これがホントのRWE

薬価の規制がきつい日本でもランタス,レベミルはヒューマリンNの2倍以上の値段である.それが米国では10倍以上だとのこと.なるほどリアルワールドのエビデンス取得にも力が入るわけだ.(この論文のデータはKaiser Permanenteから提供されている!!)

設定された一次アウトカム指標も,リアルワールドならではの,「低血糖関連救急科(ED)受診 /入院リスク」!承認前の治験では不可能なハードエンドポイントだった.ではそれがどうだったか?

治療開始後平均観察期間1.7年の間に起こった低血糖関連救急科(ED)受診 /入院は,インスリンアナログ群で11.9 events [95%CI, 8.1 to 15.6] per 1000 person-years) だったのに対し, NPH 群では 8.8 events [95%CI, 7.9 to 9.8] per 1000person-years.群間差は, 3.1 events [95%CI, −1.5 to 7.7] per 1000 person-yearsでP = 0.07.またpropensity scoreでマッチさせた4428 人で, NPH 群に対するインスリンアナログ製剤群の補正後のハザード比は 1.16 (95%CI, 0.71 to 1.78) .つまり有意差はないが,むしろ値段の高いインスリンアナログ群で低血糖イベントがやや多い傾向があった.

さらに二次アウトカム指標としての治療開始後1年後のヘモグロビンA1cの値は,下記のようにNPH 群の方が良かった!!
インスリンアナログ群9.4% (95%CI, 9.3%to 9.5%)→ 8.2% (95%CI, 8.1% to 8.2%)
NPH 群9.4% (95%CI, 9.3%to 9.5%) →7.9% (95%CI, 7.9% to8.0%)
補正後群間差:−0.22% [95%CI, −0.09% to −0.37%].

このような優れたリアルワールドエビデンスに対し,JAMAのEditorialが,いろいろとlimitationを指摘している.つまりいちゃもんをつけている.もう少し穏やかに表現をすれば,無い物ねだりをしている.

●曰く,低血糖そのもののモニタリングではない←少なくともこの研究が行われた当時,持続血糖モニタリングCGMは,リアルワールドのアウトカムにはなり得なかった.何しろ,最初のCGMデバイスの承認自体がようやく今年つまり2018年3月末だったのだから.
●曰く,この研究でNPHを処方されている患者の方が92%と圧倒的に多いのは,値段が10倍もするインスリンアナログの処方率の方が圧倒的に高い最近の現状を反映していない,つまり「リアルワールドエビデンスではない」←だから,そういう「リアルワールド」を問題にしているんだろうが.
●曰く,コントロール不良(平均HbA1c 9.4%)の群を対象にしており,コントロール良好群でのアウトカムが不明である←リアルワードでは,インスリンを導入するのは,コントロール不良と相場が決まっているということを,このeditorialistはご存じないらしい.
●交絡因子が排除しきれていない.←交絡因子を完全に排除できないのがリアルワールドだということも,このeditorialistはご存じないらしい.

この研究の非常に優れた点は,救急外来受診・入院という,正にリアルワールドイベントを指標にして,インスリン投与による低血糖という極めて重要な安全性の問題を,新薬と先に上市されている既承認薬とで比較した点にある承認前の臨床試験では絶対やらないこと,承認後にしかできないことを,リアルワールドで検証し,可能な範囲の中で最も良質なエビデンスを提供してくれた業績には,心から感銘を受けた.

10倍以上値段の高い「後発品」の方が,安全性が低く,有効性が高い!!一体何のための治験,何のための承認審査,何のための薬価だったのだろうか?そしてこの極めて頑健なRWEは,これからどのように現実の米国薬価,さらには日本の薬価に反映されるのだろうか?この研究結果の日本への外挿可能性は?そのまま使える?それともブリッジング(!)が必要?もしそうだとしたら,鳴り物入りで登場したMID-NETとやらの出番は如何に!?
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2型糖尿病の安いNPHインスリン治療開始は高価な基礎インスリン様製品に劣らず
2018-07-04 -
2型糖尿病患者25,489のデータを見返した(retrospective)観察試験の結果、より新しくて高価な持効化インスリン(基礎インスリン様) 製品<Lantus(insulin glargine)やLevemir(insulin detemir)>使用開始は古くからある安価なプロタミン添加(NPH)インスリンに比べて血糖制御の改善をもたらさず、低血糖関連救急科(ED)受診 /入院リスク低下とも関連しませんでした。    2型糖尿病患者は一般的に基礎インスリン様製品ではなくNPHインスリンによる治療開始を考慮すべきと著者は言っています。

Study: Older insulin forms as effective as newer type 2 diabetes drugs / UPI
Basal Insulin Doesn't Cut Hypoglycemia Risk Vs NPH in T2D / Medscape
Human insulin as safe and effective to treat type 2 diabetes as costlier insulin analogs / Eurekalert
Association of Initiation of Basal Insulin Analogs vs Neutral Protamine Hagedorn Insulin With Hypoglycemia-Related Emergency Department Visits or Hospital Admissions and With Glycemic Control in Patients With Type 2 Diabetes. JAMA. 2018;320(1):53-62. doi:10.1001/jama.2018.7993

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参考:このJAMAの論文の直ぐ後にAnn Intern Medに出たSystematic Review & Network Meta-analysisの結論でもbasal insuli analoguesの評判は決してよろしくない.まともな医者にとってはNPHからbasal insuli analoguesに乗り換える理由はどこにも見当たらない
Comparative Benefits and Harms of Basal Insulin Analogues for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Network Meta-analysis. Ann Intern Med. 2018. DOI: 10.7326/M18-0443
Conclusion:Low-quality evidence suggests that basal insulin analogues for T2DM do not substantially differ in their glucose-lowering effect. Low- and very-low-quality evidence suggests some regimens may be associated with lower risk for nocturnal hypoglycemia (Deg-100, Deg-200, and Glar-300) or less weight gain (detemir and Glar-300).

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