は著明に退縮しうることを本例は示している.このようにCPM/EPMの病変に可逆性を認めれば,CPM/EPMとRPLは同じ病態を違う面から見ているに過ぎない場合もあると思われる.
Hincheyらの報告1)では,血清ナトリウム値については全く言及されていないが, CPM/EPM の危険因子である肝機能障害(肝移植4例,肝腎症候群1例)が,15例中5例、また,15例中5例で血清クレアチニンが3mg/dl以上であり,腎不全による水利尿の障害から,低ナトリウム血症を起こしていた可能性も否定できない.従来,脳幹に及ぶPRLとして報告されている例7) 8)も含めて,CPM/EPMとの異同の観点から,PRLの既報告例を今一度検討する必要があろうし,今後,症例報告を行う場合も,同様の注意が必要である.

RPLはreversibleか?
RPLが,血液脳関門の障害による血管原性浮腫だけでは説明できず,髄鞘への直接障害を考慮しなければ場合もある.Hincheyらは1),シクロスポリンやタクロリムスが血管内皮を障害する可能性を考えているが,シクロスポリンは,ニューロンやアストログリアよりもオリゴデンドログリアに対し強い毒性を持つとされている9).シクロスポリンやタクロリムス投与例でのRPLは,血管性浮腫ではなく,これらの薬剤による髄鞘への直接障害を見ている可能性も十分ある.髄鞘の障害でよく知られているメタノール中毒で,RPLに酷似した画像病変が報告されている10)ことも,RPLが,必ずしも血管原性浮腫だけではないことを示唆している.また,血管原性浮腫が著明となれば,その浮腫自体が白質の循環障害から,不可逆的な虚血性の髄鞘病変に至る機序が指摘されている11)
このように,病態・発症機序の面から,reversibleという言葉に反して病変が不可逆性となる場合があると考えられるが,臨床症状の面からも,RPLの報告が増えるにつれて,基礎疾患にクロイツフェルト・ヤコプ病12)のような不可逆性,進行性の病態も含まれてしまっている. Hincheyらが当初報告した病態と同様の症例でも,不可逆的な病変,後遺症を残す例13)14)があり,reversibleという言葉は誤解を招くと,Stottら13)は指摘している.
我々の症例6)でも,画像上はほとんど瘢痕化した病変となったが,臨床的には明らかな高次機能障害が残ってしまった.基礎疾患の重篤性,予後の悪さを考えれば,その合併症であるRPLが,必ずしも可逆的ではないことは容易に想像できる.また,RPLは多くの場合,けいれん,意識障害で発症し,脳画像検査を行ってはじめて診断されるわけだから,たとえ迅速に治療を開始しても,予後は必ずしも良好ではない.
画像病変の主体が浮腫であるとすれば,ある程度の可逆性はもちろん期待できるわけだが,だからといって,可逆性を一律に主張することは,不幸にして後遺症が残った場合に,対処が遅かったとの非難を招くことにもなりかねない.たとえreversibleと呼ぶにしても,画像病変の可逆性と,臨床的な後遺症の有無を区別して考えねばならない.
では不可逆的な経過をとり,予後の悪いRPLを鑑別する方法は何かあるのだろうか?Ayら11)は,RPLが可逆性の場合には,MRIは典型的な血管原性浮腫の所見を示したが,不可逆性の場合には,皮質の一部では,見かけ上の拡散係数(apparent diffusion coefficient: ADC)の減少と拡散強調画像での明らかな高信号が観察され,浮腫ではなく,梗塞を示唆する所見があったとしている.Covarrubiasら15)は,22例のRPLと18例の対照例を比較検討し,T2と拡散強調画像での病変が高度なほど不可逆的であること,また,拡散強調画像で異常があるにもかかわらず,本来低下すべきADCが正常な場合を,pseudonormalizedと呼んで,高率に不可逆的な病変に移行するとしている.

なぜ,posteriorなのか?
RPLがなぜ内頚動脈系(前方循環系)ではなく椎骨脳底動脈(後方循環系)に好発するかという問題に対して, Covarrubiasら15)は,直接の証拠はないものの,椎骨脳底動脈系では内頚動脈系に比べて,脳循環の自動調節能に重要な交感神経系の支配が乏しいため,脳循環自動調節能の破綻により生じる血管原性浮腫が生じる場合には,椎骨脳底動脈系が好発部位となると説明している.
しかし,前述のようにRPLが血管原性浮腫だけでは説明できない以上,前後の脳循環系間の交感神経支配の差だけで,RPLの好発部位を説明するは困難であろう.脳血液関門,白質局所の循環動態,白質の線維走行といった要素も考慮する必要があると思われるが,本論の範囲外となるので,本特集の他の総説を御覧いただきたい.

RPLという疾患概念の臨床的意義
Hincheyらの業績1)は,それまで概念があいまいだった高血圧性脳症の病態を,印象的な画像病変とともにRPLとしてまとめたことにある.しかし,画像病変自体が,高血圧性脳症以外にも様々な原因で生じることが明らかとなり,また,経過も,必ずしも可逆的とは言えないことから,もはやRPLは単一の疾患とはいえない.したがって,今日のRPLの臨床的意義は,それを症候群と捉え,その基礎疾患の診療を的確に行うことにある.そこで求められるのは,血圧のコントロール,電解質異常の補正,副作用を起こしている薬剤の特定といった,臨床医がすべからく身につけておくべき基本的な診療である.
RPLの原因が多様なだけに,神経内科医以外の臨床医がRPLに遭遇する機会も多いだろう.RPLの基礎疾患には,意識障害や全身痙攣発作で発症し,迅速な治療介入が要求される病態が非常に多いので,神経内科医へのコンサルテーションを待たずに,担当医が診断を下して治療を開始することが要求される.ここまで読んでいただいた読者にお願いしたいことは,RPLの知見を神経内科医の間に留めることなく,他科の医師と共有することである.それが,自分の周囲で行われる日々の診療水準の向上と患者の安全,ひいては自らの身の安全につながると信じている.
 

文献
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