パーキンソン病10年目の方から

98/2/24受付
突然お便りする御無礼を御許しください。インターネットで見かけお便りした次第です。私はParkinson病と診断されてから10年目を迎える主婦です。現在まだお薬は効いていますが、薬のきれる夜9時から朝薬を飲んで効くまでの8時までは動くのが辛い毎日です。薬の効いている日中はほとんど普通に生活出来ますが、近頃はその時間も短くなってきました。3年前に定脳位手術を受けましたが右側を残しております。手術を受けた後のすがすがしさは消え去り,少しずつ左側のほうにも麻痺関、硬直感を感じるようになりました。なんとか進行を遅くする法はないか?治す法はないものか?とさがしています。機能食品も試したりしています。

いつも頭にあるのは
1.10年も経過しているのだから、良い方と思ってこのまま主治医のだす薬を飲み続けるべきか
2.言語障害もありうるという定位脳手術の右を受けるべきか.ikeda先生は2年しかきかないと書いておられますが2年でもよいから進行を延ばせるならとも思ったりします
3.移植手術を受けたほうがよいか。受けるとしたらどこの施設がよいか
4.アメリカでおこなわれいるという亡くなった胎児からのド-バミン移植はどうか    
5.又戻りますが、自分の運命を受け入れるべきか。皆辛い思いをしながらも受け入れざるをえないのが病気、難病でしょうが、そう思いながらも時々何か良い方法があるのではないかという思いにかりたたれ本を読んだり、インターネットを開いたりするわけです。    

お忙しいとは存じますがお返事をいただけましたら幸いです。

回答
池田です.お手紙ありがとうございました.早速ご質問にお答えいたしますが,文面を通してだけのお答えには自ずから限界があることをご理解下さい.電話やお手紙で回答する時は,どんな名医でも,実際にお会いして診察するやぶ医者以下の能力になります.

1.10年も経過しているのだから、良い方と思ってこのまま主治医のだす薬を飲み続けるべきか
お手紙を拝見する限りでは,経過,治療に対する反応性ともに典型的なパーキンソン病で,治療の選択も適切に行われていると思います.従って担当医を替える積極的な理由は見あたりません.今の治療が確実に最善であるという証拠はありませんが,何が最善かを判断するのは非常に困難です.現在の治療が悪いというはっきりした証拠がなければ,担当医とあなたが協力して積み重ねてきたこれまでの知識と経験を,また新たな担当医とともにやり直していくには,労力が多すぎるように思えます.

2.言語障害もありうるという定位脳手術の右を受けるべきか
手術は視床VL核の手術でしょうか,それとも後腹側内側淡蒼球の手術でしょうか?どちらの手術かで,話が随分違ってくると思いますが,私は自分の受け持ちのパーキンソン病の患者さんで手術を受けた方がおらず,また周囲の同僚や先輩も手術成績に詳しい人がいないので,この質問に正しく答える自信はありません.やはり実際に手術をしている脳外科医にコメントを求めるのが一番だと思います.担当医はどのような意見を持っていますか?手術を受けた施設ではどのような説明を受けましたか?

3.移植手術を受けたほうがよいか。受けるとしたらどの施設か
4.アメリカでおこなわれいるという亡くなった胎児からのド-バミン移植はどうか
パーキンソン病に対する移植手術に関しては,移植片,術式,対象患者の選択など,様々な点で手探りの状態が続いており,何処の誰の手術がいいということは現時点では誰にもわかりません.いつの世でもそうですが,確立していない治療法の効果というのはくじ引きの結果のようなものです.テレビをはじめとしたメディアに出てくるのは万馬券を当てた人だけで,その影にいる無数のはずれ馬券の人たちのことは決して出てきません.競馬をやるなとは申しませんが,どの馬に賭ければいいかは全くわかりません.

5.又戻りますが、自分の運命を受け入れるべきか。皆辛い思いをしながらも受け入れざるをえないのが病気、難病でしょうが、そう思いながらも時々何か良い方法があるのではないかという思いにかりたたれ本を読んだり、インターネットを開いたりするわけです。    

これは病気に限らず,人生の苦難という,極めて普遍的な問題ですね.あなたの苦悩を解決する魔法の薬を私が持ち合わせているわけではもちろんありません.しかし,インターネットであれ,医学書であれ,悩んで悩んで,いろいろな所の戸をたたくのは,決して無駄なことではありません.少しでも良くなりたいと願い,様々な可能性を追求するのは人間の自然の姿だと思います.人が自分の人生を生きる価値を見出すのは,哲学書の中でも,聖書の中でもありません.現実の苦悩と向き合った日々の生活の中です.

あまりお役に立たないご返事だったかもしれませんが,患者さんに対して医者のできることはごくわずかです.これに懲りず,またお手紙をいただければ幸いです.

お返事
おろかな質問に快くお答えいただき、ありがとうございました。見も知らぬ方にこのようなお話をしたのは初めてです。顔の見えない気楽さからでしょうか?誰かに聞いてもらいたかったのかもしれません。

手術は定位後腹側淡蒼球手術でした。手術をする前は、体をまっすぐたてることもままならずイザリのように移動し、尿意を頻繁にもようし、体中がしめつけられてぐっすり寝られず、薬が効きはじめると不随意に悩まされ、いつも頭にあるのはいかにして死ぬかでした。

手術後これらはかなり解決されたように思います。手術前は少しでも良くなったらよしとしなくてはと殊勝に思っていたのですが、体が軽くなり、笑うことも出来るようになると 前の苦しさに戻りたくないともがいている訳です。この手術は左右両側しないと完全なものにならないと,執刀した先生はおっしゃっておりましたが、前にも書いたように障害が心配です。でも池田先生のお手紙を読み執刀した先生にお便り(このあと不明)

主治医の先生は手術をしたいという私の願いを快く聞いて下さり紹介状を持たせてくださいました。最も手術して帰ってきた私に”輸血をしたのか”と問うただけでしたが。

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