機構とばしの現実性

問い:日本では薬事法で規定される治験以外の臨床試験や臨床研究に対して(倫理指針等は存在しても)法的な規制は存在しませんよね。 では全くの未承認薬(GMPに準拠しているか不明なもの)を使用して何らかの臨床試験(治験ではなく)を医師とかが行うことは可能なんでしょうか?

答え:薬事法の縛りがかかる臨床試験=治験が,この世の中の臨床試験の全てであれば,未承認薬の提供は治験以外では無理だ.しかし,現実に は,個人が未承認薬を輸入し,治療に使われている.この治療行為は,薬事法の枠外で行なわれているので,薬事法違反に問われることはない.

薬事法でも、医師法でも、医者や患者が海外から未承認薬を買っておいしゃさんごっこをするのは止められない。東大臨床試験部も、” 未承認薬は、買え”と言っている。強盗せずに、身銭を切って買えば、”試験”はできる。ただし,未承認薬だから,健康食品の個人輸入と同じで,各人の自己 責任でやっていただく.原則として国は責任を持たないということである.また,薬事法の枠外で行なわれる試験だから,試験の結果がどんなに素晴らしいもの であろうとも,企業が承認申請するためのデータとしては認められない.

たとえ医師主導でやろうとしても,その未承認薬で商売をする(承認申請をする)気が企業に全くなければ(実際に,患者数が極端に少なく, 利益が出ないなどの理由で承認申請が行なわれない薬もある),どんなに医師主導臨床試験をやっても,論文にはなるかもしれないが,GMPで品質保証された 薬を患者さんに届けることはできない.

とまあ,ここまでは模範回答.以後は模範でない回答.

薬事法の網がかからない臨床試験は,実際におおっぴらに,たくさん行なわれ,試験された物は商品にもなっている.具体的な事例としては、特定保健食品(いわゆるトクホ,国家公認みのもんた),高度先進医療とか、「高度でない先進医療」とかがある。これらの商品は,PMDAの審査を経ていないだけに,有効性,安全性もいかがわしいものばかりだが(ただし,PMDAの審査がいかがわしいといちゃもんをつける連中はたくさんいる.そういう連中に審査をやってもらいたいもんだが),購入する方は,PMDAの審査を経た医薬品よりも,”効き目が穏やかな”トクホや高度先進医療の方をありがたがる傾向にあるから,将来,治験や審査を嫌う企業が,売れればいいとばかりに,製品によっては,トクホや高度先進医療の方に走る可能性がある.

このような機構とばしが多発した場合,その有効性・安全性に対して,具体的に言えば,トクホで健康被害が生じたり,高度先進医療で事故が起こった場合,誰が責任を持つのだろうか?

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2006年2月の日経MedWaveから:
 自治医大、わが国初のパーキンソン病を対象にした遺伝子治療を申請

 わが国で初めてのパーキンソン病を対象にした遺伝子治療研究の実施計画の申請が行われた。自治医科大学附属病院が行ったもので、2月1日 に開催された厚生科学審議会科学技術部会で公表されたものだ。また、同部会では北里大学病院の前立腺がんを対象にした遺伝子治療臨床研究の実施計画が申請 されたことも公表され、わが国で実施または申請された遺伝子治療研究は21件となった。両計画とも今後、厚生科学審議会遺伝子治療臨床研究作業部会で検討 されることになる。

 自治医科大学附属病院が申請した遺伝子治療研究は、進行したパーキンソン病患者の線条体(被殻)に芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素 (AADC)遺伝子を組み込んだ2型アデノ随伴ウイルスベクターを定位脳手術的に4カ所注入するもの。AADCはL-DOPAをドパミンに変換する酵素で あり、治療を受けた患者が経口投与されたL-DOPAでドパミン産生を促進させ、症状の改善が期待できるものだ。2型アデノ随伴ウイルスは神経細胞への特 異性が高いことが明らかにされている。ウイルスベクターの供給元は米Avigen社。対象患者は9症例の予定で、注入するウイルス量は3群を予定してい る。第1群での注入量(vector genomes:vg)は1症例あたり3×1011vg、第2群は9×1011vg、第3群は第1群と第2群の安全性評価、治療効果に応じて用量を調整す る予定だ。
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