禁煙外来の光と陰

驚くほど簡単に禁煙してしまったS君(25才)の評判を聞いて,禁煙希望者がぼちぼち外来にやってきました.外来を始めて気づいたことは,若い人,例えば国策の絶好のターゲットとなり喫煙率が上昇している20−30代の女性でも,止めたいと思っている人はたくさんいることがわかりました.ただ,適切なニコチン依存症の治療の場がないだけなのです.

若い女性が進んで外来に来てくれて,じっくりお話ができて,その上,その人のお役に立てるなんていうのは,医者になってから18年ではじめての経験なので,禁煙外来の勉強には必然的に力が入ります.しかし,禁煙外来のノウハウをちょっとかじっただけで様々な障害にぶつかりました.

1.膨大な自己負担と自由診療:
禁煙を目的だけに外来受診し,処方を受けるのは全くの自由診療です.実際に医事課の請求書を見せてもらいました.初診料2500円,(紹介状なしの初診なので)特定療養費1500円,そして精神・理学療法料(私がお話しした手数料)で810円の合計4810円.ああ,こんなに金取っちゃって・・・再来してくれるのかなあ.患者さんはその上にニコチンパッチのお金(ニコチネルTTS:一日一枚貼って430円.これを4週間.あと,一日400円を2週間,380円を2週間)のお金も払うんだから・・申し訳なくて・・・外来続けられるかなあ.禁煙外来に来てくれる患者さんには後光が差します.

国策会社とタバコ栽培農家を守るため,”タバコ半減”のスローガンを厚生省の宣言に入れるか入れないかだけで大騒ぎするぐらいですから,当分保険診療にはならないでしょう.でも,そもそもホームページの表紙に”タバコにサヨナラ”なんてのたもうている役所がどうして禁煙外来の保険診療,ニコチンパッチ・ガムの保険適応を認めないの??

また自由診療と保険診療を同時にしてはならないという縛りがあります.でも上記のように咳が出てタバコをやめたいという患者さんの要求に応じたら,請求はどうなるの?

2.経営上のメリットなし:
当然患者さんとはじっくり面談しないといけません.患者さんの負担を考えると極力検査もやりたくない.だから,自由診療といっても病院の収益にはあまり寄与しません.そんなこと考えるなよと言われても,近年の国立病院は金,金,金の大合唱.

3.関心を持ってくれる人が少ない:孤立無援の診療:
私の勤めている病院は精神科のベッドを280床もかかえています.ニコチン依存症は,精神科の診断基準書DSM-IVでも扱われている立派な薬物依存症です.上記のように外来でじっくり時間をかけて話を聞くのは精神科医の得意とするところだし,患者さんが”病気を治したい”と言って来てくれるなんて,素晴らしい診療だと思うし,これから患者数が増える領域で,精神科でパイオニアになれるし,アルコール依存の診療よりも,より希望の持てる外来だと思って,精神科医に,”アルコール依存の診療をするのに,ニコチン依存症の診療をしないのはなぜ?”と尋ねても,”アルコール依存は精神症状を起こすけど,ニコチン依存は精神症状を起こしませんからねえ”などと答えをもらう始末.味方になってくれると思ったのが甘かった.

思えば精神科病棟の多くはタバコ吸い放題なのでした.これは精神科患者に対する差別です.精神科の患者は,精神科の医者から健康を維持する権利が否定されているのでした.ただし当院でも,改装された閉鎖病棟には,喫煙室が設けられていて,タバコの煙が蔓延する状態は脱しました.また,例外的に精神科でもニコチン依存の問題に積極的に取り組んでいるところもあります.

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