規制当局にとってのMedia & Public Relations

ある日のメールから:

◆ 2004.8.25 サンフランシスコ市、ED治療薬乱用がHIVなど性感染症増加招くとFDAに対策を要請
サンフランシスコ市公衆衛生局は8月23日、米国食品医薬品局(FDA)に対し、勃起機能障害(ED)治療薬の乱用による性感染症の増加に対処する措置をとるように要請したことを明らかにした。

少なくとも日本よりは、余計なお節介をしない小さな政府、自己責任・リスクの自己判断を優先する国民性の国においてさえ、こんなことまで、規制当局が口出しすることを要求されるのを見ると、同情を禁じえません。でも、FDAにはきちんと対応部署があるんでしょうね。

一方、今週号のランセットに、Ejecting the FDA from the courtroomと題して、FDAの承認に対する司法判断に、FDAが介入しようとする動きを批判するEditorialが載っています。SSRIによる自殺リスクの件と、緊急避妊薬のOTCとしての販売承認の件を例に挙げています。
Editorial: Ejecting the FDA from the courtroom Lancet 2004;364:638

我々の場合は、ただサンドバッグのように黙って叩かれるだけですが、さすが、FDA,、裁判所に対してロビー活動をするスタッフも確保しているのでしょう。弁護士を抱えていれば当たり前か。(先日、職員援助プログラムという、ストレスを感じた際に精神科医に相談できるシステムを紹介するパンフレットをいただきましたが、嘱託弁護士の方が、精神科医よりも、管理職の方々のストレス削減に大いに役立つのではと思いました)

我々は、審査の過程で、上市した場合、一般市民がその薬剤の登場,存在価値をどう受け取るかを考慮しますが、しばしば予測困難です。また、上市後、予想もしていなかったリスクも生じますから,一般市民の受け取り方も変化します。その時に、”我々は科学的判断をした”とすましてばかりはいられません。規制当局は、個々の企業よりも関与する品目が多いだけに、単なる一企業よりも、Media & Public Relationsでトラブルに巻き込まれる確率がはるかに高くなります。だから、Media & Public Relations専従の部署が必要なのです。たとえば、規制当局ではありませんが、Johns Hopkinsの医学部では、Media Relationsの部署に15人ほど配置されています。FDAはどうしているのでしょうか。

イレッサの時のように,真っ当な審査をしたにもかかわらず,とんだとばっちりに巻き込まれた時のあの不愉快な出来事の数々。そういう被害をできるだけ抑えるのが、Media & Public Relationsという観点からの危機管理です。もちろんこれは弁護士がいればいいとうものではなく、メディアといい関係を保ちながら、時には切った張ったで渡り合う人材が必要なので、機構では夢のまた夢と、みなさんお考えになるかもしれませんが、そう考えていると、いつまでたっても何もはじまらずに、またもやとばっちりに巻き込まれて、本来の仕事が止まってしまいます。その時の被害の大きさを考えたら、人材の投資・育成は安いものだと思いますが、どうでしょう。

目次へ戻る