科学者の興味対象の歴史的変遷

おそらく,航海術からの要請という実用的な面もあったのだろうが,15世紀から天文学が発達して物理学の発達にも進展した.天文学・物理学は,物体と物体の間の関係への興味の結果生まれた学問.しかし,大航海時代を迎えて,地球レベルの縄張り争いが起こった.そこで,軍事力の保持のために,医学・生命科学が発達した.関連した有名な事例として,ナポレオンのモスクワ遠征では,フランスを出た時の60万の大軍が,モスクワに着いた時に9万となっていたのも,その多くは発疹チフスによる損失だったし,また日露戦争の際の日本陸軍では,戦死・戦傷者による戦線離脱者よりも脚気による戦線離脱者の方が多かった

このように,医学・生命科学の発展によって,結核をはじめとする感染症のコントロールを中心に人々の幸せに貢献するような成果が20世紀の半ばまでは確かに生まれた.

ところが,それ以降,医学・生命科学のoutcomeはとても惨めなものになっている.やれ遺伝子だの分子生物学だのといった言葉は単に研究費を稼ぐだけの流行語に過ぎず,一発芸の芸人のごとく,現われては消え去っていく運命だ.

従来の医学・生命科学は生命体個体に対する興味から生まれたものだ.だとすると,次は生命体同士のコミュニケーション・ネットワークに科学者の興味が移っていくだろう.ちょうど,天文学・物理学が,物体と物体の間の関係を解明することによって,航海術に貢献したように,行動科学・心理学が人間同士のコミュニケーション・ネットワークを解明することによって,人間世界での人間自身の航海術に貢献するだろう.

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